HOME > 活動報告 > 国際調査活動 > STAREAST 2011 参加レポート
報告者 / 千葉 美千代 (NPO ASTER)
2011年5月1日(日)~6日(金)に米国/フロリダ州にて行われた「STAREAST 2011」 に参加してきました。カンファレンスの存在は以前より知っていたのですが、開催場所が海外であることや、業務との日程調整が困難などの理由により、常に興味はあったものの参加することなど夢にも思っていませんでした。カンファレンスがJaSST’11 Tokyoにて基調講演を行って下さったLee Copeland氏が運営していること、そして開催時期が5月連休と重なっていたこともあり、これはチャンスが巡ってきたものと解釈して思い切って参加に踏み切りました。日本国内のカンファレンスやセミナーしか参加したことのない私にとって、海外のカンファレンスに参加するのは初めての経験です。結果として、ソフトウェアテストに対する興味を再度奮い起こす素晴らしい経験となったのですが、「これが海外のカンファレンスか・・・」と圧倒されてしまう部分も多々あり、色々な意味で驚きの連続でもありました。その素晴らしさと楽しさを皆さんにお伝えすべく、カンファレンスの一部の模様をご報告します。
STAREASTとは、フロリダ州に本社を置くSoftware Quality Engineering社が主催するソフトウェアテストに関する大規模なカンファレンスです。STAREASTは主に米国東海岸(EAST)方面からの参加者をターゲットとし、毎年春頃にフロリダ州で開催されます。一方、西海岸(WEST)では、姉妹カンファレンスのSTARWESTが秋頃にカリフォルニア州にて開催されます。いずれも、テストマネジメント、テスト技術、テスト自動化やメトリクスなど、ソフトウェアテストに関するチュートリアルやセッションが満載です。ソフトウェアテスト業界ではお馴染みの海外著名人の方々も、講演者としていらしていました。今回のカンファレンスの6日間は、初日がボーナスセッション、次の2日間はチュートリアル、その次の2日間は基調講演とセッション、そして最終日はリーダーシップに関するワークショップという構成でした。
今回のカンファレンス費用ですが、参加した4日間で約$2,500でした。チュートリアル三昧の前半2日間や、期間中の朝食とランチが含まれていることを考慮すると、標準的な相場だと思われます。勿論、「チュートリアルのみ」「カンファレンスのみ」などの参加オプションや早期申込み割引もあります。
フロリダ州オーランドのRosen Shingle Creek(ローゼン・シングル・クリーク)ホテルは、ディズニーランドやユニバーサルスタジオに近い場所に位置している巨大なリゾートホテル施設です。私は空港からレンタカーで向かったのですが、ホテルまでの景色は緑が豊富な平地が広がっていました。ホテルの敷地内に入る際にゲートを通るのですが、警備のおじさんに「宿泊客です」と告げるだけで「OK!」と通してもらえます。こんなセキュリティはどうかと思いますが、これで良いのでしょう。ホテルにはレストランは勿論、コンビニのようなデリやちょっとしたギフトショップもあり、ホテルから外に出ることなく過ごせます。
時差ボケを考慮して金曜の夜に現地入り、週末で何とか体内時計を調節し、初日(日曜)の夕方に来場受付を済ませました。まず、受付にて名前を告げ、ネームタグ、Tシャツ、パッケージ一式を受け取ります。日本のカンファレンスや展示会では名刺を渡すことが多いのですが、ここでは名乗るだけです。米国のカンファレンスらしく、スポンサーのロゴが大きく印刷されたバッグの中に、パッケージ一式としてプログラム兼カンファレンス資料、全セッションの資料が含まれているCD-ROM、スポンサーのパンフレットや、Better Software Magazineの贈呈版が入っていました。並行トラックで受講できなかったセッション資料は、CD-ROMで閲覧可能だったので助かりました。
チュートリアルは2日間設けられており、1日セッションと半日のセッションを選択できます。まず、チュートリアルの前に腹ごしらえです。会場の間の廊下(と言っても、とても広い)にはデニッシュ系のパン、マフィン、ヨーグルト、フルーツや飲み物が朝食として用意されており、食べ放題です。皆さんモリモリ食べていたので、私も負けずにモリモリ食べ、コーヒーのみを手にして会場に入りましたが、他のみなさんはお皿を持ち込んで、引き続き自分の席で食べていました。さすが、海外のカンファレンスは違います。
私は2つの半日セッションと、1つの1日セッションを受講したのですが、いずれも思わず頷いてしまう内容でした。「Becoming a Trusted Advisor to Senior Management」(半日セッション)は、キーワードの「Trust(信用)」に焦点を当てた内容でした。テスト技術そのものではありませんでしたが、コミュニケーションのとり方、人との接し方など、「人の問題」が多く取り上げられるようになってきた今日に相応しい内容でした。「James Bach: On Testing」(半日セッション)では、テスト界の大御所James Bachさんのご子息(恐らく20代前半)による「生まれて初めてのソフトウェアテスト」体験を通し、不具合を検出して再現しようとする思考回路を客観的に観察することができ、とても興味深い内容でした。
