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2024年 10月25日(金) 現地開催 + オンライン開催
実行委員長 松谷氏による軽快で明朗なオープニングセッションから始まった。JaSST Kyushuに関するこれまでの経緯や今回の参加者の特徴の説明から、JaSST'24 Kyushuは開幕した。 JaSST Kyushuは今年で17年目、沖縄開催は10年ぶりである。 昨年のJaSST Kyushuは10年以上のベテランの方が多く参加された一方で、今年は3年目以降のリーダークラスの方が多く参加されているなど、開催地による地域の特色が出ていることが説明された。 現地参加者のうち半数が沖縄在住者参加という状況で、会場ではマインドマップの手法をしっかり学ぼうという真摯な姿勢の雰囲気であった。 さらに松谷氏の軽快なトークにより会場全体が一体感と熱意で包まれた。
池田氏は「マインドマップから始めるソフトウェアテスト」を鈴木三紀夫氏と2007年に共著出版された、ソフトウェアテストにおけるマインドマップ活用の第一人者である。
このセッションでは、参加者がマインドマップでメモ取りをしつつ、池田氏からマインドマップの定義やテストでのマインドマップ活用について解説がなされた。
ソフトウェアテストにおいてマインドマップの利用について公知情報があったのは2006年からである。
このセッションではその頃からのソフトウェアテストにおけるコミュニケーションやマインドマップ活用の歴史の振り返りとともに、マインドマップの基本や、テストにおいて重要な「発想」の考え方について説明された。
このセッションのターゲットは「これからやる人・振り返りたい人・伴走したい人」といった実務者に寄り添ったもの。 池田氏は、このセッションを通じて「思いつかないことはテストできない。思いつくための発想行為に向き合う」といったことを参加者は意識してほしいと語った。
池田氏の資料はご本人から公開されており、詳細な中身については資料をご覧いただきたい。
(https://speakerdeck.com/ikedon/jasst24-kyushu-ji-diao-jiang-yan-zhou-mawatutekao-erusohutoueatesutohenomaindomatupunoli-yong)
特筆すべき内容として、ソフトウェアテストでのマインドマップの利用例としてJaSSTでの発表をはじめとしてpp.37-41で事例が一覧化されている。
マインドマップをどのように活用するべきか事例を調べたい方は資料をご覧いただきたい。
末村氏(Autify)より、マインドマップが発想の記述に活用できるとの池田氏の講演を受け、生成AIの出力を人が常用すると人が発想しにくくなるのではないかと質問された。
池田氏は、生成AIの出力は人の発想の肩代わりはできないとの見解を示した。つまり、生成AIが学んだ学習データやプロンプトは、インプットした内容から生成されるにとどまる。
仕様外の情報などインプットにない部分の発想を人が考える必要があると、人による発想は生成AIの時代においても変わらず重要であるとした。
「マインドマップから始めるソフトウェアテスト」の書籍を学んだことはあるものの、マインドマップの事例や発想法の探求といった深い内容まで検討したことがなかった。 基調講演を通じて、マインドマップを利用することによる発散志向や”発想”について重要性に気付くことができた。 また、自己紹介で説明されていた池田氏の信念、"ソフトウェア品質技術の力で世界を幸せに、利他・自責・有限実行 なければ作ればいいじゃない"といった、エンジニアとしての誠実な姿勢に深く共感した。
佐藤氏は、テストラジオのパーソナリティをされ、所属ではアジャイル開発における品質保証の在り方について日々研究をされている。
このセッションでは現地とオンラインそれぞれで実際に手を動かし、マインドマップを用いたテスト対象の把握の在り方について、参加者が一体となってワークショップ形式で学んだ。
「思いつかなかったことはテストされない」とのキーメッセージとともに、テスト対象についてどのようなテストをするのかについて参加者がマインドマップを用いて観点を整理。
参加者は準備したスケッチブックにマインドマップ形式でテスト対象を記述するだけでなく、参加者間でフィードバックをすることで、参加者がマインドマップの活用方法について学ぶプログラムであった。
佐藤氏の資料はご本人から公開されている。ワークショップのお題等やプロセスについては公開資料から省略している。
(https://speakerdeck.com/satohiroyuki/jasst-24-jiu-zhou-wakusiyotupu-hachu-ku-shi-jian-maindomatupuwohuo-yong-sitasohutoueatesuto-plus-huo-yong-shi-li?slide=14)
