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報告者 / 辰巳 敬三 (NPO ASTER)
2012年4月17日~21日にカナダ・モントリオールで開催されたソフトウェアテストの国際会議「ICST 2012 (International Conference on Software Testing, Verification and Validation) 」と、併設の組み合わせテストワークショップ「Workshop on Combinatorial Testing」にASTERの国際調査活動メンバーの一員として参加しましたので、その様子を報告します。
ICSTは第1回の開催が2008年4月という比較的新しいソフトウェアテストの国際会議です。以後毎年、北米と欧州で交互に開催されており今回で第5回目となります。
ソフトウェアテストの国際会議として同様のアカデミック系のものにISSTAがありますが、こちらは第1回の開催が1993年、源流をたどると1978年にEdward Miller(C0,C1などのテストカバレッジで有名)が議長を務めたテストで初めてのワークショップに行き着くという老舗の国際会議です。何故新たに同様な国際会議としてICSTが開催されることになったのかは分かりませんが、主催者がISSTAはACM、ICSTがIEEEということなのでIEEE側に何かの思いがあったのかもしれません。ICSTは研究と実践をつなぐ(bridge)ことを主目標のひとつにしており、ISSTAに比べて実務寄り(企業の発表や参加が比較的多い)と言われていますので、これが特徴と言えると思います。
会議への参加費は以下のとおりです。非アカデミック系カンファレンス、例えばSTAREASTの$2,500(本会議4日間、朝食昼食含む)と比べると安価です(参加費用には朝食昼食、Banquetも含まれていました)。
本会議 | ワークショップ | |
IEEE 会員 | CA$ 775 (早割:625) | CA$ 200 (早割:150) |
IEEE 非会員 | CA$1000 (早割:800) | CA$ 250 (早割:200) |
参加費が安価な分、渡される資料(トートバッグ、名札、各種案内やBanquetチケット、モントリオールの地図)はローカルアレンジ担当の地元大学が用意したと思われる手作り感一杯のものとなっていましたが、私は親近感がわき好感がもてました。なお、論文集は事前にWebサイトにアップロードされたのでダウンロードして持参しました
本会議が3日間、10件の併設ワークショップが本会議前後の2日間開催されました。
参加登録者は250名(27ヶ国)で、応募論文176本(研究者-145、企業-31)から採択された46本(採択率26%)が本会議の各セションで発表されました。昨年のソフトウェアエンジニアリング国際会議(ICSE 2011)が、参加者1063名、応募論文441本、採択数62本(採択率14%)ということなので、参加者数で概ね4分の1程度の開催規模となっています。
参加者の国・地域別の割合はUSA-24%、Canada-24%、Europe-41%、Asia-7%、他-4%です。Asiaからの参加者18人(7%)のうち日本人は4人でしたが、うち3人は私を含むASTERのメンバー、もう1人は日本企業からカナダに留学中の方という状況で、日本からの参加が少なく非常に寂しい思いがしました。日本のソフトウェアテストの研究の将来に不安を覚えてしまいました。
本会議3日間の各日とも最初は基調講演でした。1日目と2日目はカナダの航空宇宙関係企業のマネージャー、IBM Cognosのソフトウェア部門の品質責任者の方のV&Vや品質に関する講演、3日目はWashington大学の先生によるテストの研究の進め方や論文のまとめ方に関する講演でした。内容的には特に興味を引くようなものではなかったというのが正直なところです。
46本の論文が13の研究セションと3つの企業セションに分類され、3セションが並行に開催されました。私はセション名や論文タイトルに興味を引くキーワードがあるものを探し、以前から注目していたSearch-based testingのセション、Concolic testing(concolicはconcreteとsymbolicの合成語)という目新しいキーワードが付けられた論文が発表されるCase studiesセション、昔ながらのキーワードであるが故に何が現在の研究対象なのかに注目したWhite-box techniquesセションなどに参加しました。発表内容を理解したとは言い難いですが、新しい研究分野に触れることで、もっとテスト技術を掘り下げたいという気持ちになりました。
日本でモデルベースドテスティングが話題になることが多くなってきましたが、海外でも同様で、本会議初日の午後に"Model-based testing--rebranding old ideas?"というパネルディスカッションがありました。「昔のアイデアを言い換えただけではないのか?」という副題がついていたので論戦を期待しましたが、どのパネリストもあまり変(?)な主張や対立はなくモデルベースドテスティングの解説のような感じのパネルでした。
