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2024年6月21日(金) 東リ いたみホール(兵庫県伊丹市)
JaSST関西は2019年からコロナの影響でオンサイトの開催は中止されていたが、5年ぶりに再開する事ができた。当日は久しぶりのオンサイトの開催という事もあり、多くの参加者が集まり、会場はほぼ満席であった。9時30分に実行委員長の堀川氏からオープニングセッションが始まった。しかし、久しぶりのオンサイトの開催のためか、設備の接続に問題があり、5分間の調整を経てようやく再開する事ができた。堀川さんは今年のテーマ「QAはどう生きるか~テストと品質保証の枠を越えて」について述べ、一日のイベントを楽しんで過ごしてほしいと締めくくった。
部門一人目のQAエンジニアとして奮闘し、その経験とコツについて語った。発表の概要は以下の通りである。
伊藤氏のセッションでは、QAエンジニアの役割がテストにとどまらず、テスト自動化ツールの管理や障害情報の分析基盤構築、そして開発チームの改善と関係構築にも重要である事が示された。伊藤氏はトップダウンとボトムアップのアプローチを組み合わせたQA活動や、組織全体の品質向上に向けた具体的な取り組み事例も説明し、QAエンジニアには広範なスキルと柔軟な対応が求められる時代であると強調した。
伊藤氏の発表「QAエンジニアの仕事をつくる」を拝聴し、大いに感銘を受けた。筆者はこれまで、QAエンジニアの役割や位置づけについて考えてきたが、今回の発表により理解が深まった。
伊藤氏は、部門で初めてのQAエンジニアとして、どのように仕事を構築し、開発組織に貢献してきたかを具体的に述べた。彼の経験から、QAエンジニアの役割はソフトウェアの品質確保だけでなく、開発チーム自体を向上させ、環境やプロセスを改善する事であると理解した。これは、開発エンジニアが製品そのものを考えるのとは対照的であり、QAエンジニアには広範な知識やスキルが求められる。
特に印象に残ったのは、伊藤氏が強調した関係構築の重要性である。開発チームやステークホルダーとの信頼関係を築き、テストプロセスを可視化し、定期的なチェック体制を整える事で、組織全体の品質向上を図る姿勢は、QAエンジニアの本質を捉えている。
筆者も、一人目のQAエンジニアとしての挑戦に向けて、伊藤氏の経験を参考にしながら、幅広いスキルの習得や関係構築に努めて行く決意を新たにした。
福元氏は所属しているチームでは、Garoonから新しいインフラへの移行作業を進めている事を紹介した。この移行はGaroon全体に影響を及ぼすため、QAの作業では単にGaroonの機能だけでなく、Garoonを取り巻く他のサービスとの関係性も把握する必要がある事を語った。全体の構造を理解し、テスト設計の漏れを防ぐために、どんな取り組みを行ったかを紹介した。
寺田氏は実例マッピングの概要とその実施手順について解説した。さらに、新卒2年目の視点から自身が実施した実例マッピングの経験を振り返り、得られた感想や学びを述べた。
福田氏はQA業界における人材育成の重要性を強調した。QAは社会的に重要な役割を果たし、品質が人々の財産や命に関わるため、失敗が許されない仕事である事を語った。しかし、IT需要の増加に伴い、QA専門家の不足が深刻化しており、福田氏はアクティブラーニングや講師としての育成、育成プロセスの改善、具体的なテスト計画の立案など、これらの課題に対する解決策を紹介した。
三木氏は、QAエンジニアやスクラム開発の経験がない状態からインプロセスQAとして成功するための重要なポイントを共有した。具体的には、テスト活動を出発点にして得た実践的な経験や洞察を通じて、インプロセスQAに必要な意識の変化についても議論した。初めて行ったシフトレフトや品質向上の取り組みを通じて、実装前の段階からの関与や、仕様の明確化、プロダクトドメイン知識の習得などが重要である事を示した。このセッションは、インプロセスQAに興味がある人や挑戦したいと考えている人にとって有益な情報となる事を目指している。
岸氏は、QAエンジニアの増加に伴い、客先常駐が主流となりつつあるビジネスモデルに対する課題や、エンジニアのスキルに一貫性が欠ける可能性、そしてエンジニア自身がその問題に気づきにくくなる危機感を抱いた。そのため、テクバンの優れたQAエンジニアを集めて、独自のQAメソッドである「STEMS」という基準を開発した事について紹介した。これにより、QAスキルの均一化を図り、現場でのばらつきを防ぐ取り組みはできたと述べた。
