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イベント報告
ソフトウェアテストシンポジウム 2023 東海

2023年12月15日(金) オンライン開催

ソフトウェアテストシンポジウム 2023 東海

オープニングセッション

実行委員長矢野さんのコスプレ付きメリークリスマスから始まった。
小ボケ混じりで今回のテーマ「みんなでつくろう製品品質」「プロセス改善」の身近な事例紹介をしていただき、Zoom画面では笑顔や拍手などのスタンプが駆使され和やかな空気に包まれた。
今回の参加者アンケートでは「3年以上の経験者しかいない」のだそうで、実業務に沿ったテーマへの関心度の高さが伺えた。

基調講演
「シン・プロセス改善」
 足立 久美 氏(LIGHT SIDE PROCESS)

「今日は新しい話ではなく、What to Doの話」という導入で始まった。「テスト戦略は組織レベルでもっているものであり、それに準拠する形でテスト計画を書く、この流れを理解できていないとプロセス改善は難しい」という前提からご自身の過去事例を紹介いただいた。
「効果が発現するまでの時間(壁)を乗り越えるまでやらなければいけないが、やめてしまうことも多い」という台詞が印象的であった。

"シン"=人中心・シンプル・低侵襲にフォーカス

本講演の「シン」の1つ目は「人」であり(人が中心/中芯)、複雑な活動にしない、一気にやらないことが肝要であるとのこと。中芯(人)がビジネスと設計を繋ぐ重要な役割となるという、段ボール紙を拡大して真横から見た図で説明いただき、わかりやすかった。

「シン」の2つ目は「シンプル」、3つ目は「低侵(シン)襲」。
低侵襲とは、手術や検査に伴う痛みや出血などをできるだけ少なくする治療法を指している。筆者は医療業界のプロダクトに関わっているため、個人的にはこの辺りの説明がとてもわかりやすかった。
最後の質疑応答では、システム屋とハード屋、ソフト屋の3つのロールがある中で三者がうまく協調して1つの製品をつくっていくことができているかどうか、リスペクトする関係になっているかだというお話をされ、胸が熱くなった。

※お勧めされていた書籍:
[『テストプロセス改善』](https://www.kyoritsu-pub.co.jp/book/b10011131.html)
Tim Koomen 著・ Martin Pol 著・ 富野 壽 監訳
「2002年の刊行だがまったく変わっていない、2023年現在でも充分通用する」とのこと。

ライトニングトーク(LT)

5名の応募者達のLTがそれぞれ5分程度で行われた。技術標準、テスト設計、テスト自動化、組織体制の変遷、ツールの話題など盛りだくさんで参考になり、楽しめた。

特別講演
 「「Fearless Change」と心理的安全性への旅」
川口 恭伸 氏(YesNoBut)

講演のタイトルになっている[『Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン』](https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b294768.html)は筆者も大好きで度々参考にしている書籍である。
これまで川口氏は非エンジニアにも勧められるアジャイル文化の書籍を主に訳されている。

「変化が激しい」とは近年よく聞くワードだが、「変化の性質そのものが変わっている」「休憩にあたる安定期・拡大期がほぼなく永続的、偏在的、指数関数的に拡大していく」「変化が前提」であることが現代である、というお話で「そこまでか…」と気持ちを新たにした。

TED Talkの動画や、Googleが火付け役となった[「心理的安全性」](https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness#foster-psychological-safety)を引きつつご自身の過去の事例を紹介された。変化を恐れるのが一般的な反応だが、みんながわかっている状態にすれば良い、社内政治でも何でもやってうまく組織をハックできれば組織にとっても良いことだとお話された。

「人を変えることはできない」

最後に(先の足立氏の話でもあったように)うまくいったところを褒めるなどして、周りを変える前提で考えず、礼をつくしてちゃんと観察することから始める、と会場を励まされた。

※参考書籍:
[『イノベーションのジレンマ』](https://www.seshop.com/product/detail/2241?utm_source=sebook&utm_medium=organic)
クレイトン・クリステンセン(著) , 伊豆原 弓(翻訳) , 玉田 俊平太(監修)

[『恐れのない組織——「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』](https://eijipress.co.jp/products/2288) エイミー・C・エドモンドソン(著), 野津智子(訳), 村瀬俊朗(解説)

SIG
パネルディスカッション
「Markin' Quality Presents:QA5人の品質ゲンバ物語」
Mark Ward 氏(Markin' Quality)
yoya 氏(マネーフォワード)
おおひら 氏(ログラス)
muga 氏(Markin' Quality)
KEN-san 氏(GO)

4つのセッションのうち、筆者は 5-3 パネルディスカッションを聴講した。
パネリストの5名それぞれの組織と個人の関係がどう変わってきているのか、また変化に現場でどう対応しているかというテーマでディスカッションされた。各所属組織がベンチャーから大企業的な存在感があるところまで各人各様であるので、聴講者の所属組織がどのような規模であっても参考になるお話が聴けたと思う。
後半の「変わる自分の視座・視野・視点」というテーマでは、「生まれた瞬間からマネージャーの人はいない」というMark氏の言葉に深く頷いた。

周りから求められるふるまい

ディスカッションしながら画面上ではリアルタイムで付箋が更新され、聴講者にはトークテーマの流れがわかりやすくなるよう工夫されていた。

※参考書籍(最近Mark氏が訳され、ディスカッションの中で何度も言及があった):
[『LEADING QUALITY』](https://www.kadokawa.co.jp/product/302309001510/)
著 Ronald Cummings-John 著 Owais Peer 訳 河原田 政典

クロージングセッション

セッション5の各SIGの代表者から感想の一言があり、最後に実行委員長より「プロセス改善と心理的安全性はわかっていても、一朝一夕、自分一人ではできない。現場の悩み事、これからの戦いに向けてのエールとなれば幸いです」と締め括られた。

筆者感想(全体)

今回講演者の紹介された書籍や概念はほぼ10年以上前のものばかりではあるが、以前は気に留めていなかった言葉が(おそらくその後の経験や文脈によって)この機会にふりかえることで再発見されたと感じた。シンポジウム参加前は正直「懐かしい本だな」という印象だったが、現時点もバリバリに現役の書籍達である。

「プロセス改善」とは立ち止まって現場を見つめ直し、再構築していくものだが年末の慌ただしい時期にこそ俯瞰的になることが大切だと改めて感じ入った。

『Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン』で川口氏の監訳者後書きにある一文「本書が、情熱に突き動かされ、ときに心折れかけた数多くのエバンジェリストの手助けとなることを、願っています」を私も仲間に伝えたい。

山本氏は、自身のモチベーションの源泉を「ソフトウェアテストでプロジェクトに貢献し、日本の産業を救うこと」であるとし、そのための取り組みの一つとして「三銃士モデル」について述べた。三銃士モデルは「コンテキスト-世界観-実装」の三角形の中心に「ユーザ感情」を配置したモデルであり、ゲームテストをする人が楽をできるようにすることを目指したとのことだった。

記:上村 真季(メドレー)

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