HOME > 活動報告 > イベント報告 > JaSST'24 Tokyo
2024年3月14日(木)~15日(金) オンサイト開催+オンライン開催
今回のソフトウェアテストシンポジウム(JaSST)東京は、20周年を迎える節目のイベントとなった。
COVID-19の影響でイベントはオンラインでの開催に移行しており、現地開催は実に2019年以来となる。
会場は市ヶ谷に位置する「TKP市ヶ谷カンファレンスセンター」で、4階をメイン会場に他の階も設けられ、最大5会場で複数のセッションが行われた。
時間帯によっては目当ての会場に入れず、他の会場に移動するといった光景があり、これは以前の現地開催でよく見られたもので、懐かしく感じられた参加者も多かったのではないだろうか。
会場内では、普段はSNSなどで繋がってるエンジニア同士が直接声を掛け合い、交流を深めている姿が見られた。
こうした人の交流は現地開催ならではの魅力であり、その価値をあらためて実感した次第である。
魅力的なセッションは数多くあったが、本レポートでは基調講演と、昨年逝去されたASTERの理事長である西康晴氏への感謝を込めた特別セッションを取り上げ、それらのセッション内容を記載する。
「タンジブル・ソフトウェア・クオリティ」とはソフトウェア品質を手触りで感じることができるほどに具体的に記述すること、を指している。
この具体的な記述により、全てのステークホルダが品質についての共通理解と合意を得ることができる。
Gojko氏は、自身が関わり成功したプロダクトの開発経験から、良い品質のプロダクトを作るためのいくつかのルールを策定した。
品質の測定や評価に重要なことは、我々は正しいものを測定しているか?と考えることである。
人々は、価値のある重要な指標より、コストが掛からず簡単に測定できる指標を重視してしまう。
例えば、コードカバレッジは測定が簡単だが、その指標にはどのような価値があるだろうか。
また、ソフトウェアテストの数値にはどのような意味があるだろうか。
品質の有無を測定するために何が使えるのかを考える必要がある。
バグを測定することは本当に必要なのだろうか。
成功したプロダクトには、バグよりもユーザーの尊重する品質を重要としたものもある。
品質の測定要素には、「診断的測定」と「パフォーマンス測定」の2つのタイプがある。
診断的測定は、"何かが間違っている"ことを示すが、"何かが正しい"とは示さない。
一方、パフォーマンス測定は、何かが正しいことを示すが、診断的測定より高いコストが掛かる。
どんな意思決定をしたいのかを起点に考え、その重要性に応じて必要な情報を決めていくとよい。
様々な意思決定をするためには、不確実性を下げるため複数の指標が必要である。 ソフトウェアとしての属性は以下のように様々な側面から見ることができる。
全てのステークホルダと意思決定をするためのモデルが必要である。
モデルには以下が挙げられる。
市場に依存する以下の3つのブレイク・ポイントを用いる。
※上位から下位への順序で示す
各レベルで何をトラッキングするのか、それぞれのプロダクトで考える必要がある。
全てのステークホルダと話すためのモデルを作成することが、テスターの役割である。
重要なのはモデルの選択ではなく、作成することにある。
Gojko氏のお勧めのモデルの紹介があった。
こうしたモデルを使用して、ただバグやコードカバレッジを測定するだけでなく、 有用性や使い勝手を測るところにテスターは関わっていかなくてはならない。
ソフトウェア品質は実体性のあるものでなければならない。 モデルが存在する状態においては、情報を可視化し、モデル化し、提供することで、人々がそれをもとに行動を起こせないといけない。
パネリストは、故・西 康晴 氏(以降"にしさん"、"にしくん"と称する)と関わりの深い方々である。
石川 冬樹 氏 (国立情報学研究所)
浦山 さつき 氏 (JaSST東北実行委員 / Ubie)
大西 建児 氏 (ベリサーブ)
片山 徹郎 氏 (宮崎大学)
榊原 彰 氏 (パナソニックコネクト)
佐々木 方規 氏 (ベリサーブ)
冒頭にモデレータである大西氏から、にしさんの功績として日本初のテストのコミュニティ作成やアカデミックな活動への展開、またその人間性によって国内外を問わず広い人材交流が行われていたことが語られた。
各パネリストから、にしさんとの出会いやエピソードが語られた。
片山 氏 「現状、大学のカリキュラムにソフトウェアテストを組み込む余地がない。将来性についてもWebやAIの技術が入ってくるため、テストの教育を望むのは難しい」
