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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2023 新潟

2023年9月22日(金) 於 オンサイト開催(新潟県新潟市)+オンライン開催

ソフトウェアテストシンポジウム 2023 新潟

はじめに

本シンポジウムは昨年同様、現地とオンラインのハイブリッドで開催された。
会場であるNINNO(ニーノ)は「新潟+イノベーション」の拠点として名付けられ、スタートアップやベンチャーが集まっている施設である。

基調講演
「QA組織に仲間を増やしていくときに大事なこと」
 湯本 剛 氏 (freee/ytte Lab)

講演の概要は以下のとおりである。

  • 仲間を増やすために「QA人材育成」をはじめた
  • QA人材育成で必要になること
  • スキルアセスメントをどう作ったか
  • QAメンバーにセルフスキルアセスメントを実施してもらった
  • スキルアセスメント結果からどのようなことがわかったか
  • QA人材育成の今後に向けた課題
仲間を増やすために「QA人材育成」をはじめた

開発規模の拡大に伴い、育成にノウハウのない状態で進めるのはよくない。
経験と実力を兼ね備えた人材だけを採用するのではなく、未経験でもポテンシャルのある人材は採用し、内部で育てる。
経験と実力を兼ね備えている人が入っても、仕事のやり方が違うこともある。
freeeのQAとしてスピーディーに仕事に入ってもらうために、覚えることを整理して伝える必要がある。

QA人材育成で必要になること

QA人材育成に関して、以下の3つのポイントから取り組みを進めた。

  • 何をどこまで教えるべきか、スキルのレベル感を確立する必要がある
    ⇒ スキルラダー/スキルアセスメントシートの作成 : 詳細については後述の「スキルアセスメントをどう作ったか」で説明する
  • 教えたスキルは実際に現場で使える必要がある
    ⇒ プロセスや成果物の標準化 : こちらも詳細については後述の「スキルアセスメントをどう作ったか」で説明する
  • 入社後最初に学ぶべき内容をカリキュラムにする(1~2週間での実施を想定)
    ⇒ QAオンボーディングの実施 : 実施結果については後述の「QAメンバーにセルフスキルアセスメントを実施してもらった」以降で説明する
スキルアセスメントをどう作ったか

スキルアセスメントは下記の4段階で進められた。

  1. フレームワーク:物事を考える軸
  2. スキルラダー(段階)
  3. ロールカテゴリ:役割を明確にする
  4. スキル項目を洗い出す

スキルラダーのレベルの定義について

  • ジュニアレベルまでは、全てのエンジニアが持っているべきスキルを定義
  • ミドルレベルから専門性が加わる(人により得意・不得意があるため)

スキル項目の前に大きなイメージを作り、それを開発者やQAマネージャとイメージのすり合わせを行う。
早く仕事ができてほしい、そのために「自立性」を大事にしている。

標準化の推進について

  • 標準化を宣言し、SOP(作業手順書)を良いナレッジを共有しながら作っていく
  • リポジトリを共有し、他の人でもメンテできるように進める

標準化はやり方を間違えるとモチベーションが低下する点を意識した。
やりたいことはアウトプットの標準化であり、細かいプロセスは決めない。
プロジェクトを横断し共通化している部分を標準化することで、人材の流動が容易にできるようになる。

QAメンバーにセルフスキルアセスメントを実施してもらった

スキルアセスメントとオンボーディングを実施した1年半の取り組みでは、まだまだな部分はある。
セルフアセスメントゆえ評価者のポジティブ/ネガティブによる結果の差は出てしまうが、そこは許容する。
継続的なアセスメントを実施し、全体的に上がっていれば良い。

スキルアセスメント結果からどのようなことがわかったか

自立できる度合い(サポートが必要か否か)の推移をラダー別、ロール別で見ている。
上がるだけではなく、下がることもある。
下がる要因としてはハンズオンをやらなくなった、メンバーが増えた、などが考えられる。

QA人材育成の今後に向けた課題

育成は継続していかなくてはならない。

  • 育成担当の引継ぎ
  • 単発の施策の今後:やらなくなったハンズオンの見直し、など

仕事のやり方や環境は変化していくため、アセスメント項目もブラッシュアップが必要である。
最初の1年でうまくいったとしても手を抜いてはいけない。

筆者感想

トップダウンでの"やらされ感"のあるアセスメントではなく、モチベーションを維持し使い続けることを前提として考えられており、スキルアセスメントを含めた標準化全体のあるべき姿だと思った。自チームでの取り組みの際にもポリシーとして忘れずにインプットしておきたい。