1日コースで受講した「Essential Software Requirements」ですが、こちらはJaSST’11 Tokyoにて基調講演を行って下さったLee Copeland氏によるチュートリアルでした。STAREASTではRequirement関連のチュートリアルは滅多に行われないとのことでしたが、現在の業務と関連があったので丁度良い機会でした。こちらは、チュートリアルのタイトルに「テスト」という言葉が含まれていなかったためか、参加人数は他のチュートリアルよりも少なかったようです。講義では、要求の種類、ステークホルダからの要求の引き出し方に加え、要求の収集/開発/検証、プロセスレビュー方法、要求の文書化や振り返りまで、ソフトウェア要求の要点を幅広い範囲にわたってカバーしていました。ソフトウェアテストからは少し離れた内容でしたが、業務に関連していたこともあり、良いタイミングで勉強することができたと思います。
余談ですが、チュートリアルの2日間では、休憩時間にポテトチップやフルーツなどの日替わりおやつが用意されていました。もちろん、皆さんそのままおやつを席に持って行ってチュートリアル後半に臨みます。
2日間にわたって開催されたカンファレンスでは、午前中は基調講演の聴講、午後は各々のセッションに向かいます。期間中は5つの基調講演が行われ、会場にはざっと数えて1000人は下らないと思われる人数が集まっており、ほぼ満席でした。うち、3つの基調講演は信頼関係の築き方/保ち方、良いコミュニケーションのコツ、変化への対応法など「人の問題」に関する内容で、他2つは、カンファレンスの講演者の皆さんによるライトニングトーク、そしてプロのテスト屋として生き残る(サバイバルする)ためのヒントを与える内容でした。講演者のテストに対する情熱が良く伝わった内容でした。最後の基調講演では、テストに対する熱い思いを講演者が語り、終了後には聴講者に「サバイバルキット」がお土産として渡されました。
いずれの基調講演も、技法や品質など、ソフトウェアテストで話題になりやすいオモテ面のみにどっぷり特化せず、それを支えるベースとなるウラ面の要素にも視点を当てていたように感じました。
基調講演の後は、各々のセッションに向かいます。セッションは「テスト管理」、「テスト技法」、「テスト自動化」、「メトリクス」、「パフォーマンステスト」、「スペシャルトピック」の6つのカテゴリに分かれており、2日間で42の講義が行われていました。これに加え、並行してテクニカルプレゼンテーションが行われており、こちらではスポンサー企業による製品やサービスの紹介が行われていたようです。とにかく、選択肢が盛りだくさんであることと、聴講希望のセッションが重なっていることもしばしばあり、良い意味で困りました。
ソフトウェアテスト関連企業が40社ほど集まり、テストツール、テストサービス、トレーニング、コンサルティングなどを個別ブースで紹介しており、小規模の展示会のような雰囲気です。EXPOは参加者同士のネットワーキングの役割も果たしており、カンファレンスの終日には懇親会が行われていました。また、沢山の方にブースを訪れてもらえるよう「Game Day in the EXPO」と称し、スタンプラリーが行われていました。スタンプを集めて応募すると、抽選でギフト券がプレゼントされるしくみです。
テスト関連書籍を販売するコーナーでは、時間を区切って、著者の皆さんによるサイン会が行われていました。また、講演者の方とディスカッションする場や、講演者と1対1で15分間お話が出来る場なども用意されており、文化的背景もあるのかもしれませんが、講演者と参加者との距離が近く思われました。更に、TestLabのコーナーでは、参加者同士のテストスキルを競い合い、誰が一番多くの不具合を見つけられるかというイベントが行われていました。
とにかくその規模の大きさに驚きました。今回は、世界23カ国からの参加があったそうですが、日本からは私だけの参加だったようです。数名の方とお話をする機会があったのですが、インドから参加されている方が多かったように思われます。チュートリアルやセッションでは、講演者と参加者との会話のキャッチボールが頻繁に見られました。意見や質問がある場合は、皆さんが積極的に発言し、そこから議論に発展することもあります。隣に座った方との演習やディスカッションもありました。雰囲気もゆったりしており、スーツの人は一人もいません。学びあり、楽しさあり、食べ物あり、初めて参加した私にとっては何もかもが目新しく、とても楽しく貴重な経験となりました。カンファレンスの構成が「ソフトウェアテスト」のみに偏ることなく広範囲にわたっていたため、業務内容がテストそのものから少し外れている私でも十分に楽しめたのだと思います。
日本国内にも有益なカンファレンスが沢山存在しますが、海外のカンファレンスも楽しいものです。講義の内容だけでなく、プレゼンテーションの仕方や話の例え方なども日本とは異なり、とにかく何もかもが新鮮でした。多少の言葉の壁を心配する方もいらっしゃると思いますが、基本的には受身なことと、資料は手元に配布されるので、プレゼンテーションさえ何とか理解できればついてゆけると思います。「行ってみたい」と思ったその時が旬です。チャンスが巡ってきた時も旬です。是非皆さんも思い切って海外に飛び出し、国内とは違った雰囲気の中で、ソフトウェアテストの楽しさ、素晴らしさ、面白さを新たに発見して頂きたいと思います。
本レポートが、皆さんの海外のカンファレンスへの参加のきっかけになれば幸いです。