HOME > 活動報告 > 国際調査活動 > ICST 2013 参加レポート
報告者 / 辰巳 敬三 (NPO ASTER)
昨年に引き続きソフトウェアテストの国際会議 ICST (International Conference on Software Testing, Verification and Validation) と併設ワークショップにASTERの国際調査活動メンバーの一員として参加しましたので、その結果を報告します。
ICSTの概要は昨年のICST 2012参加レポートを参照してください。
( https://www.aster.or.jp/activities/investigation/icst2012.html )
ICSTは毎年3月か4月に欧州または北米で概ね交互に開催されています。昨年は4月に北米(カナダ・モントリオール)で開催され、今年は欧州(ルクセンブルク大公国・ルクセンブルク)で2013年3月18日~22日に開催されました。
ルクセンブルクはベルギー、ドイツ、フランスに囲まれた国で、国土は神奈川県や佐賀県くらいの広さです。人口も約50万人と小国ですが、ユーロ圏を代表する国際金融センター、欧州における情報通信産業の中核を担っており、ルクセンブルクの経済は世界でもトップレベルの豊かさだそうです。ちなみにSkypeもルクセンブルクが本拠地です。
一方、国の歴史は古く、首都であるルクセンブルク市は「その古い街並みと要塞群」が世界遺産に登録されています。景色が素晴らしく、街並みの至る所で歴史が感じられますが、市街地では洒落たショップが多く、新旧がうまく調和したコンパクトで快適な街という印象でした。
今回のICST 2013の開催会場は、深い渓谷の断崖を利用して作られた城砦の下のグルント(grund、低地)地区にある、中世からの歴史をもつ修道院を改装した文化複合施設「ノイミュンスター修道院文化会館(Centre Cultural et Rencontre Abbaye de Neumunster)」( http://www.ccrn.lu/ )でした。ここもまた新旧が調和した素晴らしい施設でした。
参加費用は開催国の通貨での決済(昨年はカナダドル)であり、今年はユーロ。参加費は以下のとおりでした(参加費用には昼食、Banquetが含まれています)。
本会議 | ワークショップ | |
IEEE 会員 | 665 Euro (早割:530) | 165 Euro (早割:130) |
IEEE 非会員 | 870 Euro (早割:665) | 210 Euro (早割:165) |
本会議参加費の665Euro(非会員早割)は日本円で約86,000円。昨年モントリオールの本会議参加費CA$800(非会員早割)は現在の為替レートでも約74,000円ですので今回は少し高めです。ICST本会議の参加費は概ね80,000円前後というところでしょうか。
参加者キットはICST 2013の名称とホストのルクセンブルク大学SnT(Security and Trust) Centreの名称が書かれたリュックサックの中に、開催プログラムや地図に加えて、ICST2013の文字が入った赤い折り畳み傘とWifiのプリペイドカードが入っていました。雨が多い時期だったようで、この傘をさしている人をよく見かけました(運営事務局の配慮に感謝!)。
本会議が3月19日~21日の3日間、併設ワークショップ(10件)が本会議前後の3月18日と22日の2日間に分けて開催されました。
参加登録者は289名(40ヶ国)。昨年の参加登録者は250名(27ヶ国)でしたので、今年は10%強の増加となっています。
応募論文数は不明ですが、採択論文数38本の内訳が研究論文30本(採択率 25%)、産業界論文が8本(内2本はshort papers)ということでしたので、研究論文の応募は120本程度だったようです。昨年は応募論文176本(研究者-145、企業-31)から46本(採択率26%)が採択されていたので今年は論文応募件数が少し減少したようです。
昨年の日本人参加者は4人(Asia全体は18人)、その内3人が私を含むASTERのメンバーという状況だったので非常に寂しい思いをしたのですが、今年は日本から11名の参加がありました。
参加者の国別内訳は、Luxembourg-67、USA-27、France-24、UK-19、Sweden-17、Germany-14、Italy-14、China-12、Japan-11、Austria-9、Norway-7、Canada-6、Korea-6、Netherlands-6、他-50となっており、日本は中国(12人)につぐ9番目の参加者数でした。
また、日本の参加者には、Toolセション発表-1人(早稲田大)、ワークショップ発表-2人(九州大、電通大)、ポスター発表-3人(東芝,宮崎大,Nii)と6人の発表者が含まれています。昨年の参加レポートで「日本のソフトウェアテストの研究の将来に不安を覚える」と書いたのですが、今年は光明が差してきました。この勢いを来年以降も継続し、次は本会議での論文発表を目指していただきたいと思います。
本会議の3日間は各日とも基調講演で開始されました。
1日目はMicrosoft社のRoss Smith氏の"The Future of Software Testing"、2日目は米国New Mexico大学のStephanie Forrest教授の"The Biology of Software"、3日目はLuxembourgのBCEE銀行のJean Hilger副社長の"When finance holds off crashes"というように、産業界(ITベンダー)、アカデミア、産業界(IT利活用ユーザ)からの講演でした。
今回のICSTでは昨年はなかったTesting tools、Tutorial、Posterのセションが追加されました。発表件数はResearch & Industrial-38件(採択論文の発表)、Testing Tools-15件、Tutorial-2件、Poster-12件、Panel-1件となっており、Research & Industrialの2セッション、Testing tools とTutorial各1セションの計4セションが並行に進められました。Posterはセション会場の前のスペースに掲示され特定時間帯に著者が説明する形で行われました。
