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善吾賞
 PLEASE 2012発表&ICSE 2012聴講レポート


報告者 / 新原 敦介 (日立製作所)

写真/スイスの街並み
[写真1] スイスの街並み

2012年6月上旬 スイス チューリッヒで開催された国際会議ICSE 2012及びワークショップPLEASE 2012に参加してきました。本レポートでは、これらのイベントの概要と、報告者が行った発表の概要と会場の反応をご紹介します。

ICSEとは

ICSE(International Conference on Software Engineering) とは、ソフトウェア工学分野の中で、最大かつ権威のある国際会議の一つで、「イクシー」と読みます。このICSEは、毎年5月か6月に開催され、研究テーマごとに多くの会議やワークショップも併設されます。ICSEの歴史をみると、1975年ワシントンDCにて第一回が開催され、日本では1982年第6回が東京、1998年第20回が京都で開催されました。
2012年は、スイス、チューリッヒにおいて6月6日から6月8日の3日間、開催されました。今年の参加者数は850名で、ここ12年で最大の規模となったそうです。
報告者は、このICSE 2012の併設ワークショップPLEASE 2012にて発表を行い、ICSE 2012を聴講してきました。

PLEASEとは

図/予約表[図1]予約表

PLEASE(International Workshop on Product LinE Approaches in Software Engineering) とは、ソフトウェアプロダクトラインに関するワークショップです。今回のPLEASEは3回目を数え、6月4日に開催されました。17件の発表があり、33名の参加となりました(発表者含む)。本ワークショップは、参加者がそれぞれ研究を10分ずつ発表するプレゼンテーションセションと、1対1の議論を参加者の間で繰り返すコラボレーションセションの二部構成で行われます。 特に、コラボレーションセッションでは、全員の発表が終わった後に、予約表([図1]参照)に、話を聞いてみたい人の予約を書きこむ形をとるため、発表の内容や説明によって、予約が殺到したり空きができたりします。その分、興味を持ってくれる方と1対1で議論ができ、発表に対するフィードバックを得やすくなっています。

発表の概要と会場の反応

写真/オープニング会場の様子
[写真2] オープニング会場の様子

報告者は、昨年度に受賞したJaSST'12善吾賞の副賞である海外発表助成制度を利用し、PLEASE 2012にて発表を行いました。発表内容は、受賞した内容である、業務用空調機のシステムテストを対象とした構成の選択方法を発展させ、プロダクトライン開発において応用する手法の発表です。
プレゼンテーションセッションは、各発表に質疑時間は用意されておらず、私の発表だけではなく全ての発表で会場の反応が薄い状況でした。私も10分喋り続けたのですが、私の英語で通じたのかどうかさえ分からず、発表後は戦々恐々としておりました。
コラボレーションセッションでは、いくつか予約を頂いて、ほぼ枠が埋まり、たくさんの方と議論させて頂きました。議論中の印象では、発表で方向性は伝わったものの、提案する技法の詳細が分からない方が多かったのですが、これは、スライド5枚程度で10分発表という制限があったため、ある程度予想しておりました。議論する際に、手元に補助資料を用意することで、カバーできたと思います。その後、2名から問い合わせを受けて、私の取り組みとは別観点で、プロダクトライン開発におけるテストの既存研究をいくつかアドバイス頂きました。その多くが2011年以降の研究であり、自分の方向性が潮流に合致していることを確認できたので、今後も引き続き、既存研究を調査し研究を深めていこうと思いました。

ICSE2012におけるテスト技術動向

ICSE 2012には、テクニカルリサーチセッションが24個あり、そのうち2つがテスト関連でした。"Testing Session"と、"Test Automation"です。また、適用事例トラック(Software Engineering in Practice Track)にも、"Testing"というセッションがあります。これら3つのテストセッション以外にもテスト関連の発表が3つあり、ソフトウェア工学全体の中でもテストはホットトピックだと分かります。テストセッション3つのそれぞれの発表を簡単にご紹介します。

[Test Automation]

  • Automated Oracle Creation Support, or: How I Learned to Stop Worrying about Fault Propagation and Love Mutation Testing (KAIST South Korea, University of Minnesota)
    テストにおける正解データの自動生成手法の提案.
  • Automating Test Automation (IBM Research)
    Webアプリケーションを対象としたテスト自動化用のスクリプトの自動生成手法の提案.
  • Stride: Search-Based Deterministic Replay in Polynomial Time via Bounded Linkage (Hong Kong University of Science and Technology)
    Pairwise法に機械学習を組み合わせて、カバレッジが高いまま組み合わせ数を減らす手法の提案.
  • iTree: Efficiently Discovering High-Coverage Configurations Using Interaction Trees (University of Maryland)
    並行動作するプログラミングのテストにおいて、不具合が発生した時の動作順序を決定的に再現する手法の提案.

[Regression Testing]

  • make test-zesti: A Symbolic Execution Solution for Improving Regression Testing (Imperial College London)
    記号実行を用いて自動で回帰テストを拡張する手法の提案.
  • BALLERINA: Automatic Generation and Clustering of Efficient Random Unit Tests for Multithreaded Code (University of Illinois at Urbana-Champaign, ETH Zurich)
    マルチスレッドコード向けのランダムテストを効率的に自動生成する手法の提案.
  • On-Demand Test Suite Reduction (Peking University, Key Laboratory of High Confidence Software Technologies, University of Nebraska)
    オンデマンドにテストケースを削減する手法の提案.

[Testing Session]

  • Large-Scale Test Automation in the Cloud (Google)
    クラウド上でのテスト自動化をスケーリングする事例紹介.
  • Efficient Reuse of Domain-Specific Test Knowledge: An Industrial Case in the Smart Card Domain (CETIC, STMicroelectronics, Belgium)
    テストに関するドメイン特有の知識を効率的に再利用するための手法として、質問集をパターン化してプロセスを定義した手法の提案.
  • The Quamoco Product Quality Modelling and Assessment Approach (University of Stuttgart, TU Munich, Fraunhofer IESE, JKU Linz, Capgemini, SAP, itestra)
    MISRAやSPICEなど、様々な品質モデルの概念をテストに導入する手法の提案.
  • Industrial Application of Concolic Testing Approach: A Case Study on libexif by Using CREST-BV and KLEE, Yunho Kim, Moonzoo Kim, YoungJoo Kim, and Yoonkyu Jang (KAIST South Korea, Samsung Electronics)
    記号実行を用いたテスト生成の画像EXIF情報ライブラリへの適用事例紹介.

これらの発表をみると、やはりテストの何らかを自動化するという傾向が強く見られます。また、個人的には、"Testing Session"の二つ目は、テスト知識の再利用が困難という運用を意識した課題を解決する手法を提案しており、興味深く感じます。

感想

写真/スイスの車窓から
[写真3] スイスの車窓から

PLEASEでの発表では様々な方との議論ができ、関連研究の紹介も頂き、今後の研究の糧となり大変うれしく感じております。このような機会のご支援をいただきまして、JaSST実行委員会やASTERの方々にこの場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。
ICSEでは、テスト関連以外の様々な発表も聴講して、どれも提案する技法やコンセプトが素晴らしい上に、定量評価が充実していると感じました。ただ、JaSSTなどの日本国内での発表に目を向けると、日本で提案されている技法やコンセプトも負けず劣らずであり、世界で十分に戦えると感じました。まずは私が頑張る必要がありますが、日本のエンジニアも、どんどん国際会議に投稿すべきだと考えております。

以上、このレポートにて、ソフトウェア工学のトップカンファレンスの雰囲気やテスト分野の動向が少しでもお伝えできれば幸いです。

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