福元氏の発表からは新しいインフラへ移行する場合、テスト設計の漏れはよくある事を気づいた。
寺田氏の発表からは新卒2年目でありながら、すでに新たな挑戦を成功させ、素晴らしい成果と振り返りを得ている事に、筆者は感銘を受けた。
福田氏の発表からは人材育成のためにまず講師として育成する事が重要であり、その点について私は強く賛同している。
三木氏の発表からはテスト工程は実装完了を待たずに、事前テストの準備が非常に重要であり、早い段階でテストを行う事の重要性を強く認識している。
岸氏の発表からはこうした全社展開のメソッドが業務の標準化に対して非常に重要であるという考えに共感し、筆者も実践してみたいと思った。
miisan氏は「品質活動=事業貢献」という視点から、令和トラベルにおけるQA文化の初期構築と、スピードを重視したプロダクト開発における品質管理について詳しく説明した。具体的には、QA戦略の立案やチーム全体の品質向上活動に焦点を当て、さらにQAエンジニアのキャリアパスについても考察した。
筆者はmiisan氏の主張に賛同し、「プロダクトのスピードアップには品質を犠牲にする事はできない」と考えている。筆者が関わるプロダクトも同様の課題を抱えており、miisan氏の定量的な品質管理手法が有効である事から、その手法を参考にして実施する意向である。
本セッションでは、JaSST関西の実行委員メンバーが、それぞれが日々抱えるQAエンジニアとしての課題や取り組みについて、ライトニングトーク形式で話した。参加者は、多彩な経験と視点から共感や新たな洞察を得る事ができた。
各メンバーの発表内容は以下の通りである。
山下氏は、自分が身につけた品質に関する知識を世の中に還元する(貰う側から渡す側に変わる)ための取り組みについて紹介した。
谷口氏は開発エンジニアからQAエンジニアへの移行に関する共有と振り返りを行った。
川嵜氏はQAエンジニアとして、テスト以外の業務について紹介した。具体的には開発コードの作成や仕様の策定などの作業を行った。
森永はQAエンジニアとしての業務を担当しつつ、同時にスクラムチームのスクラムマスターも兼務している際の日常業務と課題について述べた。
鍋島氏はQAエンジニアとしての生き方について考え、これまで遭遇した大きな三つの壁について詳細に述べた。
徳田氏はソフトウェアテストの概念について、緑色でイメージしており、それはソフトウェアテストが快適であるという認識を持っている。これまでの経歴と今後の計画についてもお話しし、JaSSTの実行委員の募集要項についても述べた。
筆者は山下氏の言葉に深く共感した。山下氏は30代になり、自らの学びを元に他者に教える立場に移行する事を考えている。将来、このような姿勢を持つQAエンジニアが増えれば、QAの精神や知識がより多くの人に伝えられると期待できる。
平田氏は品質管理メンバーだけでなく組織全体が参加し、プロダクトの品質向上を担保するための具体的な取り組みについて紹介した。重要な要素としては、認知とコミュニケーションの促進、組織体制の見直しと推進、データと分析の活用、品質管理メンバーとの緊密なコラボレーション、全員参加型の品質向上アクションプランの実施が挙げられた。
平田氏は組織全体で品質を担保するために、5つのステップを紹介した。筆者は各組織間のコラボレーションが非常に難しいと感じており、2年間で品質向上のために全員で指標を元にしたアクションを実現できた事は素晴らしいと考えている。筆者が所属するチームでも、平田氏の経験を参考にして、どうコラボレーションを進めるかを検討したいと考えている。
筆者は今回のJaSST関西への参加を通じて、これまでの疑問が解決されたと感じている。QAエンジニアとして、自ら積極的に仕事を進め、ステークホルダーと連携しながらQAアプローチを考える事の重要性を理解した。良いQAエンジニアになるためには、自身のスキル向上だけでなく、ステークホルダーとの共通理解を築き、定量的な品質管理手法をチームに導入する必要があると認識してきた。また、初めてのオンサイト参加で登壇者の気持ちをより深く理解できた事から、今後もさらにオンサイトのJaSSTに参加したいと思っている。今回学んだ知識や経験を、今後の仕事に生かして行きたいと考えている。
記:孫 俊傑(JaSST東京 実行委員)