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報告者 / 大西 建児 (NPO ASTER)
皆さん、こんにちは。 NPO法人ASTERの大西と申します。
本ページでは、2012年10月19日(金)に南アフリカ共和国 ケープタウンで開催されたISTQBの総会の様子と、10月22日(月)にヨハネスブルグで開催されたテストカンファレンスのレポートをお届けします。
このサイトを訪れた方なら、ソフトウェアテスト技術者のための資格である、ISTQBのことはご存知だと思います。
ISTQBはベルギーを本部に置く国際的なNPOの団体で、以下の様な組織で構成されています。
(http://istqb.org/about-istqb/working-groups.htmlから引用)
ISTQBにおける総会(通称GA: General Assembly)の位置づけは、日本のNPO法人の総会と同じく会員(ISTQBの場合は加盟する各国の資格認定団体 通称NB: National Board)が集まって行う最高意思決定機関となります。
GAの議長は、GAの選挙で選ばれたISTQBのプレジデント(現在はイスラエルのYaron Tsubery氏)が行い、年3回 各NBがホスト国となり、世界のどこかで開催されています。
12年度のGA開催地は3月 ウェリントン(ニュージーランド)、6月 タリン(エストニア)、そしてケープタウンでした。GA開催地はGAによる投票で決められており、13年度の開催地は既に次のように決まっています。
2013年4月 トロント(カナダ)、8月 ヘルシンキ(フィンランド)、11月 リスボン(ポルトガル)
GAにはISTQBの役員であるExecutive Committeeのメンバー、各WG: Working Groupのリーダー、各NBの代表者とNBに所属するメンバー、オブザーバとしてISTQBまたはNBに登録された試験実施団体であるExam Providerと教育実施団体であるTraining Providerの代表者が参加できます。ただし、意思決定のための投票に参加できるのは各NBの代表1名のみとすることで、NPOとしての公平性と中立性を保っています。
GAでは事前に提出されたアジェンダ(議案書)に基づき、朝から晩までたっぷり1日をかけて様々なことが協議/検討/審議がなされます。
例えば、前回議事録の承認、予算審議と承認、ルールの変更・追加などの審議と承認、新規NB加盟の承認、GA開催地の選出、役員選挙、シラバスや用語集作成スケジュールや成果物発行の承認 etc. と幅広い内容となります。
GA開催の2-3日前には各WGによるオフラインミーティングやワークショップが行われます。というのも、各WGメンバーはNBのメンバーだったり、試験実施団体や教育実施団体の社員だったり所属も住んでいる国も多様であるため、GAの機会に合わせて直接ミーティングの場をできるだけ持つようにしているからです。
各WGの他にもGA開催前日には、非公式に様々な話題をディスカッションするオープンな場として、ISTQBのプレジデント主催によるラウンドテーブルが催されています。
この様に、GAは世界各国において第1線で活躍するソフトウェアテストの専門家が集まる場となりますから、ホストを行うNBとしては、このような専門家を講師として招聘するカンファレンスを開催する絶好の機会となります。事実、殆どのGAではカンファレンスが併催されており、2010年に東京にGAを招致したときにはJSTQB主催による国際カンファレンスを開催しました。(http://jstqb.jp/event/conference2010.html)
日本(JSTQB)からは、私とNPO法人 ASTERの石井勇一氏の2名がWGおよび総会に出席しました。
南アフリカまでの道のりは遠く、ケープタウンまでの直行便が無いために、以下の旅程と相成りました。
成田~5時間弱~香港(トランジット2時間弱)~13時間半~ヨハネスブルグ(トランジット2時間弱)~2時間強~ケープタウン
自宅から現地ホテル着を考えると24時間超の長旅となりましたが、今回は道連れがいたため、案外早く着いたような気がします。
ただ治安については、国際都市の中でも最も悪い国の一つであるため、そこは気を付けて行動する様、両名共に心がけました。
ケープタウンにて私はProcess WGに、石井氏はExam WGに2日間それぞれ出席した後、GAに臨みました。
私が出席したProcess WGでは、その名の通りISTQB内のマネジメントプロセスの策定を一手に引き受けています。今回も監査プロセスや教育機関やコンテンツに対するアクレディテーションのプロセスの改善点などについて、集中した議論がなされました。
今回のGAには27のNBの代表が直接出席し、朝から晩までじっくりと時間をかけた協議が行われました。
(直接出席できないNBは事前のE-mailでの投票、または会議システムによる参加が可能です)