「QAスキルアセスメントとオンボーディングで乗り越えた壁とこれから乗り越える壁」
 本多 顕成 氏(freee)
 川満 勇哉 氏(freee)

QAオンボーディングを受けての感想(川満氏)
これまでの現場と比較して良かった点
  • 適切なテストを考えるきっかけになった
  • QAチームから開発活動の提案ができるのも良い
  • 納得感があるQAをするための工夫が為されている
  • 「やらなくていいこと」をしっかり決めている
  • QAの大切さの気付き:バグよりも機能がどう動いているかを見せる
オンボーディングに対してのQA組織の雰囲気

皆で困っているところを助け合う姿をよく見かけた。
チャット欄が自発的に盛り上がり、発言しやすい雰囲気が作られている。

オンボーディングを受けた中で困ったところ
  • 項目が多いので何から手を付けたらいいかわからない
    ⇒ OP(オンボーディング・パートナー)が相談に乗ってくれる、フォローアップの体制がある
  • 納得感のあるテストの提案が難しい
    ⇒ チーム内で話し合い共通認識を持つことが重要である
制度ができる前の組織や、オンボーディングを運営する立場から見た課題など(本多氏)
スキルアセスメント・オンボーディング導入以前のQA組織

QAがプロダクトを広く浅く見ている状態から、プロダクトの拡大に伴いQAが専任となっていった。
ドメインを深く知ることで効率的なテストができるようになり、失敗も踏まえプロダクトと併せて人が成長していった。
開発組織がスクラムへ移行したことでコミュニケーションが密になり、要件定義からQAが参画するようになった。
一方、QA組織の横のつながりが希薄になり、良い取り組みを共有する場がないことが課題だった。

オンボーディングの目的・課題

テストの流れやドメイン以外のアウトプットを統一したい。
テストチャーターの理解や「1ページテストプラン」、「リスク洗い出し会」といったfreee独自のやり方を理解してもらうことが目的である。

オンボーディングにより入ってくるメンバーの"質"は変わったか?(川満氏)
⇒ 現場で教えることが少なくなり、現場の教育コストは下がった。

<課題>

  • オンボーディングには一定のコストが掛かる(コスト意識を持つ)
  • オンボーディングは実務によりスキルとして身につく。それを受けたから一人前になるわけではなく、その伝え方にも気を付けている
スキルアセスメントの目的・課題

スキルアセスメントはQAテスト担当をジュニアレベルに引き上げることが目的である。
この取り組みによりキャリアパスが描きやすくなった。
ミドルレベルは様々な方向性があるが、専門領域のバランスが良い状態で分散すると良い。

<課題>

  • 結果に対する一定の客観性も必要ではないか
    ⇒ セルフチェックとはいえ、気分のブレが評価結果につながる懸念もある
  • レベルの判断の難しさがある
    ⇒ ミドルレベルの人でもシニアレベルの項目ができる、逆に下のジュニアレベルの項目でできないものもある
筆者感想

オンボーディングの実施者と評価者という異なる立場から取り組みのメリットや率直な課題を聞くことができ非常に参考になった。
通常、アセスメントとなると受ける側がネガティブな印象に捉えがちだが、本事例では逆で、受ける側がメリットを感じてポジティブに捉えていたことがこの取り組みの良さを表していたと思う。

「QAスキルアセスメントdeep dive」
 湯本 剛 氏 (freee/ytte Lab)
 本多 顕成 氏 (freee)
 川満 勇哉 氏 (freee)

事前にスキルアセスメント項目へのアンケートが取られており、パネリストがそれに回答する形で進められた。
実際にfreeeで使用されている資料を映しながら解説が進められた。

筆者感想

スキルアセスメント項目を通じて、テストのプロセスや成果物、タスクの目的や考え方を知ることができた。
特にテスト計画へのスピード感に自チームと大きな意識差があり、それを実現するためのドキュメントのあり方や進め方に工夫があり、自チームでも早速取り入れたいと思った。

筆者感想(全体)

今回のシンポジウムは、スキルアセスメントを作った側、それを使ったオンボーディングの実施者と評価者の三者の視点から話が展開された。
そのため偏った視点や一方的な成功談とはならず、課題や難しさの側面があることもわかり、決して簡単な取り組みではないことは聴講者に伝わったと思う。
こうした標準化は組織の成長には必要不可欠であり、決してモチベーションが上がる作業ではないと思っていたが、講演内容とそれを話される講演者の表情や雰囲気から、アプローチ次第でモチベーションも維持でき、メンバーの成長に寄与する取り組みにもなることがわかり、考えを改めたいと思った。

記:堀川 透陽(ASTER)

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