私はTesting tools系セションを中心に聴講するとともに、"Active testing"、"Passive testing"というキーワードが興味を引いた"Evolution of Testing Techniques: From Active to Passive Testing"を始めとする一連のTutorial "Security Testing Techniques"を聴講しました。Active Testingはテストデータ作成、テスト実施、テスト結果解析という通常のテスト手法のことですが、Passive Testingはテストデータは用意せず、動作中システムの動作結果をモニタリング(入力-出力/結果)し解析する手法です。全てのテストデータは用意できないという前提に立つと、稼働中システムの入力-出力の解析結果を「テスト結果」とみなすというアプローチは補完的な現実解のように思われます(適用するのは難しそうですが)。適用事例として通信プロトコルやwebサービス関連のものが紹介されており、規格が整備されているものから適用が始まっているようです。Passive testingのような日本では聞いたことがなかったアプローチを知ることができるという点でも国際会議に出席する意義は大きいと思います(日本で研究されている方がおられましたらご容赦ください)。
会期中はビュッフェ形式の昼食が会場に用意されており参加者が同じテーブルを囲んで昼食をとりました。英語力のなさを感じながらも、隣り合った方に思い切って話しかけるのもよい経験になりました。
また、今回のICSTでは次のようなソーシャル・プログラム(懇親行事)が用意されていました。
本会議初日の夜に、ICSTの会場からクラウゼン地区の小川のほとりを少し歩いた所にある"Life Bar"という店でウェルカム・レセプションが開催されました。トルコからスウェーデンに留学中の博士課程の学生(囲碁が趣味)と会話したり、昨年のICSTのワークショップで親しくなった方達と再会しお話しすることができました。
本会議2日目の夕方、主催者側メンバーが複数のグループに分かれたICST参加者を引率してルクセンブルクの見所を案内してくれました(残念ながら筆者は体調不良のため不参加)。
本会議2日目の夜、ルクセンブルク旧市街の中心にある"Cercle Cite"でGala Dinner(晩餐会)が開催されました。余興のマジックショー、Ph.Dセッションの優秀論文表彰も行われました。今回は日本からの参加者が10名いたので日本人専用テーブルになってしまいました。他国の方との会話機会は少なくなったのですが、その分、食事を楽しむことができました(おいしかった! 恐らくワインも(筆者は下戸))。
本会議の前後の日に10件のワークショップが開催されました。私は初日はTAICPART(産学連携の取り組みのワークショップ)、最終日は組み合わせテストワークショップIWCTに参加しました。以下に今回の参加目的の一つであったIWCTの状況を報告します。
昨年のICST 2012併設ワークショップに続く第二回の組み合わせテストワークショップです。応募論文数19件の中から17件(内ポスター発表4件)が採択され、ワークショップでは12件(1件欠席)が発表されました。参加者は24名(アカデミア-16名、産業界-8名)で、日本からの参加は4名でした。
今回の発表の中で、昨年の発表にはなかった範疇のものとしてSoftware Product LineにおけるFeature modelへの組み合わせテストの適用に関するものが2件あり、適用範囲が広まっている状況が伺えました。
ワークショップのもう一つの注目は、電通大の西先生の発表でした。テストアーキテクチャやNGTと言った西先生の主研究テーマを元に組み合わせテストのアーキテクチャ設計方法を提案する内容です。短時間の発表なので十分な理解が得られなかったかもしれませんが、日本で検討している技術を海外で発表し、評価を受けることは非常に大切だと思います。
ワークショップの最後の1時間は昨年と同様にディスカッションの時間でした。組み合わせテストの適用推進や、ワークショップでの適用実践報告を増やすにはどうすればよいかが主なテーマでした。ディスカッションの中で筆者に意見を求められ、慌ててまごついてしまいましたが、何とか意見を述べました(恐らく伝わっていないですが)。これもよい経験になりました。
ワークショップ終了後の夜にIWCT運営委員長の一人、イスラエルIBM HaifaのItai Segall氏の計らいで、IBMさんのスポンサーでSocial Event(懇親会)が開催されました。場所はルクセンブルク市街の Caves Gourmandes という、ワイン倉庫として使われていた洞窟を改装したレストランです。雰囲気のいい店でおいしい料理がいただけました。また、私は、日本からちょっとしたおみやげ(葛飾北斎の富嶽百景が書かれたクリアファイルや葉書など)をもって行きましたので、くじ引きで配ってみなさんに楽しんでいただくことができました。
二回目ということで少し落ち着いて参加することができました。日本からの参加者や発表者が増えたことで心強かったということもあります。また、顔見知りになった人との再会や、日本からの参加者を彼らに紹介するなど楽しい場面も多くありました。
将来このような国際会議を日本で開催できるようになるために海外の人たちとの交流を広げていければと思います。まずは、来年のICST 2014で、日本からの論文発表や参加が増えるように活動していきたいと思います。
来年のICST 2014は2014年3月31日~4月4日に米国オハイオ州クリーブランドで開催されます( https://sites.google.com/site/icst2014/ )。みなさん、是非、論文応募、参加をご検討ください。