本GAで審議され、可決されたものの中でのトピックは、Advanced Levelの新しいシラバス※の発行が承認されたことでした。Advanced Levelの新シラバスの発行に伴い、Glossaryの改訂版発行も承認されました。
Expert Levelでは、正式にテストマネジメントと、テストプロセス改善の2つのモジュールが設定されることが認められました。
※現行シラバスはテストマネージャ、テストアナリスト、テクニカルテストアナリストの3モジュールで1冊のシラバス構成となっていますが、新シラバスでは記載内容を大幅に見直すと共に、モジュールごとに分冊化されました。英語のβ版はこちら(http://istqb.org/downloads/viewcategory/46.html)から入手可能です。
カンファレンスの正式名称『SASTQB Test-IT 2012 International Conference』として、10月18日にケープタウン、翌週の10月22日にヨハネスブルグで開催されました。
私は帰路に当たるヨハネスブルでのカンファレンスに参加してきましたので、その模様をお伝えします。
参加者約160人で、アフリカ大陸で行われたソフトウェアテストの大規模なカンファレンスとしては、先週のケープタウンを含め初のイベントだということでした。個人的にもアフリカのテストの現状やトレンドを知ることができる貴重な機会として参加しました。
オープニングは、南アフリカテスティングボードのプレジデントである、コーニー・クルーガー氏が行いました。
ここでは、前週にケープタウンで行われたテストカンファレンスやISTQBでの総会の模様が紹介されるなどしました。
次に基調講演は、JaSST'05 Tokyoでも基調講演をされたことがある、レックス・ブラック氏により
「Five Trends Affecting Testing」をテーマに行われました。実はレックスさん、このテーマでの講演を2005年から行われているそうで、7年前との相違や共通点を交えたお話をされました。
使用されたプレゼン資料は、レックスさんが自社のWEBサイトで公開されているものとほぼ同じものでした。
【資料PDF】 (http://www.rbcs-us.com/documents/Dec-13-2012-Five-Trends-Five-Years-Later.pdf)
ちなみに、2005年当時のもの
【資料PDF】 (http://www.rbcs-us.com/images/documents/Five-Trends-Affecting-Software-Testing.pdf)
特に印象に残った内容は、テスト技術者といえどソフトウェア開発全般のスキルを磨く行為は今後ますます求められるだろうということでした。技術トレンドというのは5年ほどは変わらないものだろうが、トレンドがどのように進化するかをウォッチし続けることで、プロフェッショナルなキャリアをキープすることにもつながっていくとも言及されました。
他にも興味深かったのは、アジャイルのトレンドについては、プロジェクト全体に占めるアジャイル開発の適用割合は、今後5年間くらいで頭打ちになるだろうという予測でした。併せて、アジャイル分野とテスト分野と上手く融合(調和)ができるのが、2020年くらいになるのではという予測もされていたことです。
基調講演の後は、プレゼンテーションセッション2本とチュートリアルセッション1本の3トラックが行われました。
【プログラム※】 (http://www.sastqb-conf.org/index.php?option=com_content&view=article&id=11&Itemid=27)
※ このリンクは2012年10月現在有効
基調講演後のコーヒーブレイク(写真8)を挟み2番目に聴講したのが、イギリスのジェフ・トンプソン氏による
「Test Process Improvement – The art of getting it right」というプレゼンテーションです。
"プロセスアプローチでリスクをマネージすることで、品質を確立する」ために、どのようにテストプロセスを改善するのかをテーマに、イギリス人特有のユーモアを交えた講演でした。
内容としてはプレゼン時間の都合上、TMMi(Testing Maturity Model – integration) の各プロセスの概要と、それぞれの役割についての紹介がなされました。
3番目は、フランスボードのプレジデントである、バーナード・ホームズ氏による
「Be Green : Improving by recycling your defects」というプレゼンテーションを選択しました。
バーナードさんは、2010年にJSTQBが主催したカンファレンスでも講演いただきました。(http://jstqb.jp/event/conference2010.html#session1)