長時間のワークショップであったが繰り返しマインドマップで観点を整理することに全員が集中。ワークショップの時間が終わりに近づくにつれ、参加者全員がマインドマップ利用に手ごたえを感じていた。 池田氏もワークショップで参加者が書かれているマインドマップの状況を観察され、適宜アドバイスをされていた。筆者も「もっとスケッチブックの空白が偏らないよう全体を使った方が良い」「ブランチで線を切らずつなげたほうが良い」等、実践的なアドバイスをいただき、マインドマップ活用のコツを感じることができた。 佐藤氏はワークショップの運用で参加者間でフィードバックをするように場をデザインし、実行委員含めて全員がマインドマップの活用に集中できるようにするなど、非常に工夫したワークショッププログラムであった。なんども繰り返し考え抜くことが必要というスパルタ式のワークショップであったもののユーモアに包まれた進行で全員がリラックスして学ぶことができたように思う。
司会:松谷氏 講演者:池田氏、佐藤氏で、会場からの質疑に答えた
マインドマップの書き方としてグラフィックのアウトラインや樹形図のような書き方などあるが、良い書き方などあるかについて質問があった。
池田氏からは、マインドマップのライセンスに基づいた回答ではないが、個人の経験として回答。 書く人・読む人の間でルールが統一されていることが重要で、マインドマップの12のルールに従えばよく、形式的にこれというものはないとのこと。また、ルールだけでなく、マインドマップの中心となるセントラルイメージの作成に時間をかけるべきとのことである。何を考えなければならないのかを考え抜いたり、その表現を言語化することが困難であればイラストでセントラルイメージを表現することが重要で、20分程度かけるほど重要であるとのことであった。
佐藤氏からは、まずは表現する。セントラルイメージを書いてその後ワードを載せて構造を強化するように進めればよいとのことであった。これは池田氏からマインドマップの速記法と呼ばれる手法であるとの補足がなされた。
マインドマップがマッチしない作業はどういう作業がありえるか。発想・発散のツールという説明を講演を通じて説明を受けたが、不向きな目的・行為について教えてほしいとの質問があった。
佐藤氏からは、不向きな作業はこれまでに経験したことはない。収束させる状況においても自分の言語化の思いつきをマインドマップで整理する使い方をしているとのことだった。 池田氏からは、発散のために使うようにしているので収束するときには利用していない。ただし、発散は手触り、紙の五感を活かす形でやるとのこと。 そこから収束するときには、ツリー図のような表現形式・半構造の形式として使う場合もある。基本的にはもやもやしているときに使うよう割り切った方がいいと、両者から実践的なアドバイスがなされた。
マインドマップは手書きツールということで、字がきたない・絵心がないなどの問題があると使いにくい。そのような場合はPCツールを使うべきかとの質問があった。
池田氏からは、漢字や絵心についてご自身も自信がないとのことであったが紙で実践することが重要と回答された。また、絵についてもシンボルマークや、イラストつきシールを利用したやり方があると回答された。 また、PCツールよりも五感に頼ることで発想を生み出しやすいとのことで、PCツールではせっかく思いついたことを簡単に削除してしまうことで、思いついた内容が消えてしまい「これとこれがつながる」といった発想を阻害する考えを示された。佐藤氏からも、紙で実践することの重要さを強調。リモートワークの時も紙を使うべきということや、付箋を利用するといったやり方が呈示された。
画面共有しながら複数人でMindMupツールを使うシーンにおいて、手書きの大事な要素がそがれるとすれば何かという質問があった。(筆者注:MindMupとは、Sauf Pompiers社が提供するマインドマップ作製ツール)
池田氏からは、マインドマップで共有しながら作ることに問題があり得る場合を指摘。
共有することでお互いに表現や書き方の認識合わせを前提にするがために、発想が制約される場合がある。最初から共有するのではなくまずは個々に発想をしたのちに共有するといったプロセスを推奨された。
チーム共有し、ライセンスフリーでブラウザ上で利用できる、制約のあまりないツールはあるか?との質問が上がった。
回答として、MindMupのgoogle extension、Excalidrawや、miroといったツールの名前が挙がった。
不便さとその対策について質問があった。
佐藤氏は、最新版がわからない・紙の管理が大変といった不便さに共感されるとともに、最近はスマートフォンで撮影し共有することでアナログの不便さを解決できると回答。デジタルツールも便利ではあるが、アナログを活用することを推奨された。