石川 氏 「テストの大事さは現場を経て学びたくなるもので、大学生には響きにくいのではないか。AIについて、今後必要なスキルは誰にもわからない。流動性や時代の変化の速さに、教育がどう追従するのか」
榊原 氏 「ITに限らず、テクノロジーはどんどん抽象度が上がり、技術者の層は多様化していく。AI活用により、プログラマーやテスターといった役割の線引きは意味がなくなっていくと思う。
ただ、業務要件の動作確認など人がやる領域はあり、そうした集積度の高い対象を人がテストしていくことは受け継がれ、品質保証や体系化したテスト技術はシステマチックになっていくのではないか」
佐々木 氏 「現場での人材育成をしてきた立場から見て、一つの技術だけ教えても追いつけない、フルスタックで覚えていくしかない。
工程の壁は取り除く必要がある。一方、専門性も必要であり、特に日本には工程間の"のりしろ"を作る人材が足りておらず、システムズエンジニアリングのような技術をソフトウェアテストに入れなくてはいけないのではないか」
浦山 氏 「(キャリアパスをどのように描いているか、についての回答)スクラム開発のインスプリントでQAを学び、他のロールもできるようになりたいが、
一方、組織で考えるともっと全体をよくしたい。QMファンネルにおけるコーチやコンサル、組織全体の戦略を考えるようになっていきたい」
テスト自体を品質保証するには?また、テストエンジニアは生き残るのか?
石川 氏 「開発やテストをAIがすると、品質保証はどうするのかという問題に対してAIがAIをテストするといった未来はあるが、意思決定は人であることは変わらない。
現在のAIは変化が早すぎるので皆が変わり続けなくてはならないが、AIを追いかけるのは会社の組織として誰が頑張るのか」
榊原 氏 「(石川 氏からのバトンを受け)組織としては古いやり方に固執せず、新しいやり方への柔軟性が必要。
Github Copilotのような生成AIを活用したプログラミングは、これまでのコーディングの手法を変革している。
これがさらに賢くなり、仕様を書くと自動でコード生成するような未来になると、プログラマー、テスト技術者といったバウンダリーがなくなり、全ての工程を人が制御するようにならなければならない。
今まで時間を掛けていたところが省力化されるがゆえに、より高い観点での制御ができるよう、高度なスキル・工学分野が求められるのではないか」
浦山 氏「(大西 氏の「開発方法論の変化にどうキャッチアップしているか?」の問いに対して)第三者検証から事業会社のQAに立場を変えての技術習得は現場での実践や、コミュニティの発表事例から得ることができる」
片山 氏「(開発方法論を大学でどのように教育しているか)これまでにも衝撃を受ける技術の進化は幾度もあった。
進化論(ダーウィン)は環境に適応したものが生き残る、という理論だが、技術もそのような要素がある。
技術の進化は予測困難であり、急激な変化もありえるため、大学教育では『現在の技術では』との前提を意識している。大学での学びは終わりではない」
佐々木 氏「(テスト自体を品質保証するには、の問いに対して)テスト自体を品質保証する必要性に疑問を感じている。テストというのは終わるものではなく、リリース後も考えていくものではないか。
テストが大丈夫だと誰も言えないなら、大丈夫ではないという前提で動くしかない
AIも間違えるので、それを受け入れる環境(社会)がないと先にいけない。
テストはエコシステムの一つのアクションであり、止めてはいけない」
随所ににしさんとのエピソードがパネリストから語られつつ、決して暗い雰囲気になることのない、にしさんへの感謝のこもったパネルディスカッションだった。 ただ、テストの未来については楽観視するものはなく、テクノロジーに人がついていけるかに対して厳しい見方をしていることがわかった。 筆者もにしさんに影響を受けた一人であり、その意志を継いで、さらなる活動に邁進していきたい。
JaSST20周年の節目と大きな出来事の中、久々の現地開催をやり遂げた実行委員の方々は、非常に大変だったと思う。その成果として、会場は盛況で熱気に満ち、あらためて現地開催の良さを感じた参加者が多かったのではないだろうか。 今回の基調講演やその他のセッションを通じて、これまでのテストに対する"当たり前"に疑問を投げかけ、知識を深めることの重要性を実感した。新しい技術を取り入れつつ、テストの技術進化はまだまだ続くと確信している。
記:堀川 透陽(ASTER)