バーナードさんの語りはフランス人特有のペーソスがきいたもので、例えばグリーンの意味の説明として、「もちろん、 テスターが怒って顔を真っ赤にしている状態のことではありません。また、たまたまテスト対象のプ ログラムが全くないというシチュエーションとなりテストをしなくてもよくなったために、テスターの気持ちが平和な状態となる、、、という意味でも、もちろん無いですよ」というような話しをされ笑いを誘っていました。グリーンの反対の状態がレッドであることと、グリーンというのは平和な状態を指す色であるため、少し引っ掛けた表現をされています。更に、後半の表現はテスターの仕事がなくなっている状態なので、こんなのは全くグリーンではないよね、という皮肉を込められたわけです。
このセッションでは、Defect(欠陥)をコストと捉えて如何にプロセスを改善すべきかについて特に説明がなされました。中でも、欠陥は開発の早い段階にて摘出しないと高くつくことを全体を通して強調されていました。こういったことを実現するためにはRCA(Root Cause Analysis)やODC(Orthogonal Defect Classification)を実施することや経験からの振り返りを行うこと(REX: Return on Experience)が重要であるとの説明がなされました。
ここまでが午前中で、ランチを挟んでのセッションは南アフリカのボードメンバーによるプレゼンテーションに参加しました。
午後の1番目は、南アフリカボードのプレジデント(前記)である、コーニーさんの「ISTQB Worldwide」を聴講しました。ISTQBの組織体制に始まり、資格の体系や、FL、AL、ELという3段階に分かれた各レベルの位置づけ、ISTQBの資格を取ることの個人的および組織的メリットについて簡潔に説明がなされました。質疑応答では、受験できる言語についてや、なぜFLでもマネジメントの知識が問われるかなど、活発な質疑応答が交わされました。
最後のプレゼンテーションセッションとして私が選択したのは、南アフリカのアリステア・ウォーカー氏による
「The New ISO standard for software testing (ISO/IEC 29119)」というセッションです。
ここでは、現在ISO/IECのJCT(ジョイントテクニカルコミッティ)1のSC(サブコミッティ)7 WG(ワーキンググループ)26で策定中の29119:Software Testingの概要に関して説明が行われました。29119は次の通り5章構成となっており、Part2と3がNormative(準拠が求められるパート)であり、特にPart2がこの標準の肝であるとのことでした。
このプレゼン中、特にウォーカー氏が強調されていたのは、この標準策定作業に南アフリカとしてもより貢献していきたいので、レビューコメントでも良いし、直接参加することでもよいので協力してほしいと聴衆へ呼び掛けていたことでした。標準というものは、単に出来上がったものを利用するだけではなく、策定に参加することにこそ価値があるのだという彼の主張は、とても説得力のあるものでした。
ここまでがプレゼンテーションセッションで、その後、再度全体セッションが行われました。
全体セッションの1番目はパネルディスカッションでした。
パネリストとして、ベルギー/オランダボードの代表 ミエケ・グリーバー氏、ジェフ・トンプソン氏、バーナード・ホームズ氏、モデレータはコーニー・クルーガー氏により本パネルディスカッションが行われました。このセッションは、ディスカッションというよりは、パネリストへの質問タイムという感じで以下の様なテーマで各パネリストが意見を述べられました。
他にも、南アフリカでテストサービスの市場が拡大するだけのポテンシャルを感じられるか?や、南アから他の国へアウトソーシングするときのアドバイスはないか? などといったトピックが取り上げられました。
パネルディスカッションの後、南アフリカボードによる「Tester and Test Team Excellence Awards」という表彰式が行われました。この賞は、南アフリカのテスト分野に貢献した個人と、テストチームに贈られるものだそうです。
最後にクロージングトークがあり、盛況のうちにヨハネスブルグでのテストカンファレンスは終了しました。
以上、ケープタウンでのGAやヨハネスブルグでのテストカンファレンスの様子をご紹介しました。
ISTQBの各NBや試験実施団体によるカンファレンスは、世界各国で行われています。ソフトウェアテスト分野におけるトレンドを感じたり、世界のテスト技術者と交流を深めたりする格好の場ですので、機会があるようでしたら是非参加されてみてはいかがでしょうか。
ISTQB関連イベントについては、ISTQBのサイト(http://istqb.org/newsevents/events.html)を参照ください。
本レポートの最後となりますが、JSTQBにおけるGAやWG参加、ISTQBの公式ドキュメントの翻訳や発行、JSTQB独自資料の作成やその展開など全ての活動は、ファウンデーションレベルやアドバンスレベルの受験料収入により賄われております。皆様におかれましては、今後ともISTQBおよびJSTQBの活動に対して、ご理解とご協力をいただけます様、どうぞ宜しくお願い申し上げます。