マインドマップの活用において、どのような色を利用するべきかとの質問があった。
池田氏は16色か24色を手元に持ち、100均で売っているペンを活用しているとのこと。また、色彩心理学といったものがあり、例えば暗い気持ちになる色、攻撃的になる色、落ち着く色、寒い色・暖かい色など。自分のイメージがどんなものか色とつなげて考えたらよいとのことであった。
佐藤氏はマインドマップを描いていくときに、「この色で書きたい」という文房具を選ぶ楽しみで選んでいる。太字や白い紙でも映える色は重要とのことだった。
JaSST Kyushu 共同実行委員長 からそれぞれLTのセッションが行われた。
勉強する意味あります?といった意見に対するLT。資料は公開されている。
(https://speakerdeck.com/mineo_matsuya/mian-qiang-sitaradounaruno)
勉強すると今まで見えなかったものが見える、見えないがゆえに裏でどのような評価がなされているのか気づけないといったリスクを提示。
「勉強した知識を詰め込んでおくだけではただの頭でっかちになる。使って、悩んで、応用して自分のものにしていきましょう」といった勉強する人を勇気づけるLTであった。
筆者はマネジメントの立場からメンバーがそれぞれのペースで勉強していくことを大事にしていくべきだと考えている。LTの内容を参考にメンバーそれぞれが自分たちのために勉強するよう促していきたい。
Guardianグループのリーダーとして、ライブラリアップデート・不具合修正・パフォーマンス等の保守・運用を推進された内容のLT。資料は公開されている。
(https://speakerdeck.com/tosite/crenoshou-hu-zhe-tati-devopsxsihutorehuto-an-matapurodakutojiu-tutiyaimasita)
将来の負債を減らすことを狙いとした攻めの運用と守りの運用を推進し現在6:4で攻めが優勢であるとのこと。 DevOpsによるトイル(*1)の撲滅を進めるなど攻めの事例による全体の効率化の実現や、シフトレフトはプロダクトにかかわる開発者全員が意識すべきであるなど、品質強化に関する前向きな取り組みのLTであった。
*1:トイルとは、プロダクションサービスを動作させることに関係する作業のこと。
筆者も一時期インフラ運営にかかわっていたため、LTには強く共感するとともに、攻めの比率を高められた状況をうらやましく感じた。手作業で繰り返し行われがちなトイルは自動化することが可能であり、戦術的で長期的な価値を持たず、作業量がサービスの成長に比例するものである。定義や対処への考え方はO'Reilly社の「SRE サイトリライアビリティエンジニアリング」が詳しい。
参加レポートを書くまでがJaSSTであり、学んだこと・気づきを参加者の皆さんが書くようアドバイスとともに、昨年のJaSST Kyushuでも参加者全員のレポートを集約・公開するなど、コミュニティ全員が学びを共有するようJaSST Kyushu 実行委員で工夫されており、今年もこの取り組みを実施されたいとのこと。
また手島氏は6年実行委員長を続けられ今年の節目で盛大に開催できたとのことであった。参加者・講師・スポンサーなど全員で最後は盛大な拍手でCloseとなった。
筆者は11年前に参加して以来のJaSST Kyushu参加であり、沖縄でのJaSST参加は初めてであった。 マインドマップの活用は様々な業務で実践しているが、マインドマップについてしっかり学んだことも初めてである。 普段はテスト業務から離れ企業の企画業務を担っているが、講演で共通したメッセージとして「思いつかないものはテストできない」について深く共感している。 テストに限らず企画業務は発想ありきであり、その発想を促しコミュニケーションに活用できるマインドマップを深く学べたのは非常に貴重な経験であった。 最後のクロージングでは全員が非常に満足した面持ちであったのが印象的であった。
また、本イベントは故西康晴先生(以降、にしさんと表記)が亡くなられてちょうど約1年の開催である。テストアーキテクチャの表現としてマインドマップが適合するか検討した話を池田氏がされるなど、懇親会を含め様々な方からにしさんのエピソードが出ていた。今回のイベント参加者はそういった様々なエピソードを共有しており、そこから技術やコミュニティに関して多くを学びとり、それぞれの組織や自身に知見を持ち帰ったであろう。全員が各自の現場でマインドマップを応用し、新しい発想を現場で生み出し、これまで以上の新しいエピソードを生み出し、今後も共有していくに違いない。
記:徳 隆宏 (JaSST Kansai 実行委員)