ワークショップと言うと参加者が手を動かして実習するような形態が思い浮かびますが、ICSTなどのアカデミック系会議に併設されるワークショップは特定テーマに絞って発表と議論が行われる形式のものとなります。今回は10件のワークショップが開催され、参加登録者数は合計208名でした。ワークショップは事前にcall for workshopsが出され、応募があったものから採択されますが、ホットでかつ多くの人の関心がある(論文が集まる)テーマなので、最新トピックに触れるにはよい機会です。ちなみに今回のワークショップを参加者の多いもの順に見ると、Mutation Testing (29名), Combinatorial Testing (25名), 産学連携(実践と研究)(24名), Search-based Testing (21名), Regression Testing (21名), Model-based Testing (20名), Security Testing (20名)、他となっています。昔からある技法ではありますが日本ではほとんど聞くことがないMutation testingが最も参加者が多かったのが意外でした。私が参加したCombinatorial Testing(組み合わせテスト)は参加者が2番目に多く、この分野への関心の高さがうかがえました。
今回が組み合わせテストとして初めての国際ワークショップです。主宰者は米国NIST(National Institute of Standards and Technology,国立標準技術研究所)のRichard Kuhn氏とRaghu Kacker氏、Texas大学Arlington校のYu (Jeff) Lei准教授、IBMハイファ研究所のItai Segall氏の4名。Kuhn, Kacker, Leiの3氏は組み合わせテストツールACTS(Advanced Combinatorial Testing System)を開発し、組み合わせテストの普及を推進されています。また、Kuhn氏は組み合わせテストの有効性を示す根拠として数多く引用されている論文(2004年発表のFTFI(failure-triggering fault interaction)を分析した論文)の著者でもあります。Segall氏はまだ33歳の若手研究者です。
そもそも、私が今回のICSTへ参加することになったのは、Kacker氏からこのワークショップの招待講演の依頼を受けたのがきっかけです(詳細は割愛しますが、1987年の私の発表論文が組み合わせテストのルーツの一つになっています)。今回は時間の関係で招待発表の枠はなくなったのですが、初めての国際ワークショップなのでどうしても参加したく、ASTERのメンバーとして参加させていただいた次第です。
ワークショップの参加者は25名、出身国を見ると米国、イスラエル、イタリア、ドイツ、オーストリア、カナダ、中国、ネパール、日本というように世界的に組み合わせテストへの関心が高まっていることが分かります。組み合わせテストツールPICTを開発したMicrosoft社のJacek Czerwonka氏も参加されており、主要な関係者が集まったワークショップとなっていました。
今回のワークショップには応募論文が20件あり、その中から採択された10件が発表されました。組み合わせテストと言うと、直交表や組み合わせ生成アルゴリズムが思い浮かびますが、発表論文を見ると、入力パラメタのモデリング、障害解析、テストケースの優先順位付けなどに研究の対象が移ってきているように感じました。最近の組み合わせテストツールのアルゴリズムは性能差がなくなってきており(生成されるテストケース数はあまり違わない)、モデリング方法やツール間のベンチマーク方法の研究や現場への適用実践が重要になっているとのコメントもありました。
実はワークショップの最後に1時間ほどディスカッションの時間帯がありましたので、飛び入りで組み合わせテストの歴史に関するプレゼンを(たどたどしい英語で)してしまいました。これも特定のテーマで集まった比較的少人数のワークショップだからできたことでしょう。冷や汗ものでしたが、振り返るとよい思い出です。思い切ってチャレンジしてよかったと思います。
夜には組み合わせテストワークショップのsocial event(親睦会)があり、会場の近くのインド料理店に集まって食事をしながら語らい、親睦を深めました。この席で、私は参加メンバーにICST2012のトートバッグに寄せ書きをしてもらったのですが、よい記念となり宝物になりました(各メンバーには後で写真を送りました)。
会期中は朝食昼食が会場に用意されていました。また、本会議初日の夕方はウェルカム・レセプション、2日目の夜はバンケットが開催されました。このような食事の時間帯は、いろいろな国から参加している人たちと話をするよい機会となり、ソフトウェアテストという共通の関心事(趣味?)のお蔭で「同士」「仲間」という感覚で交流することができました。また、ソフトウェアテストの分野で著名な研究者達と話すこともできました。惜しむらくは、自身の英語力の不足です。英語ができればもっと楽しかっただろうと悔やまれます。
参加するまでは不安な気持ちで一杯でしたが、ワークショップ当日の朝にNISTの方々と会って話をするうちに何とかなりそうだという気分になりました。やはり、ソフトウェアテストという共通の話題で外国の人とコミュケーションできるのが楽しかったからだと思います。
残念だったのは日本人の発表者がおらず参加者も少なかったことです。是非、日本のソフトウェアテスト研究者の方や企業の方にICSTやISSTAといった国際会議に参加していただき、日本のソフトウェアテスト・コミュニティのプレゼンスを示していただければと思います。この拙い私のICST参加レポートがみなさんの背中を押すことになれば幸いです。