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2024年8月23日(金) 札幌コンベンションセンター
JaSST'24北海道は、札幌コンベンションセンターでのオンサイト開催となった。
今回のテーマは「りすっきりんぐテスト」であり、テスト技術・知識の学び直し、より深く・新たに身につけることを目指すという説明があった。
そのテーマに違わず、QAという業務に囚われない多様なセッションを聴講することができた。
ソフトウェア品質保証の世界は深く広く、リスキリングをする以前に内部がどのような構造になっているのかを理解する必要がある。
これをRPGのダンジョンに例えて、数珠つなぎ的に解明していくセッションとなった。
QAエンジニアとして普遍的な一歩目であろうテスト実行に始まり、バグ管理分析、テスト計画、分析、設計等、ダンジョンの深層へ潜っていき、それぞれの技術に対する古典的手法と新たな手法が示された。
特に新たな手法としては、機械学習や生成AIを用いたバグ分析やテスト設計などが紹介された。
生成AIに意図した出力をしてもらうには上質なプロンプト(命令文)を入力する必要があり、既存業務を代替してもらう代わりに文章力という別のスキルが必要である等の例が挙がった。
また、開発を取り巻く人間に対する安全性や技術者倫理なども今後重要になるとし、QCD(Quality、Cost、Delivery)に Safety + Compliance の2つも加えるべきだと主張し、それらに関するリスキリングの必要性についても述べた。
最後に登壇者の今後リスキリングしていきたいこととして「テストプロセスの上流工程」「生成AI関連」「人間の心理や行動、価値観」を挙げ、セッションを終えた。
自分自身の今までの経験の中で、自身が携わっている業務がQAダンジョンのどこまで探索できているのか、次のステップにはどのような知識が求められるのか、今後どのような学び直しが必要なのかを振り返る良い機会となった。
リスキリングは単なる業務範囲の学び直しだけではなく、業務を取り巻く環境の見直し等も含めたマクロな目標だと言える。
時代と共に求められるスキルも流動的に変化しているため、リスキリングは非常に重要であると感じた。
本セッションは、大塚氏が代表で講演を行った。
IoTシステムのテスト自動化を、AWS IoT Greengrassというツールを用いて実現した。
通常のソフトウェアテストと異なる点として、エッジデバイス(各種センサや現場側のコンピュータ等)とクラウドとの通信を中継するIoTゲートウェイという機器のテストを行った。
対向装置を含めたテスト環境構築の高速化、およびテスト自動化を行い、自動化可能範囲のテスト工数を60%程度削減することができた。
ハードウェアが絡んだ特殊環境におけるテスト自動化ということで、前例がほとんど無い中で一から立ち上げなければならなかった。
その背景の元でAWS IoT Greengrassを使い、IoTシステムの自動化可能性を示したことには、非常に大きな意義があると感じた。
河野氏の所属するナレッジワーク社は、社員40名(内QA6名)というスタートアップ企業である。
QAエンジニアの能力を評価するにあたり、スキルアセスメントおよびキャリアラダーの策定を行ったことと、その運用状況について報告した。
既存のTest.SSFのような資料はそのまま転記しても業務の実態とズレている場合もあり、扱いきれないことが多い。
そのため、メンバーの実務を参考にボトムアップで考えるべきだと述べた。
副次的な効果として、既存メンバーの能力俯瞰、今後の目標把握、スキルセットモデルの設計等が挙げられた。
一言でQAエンジニアと言っても、テスト実行、テスト設計、自動テスト等をはじめとして、その業務は非常に多岐に渡る。
QMファンネルに代表されるように、QAエンジニアは数直線的に評価することが難しく、多面的な評価が求められる。
まず実務ベースで考え、今ある業務がどれくらい遂行できているのかを実直に評価していくのは理にかなっていると感じた。
ただし、今後の業務にまったく新しい技術を求められるようになった際に、それに柔軟に追従していく必要性があるとも感じた。
当初限定的だったPOSTMANの利用範囲を広げ、様々な業務を自動化・効率化し、プロダクトのQCD向上に貢献した。
具体例として、OAuthトークンの再発行、機能テストの自動化、性能テストのPOSTMANへの移行などが挙げられた。
業務で利用しているツールへの理解を深めることで、その価値を十分に発揮することができると述べた。
本セッションはPOSTMANを活用した事例だったが、google apps、GitHub、Jira等のツールにも同じことが言えると感じた。
普段これらのツールの機能を100%使えているだろうか、と内省させられた。
また、既存業務に対して、より効率化できる手法があるのではないか、と考えるキッカケとなる良い事例だった。
ソフトウェアテスト未経験の新入社員に対して、去年から育成カリキュラムの下で研修を行っている。
いままではOJT頼りになってしまい、担当者によるばらつきや体系的知識の不足が課題となっていたが、それが改善傾向にある。
研修資料の作成など事前準備にかなりの労力を要したが、新入社員の戦力化のリードタイム短縮やテスト関連資格の保有率向上といった、具体的な数値にも効果が現れている。
OJTでの叩き上げは筆者にも経験があり、新入社員と担当者の能力に非常に大きく依存することを思い出した。
本研修では新入社員のスキル底上げの他に、QAエンジニアとしての将来的な業務および必要になるスキルなどにも触れており、新入社員ひとりひとりが能動的に将来像を描いて実践していける環境作りができているのが、非常に魅力的であると感じた。
また運営側の改善にも取り組んでおり、ビデオ教材の自作やタイムスケジュールの取り決めなど、効率よく新入社員研修が進められる下地づくり行い、研修の再現性を確保しているのが印象的だった。
中村氏はSE、経理、農家といった変わった経歴を持ち、趣味を通じてジャガイモについての同人誌を頒布する、大学の経済学部での知識を元に投資を行う等の経験が今の会社経営に活きていると述べた。
事業内容の一例として、紅茶を輸入したい!という手段から始まった商品開発の例が挙げられた。
紅茶を自社で扱うためには、商品衛生法などの輸入に関する法律をはじめとして、農園やパッケージ工場との交渉、販売経路の確保などが必要である。
事業としては赤字ではあったものの、それらのノウハウを得られたことが価値であり、この赤字は勉強代として吸収できると述べた。
会社経営は公私混同の最終地点とし、いままで得た様々な経験が会社運営に役に立っているとして、講演を閉じた。
手段ありきでやりたいことをやる、堅実に投資をして資本を確保する、この2つを有言実行しているところが流石だと感じた。
はじめは衝動であっても、そこから得られる経験をちゃんと吸収して次に繋げる、という姿勢は学ぶところが多かった。
また、基調講演でも触れられているように、一見直接的には関わらないように見えるスキルであっても、将来的に活かせることの実例を紹介していた。
中村氏は会社経営に経済学、同人誌制作スキル、PC知識などすべてが動員されていると述べた。
例えば、QAにおいて心理学や行動学などは昔は必要がなかったが、現代では温度感が高くなってきている。
そのように全く異なる分野の知識も吸収していくことで、唯一無二のキャリアを築くことができるのではないかと感じた。
昨今、リスキリングという言葉はよく耳にするようになってきたが、QAという広い業務を行う中で「そもそも何から取り組めばいいのか?」が非常に難しいと肌で感じていた。
JaSST'24北海道は、「りすっきりんぐテスト」のテーマを元に、学び直しの方法やこれから学ぶべき技術に始まり、学んだ経験を元に独特な会社経営ができている、という講演で幕を閉じた。
一度の学びで終わらせずに新しい技術・知識を吸収し続ける、そしてその先にある未来の自分の姿を想像する上で、非常に学びの多い一日となった。
記:池原 洋