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2023年11月2日(木) 於 オンサイト開催(福岡県福岡市)+オンライン開催
JaSST’23 Kyushuは、オンサイト(福岡市 天神チクモクビル) + オンラインのハイブリッドで開催された。共同実行委員長である手島氏の挨拶では、初学者・経験者への学び直しを意図している旨が伝えられ、QA・テスト業務の楽しさや奥深さを伝えようとする姿勢が感じられた。
QA・テストエンジニアが備えるべき心構えや技術について、演習を交えて説明する内容であった。
最初の演習では、参加者自身が思う「すごいテストをする人」像を書き出した。テストに必要なスキルは多岐にわたり、幅広い知識や経験が求められることが示唆された。
また、ここで福田氏自身のエピソードが語られた。顧客にもたらす価値を考え抜くことや、一緒に働く関係者に対して強い信頼を置くことなど、業務に対する心構えの大切さが説かれた。
次に、製品の利用者と提供者の立場を想定した演習が行われた。特に製品の提供者には、エンジニアやデザイナー、営業など様々な種類があり、それぞれ重視する点が異なる。様々な関係者の関心を多角的に分析しつつ、最終的には顧客を満足させることが重要である。
最後に、具体的なユーザーインターフェースを用いて、テスト分析の解説が行われた。
仕様の曖昧な点を厳密に定義することで、テスト条件が明確になる。また、福田氏は現在の仕様が必ずしも完璧ではない可能性に触れ、仕様の背景や、改修の容易さなどにも踏み込んで考慮することの重要性を語った。
具体例を以下に示す。
仕様:シンポジウムの参加料計算で、未成年を無料とする。
背景:自由にお金が使えない未成年者の参加を促すことで、彼らのキャリアの選択肢を増やすことに貢献できる。また、未来の技術者への投資とも捉えることができる。
このような仕様の背景を知ると、「できるだけ多くの人を未成年と定義できる方が良いのではないか?」といった議論に発展する。
同演習では更に、テストの原則やテスト技法の解説も行われた。
講演の最後に、福田氏は以下のように締め括った。
テストは子どもにもできる簡単なものもあるかもしれないが、熟練者を目指すと難しいことがわかったと思う。熟練者になるためには、日々の積み重ねが重要である。
初学者に向けて、テストの楽しさや面白さを伝えるとともに、幅広さや奥深さも伝える講演であった。福田氏のエピソードから伝わるプロ意識の高さや真摯さも素晴らしく、筆者自身も襟を正す思いである。時期は未定ながら動画公開の予定もあると伺っているので、今回参加できなかった皆様も是非ご覧いただきたい。
本講演では、開発ライフサイクル内のあらゆる箇所でテスト活動が行われている状態を「継続的テストが実現されている」と定義し、架空の開発チームを題材に、継続的テストを実現するための取り組みが説明された。
開発チームは、2週間単位でリリースを行うスクラムチームである。最初はQAによる手動テストがスプリントの終盤で実施されている状況であり、一度にリリースする量が多いことによる様々なデメリットが課題感となっていた。
課題の分析と対応を繰り返す中で、E2E自動テストが開発ライフサイクルの中盤から終盤にかけて実施されるようになり、自動テストが様々なテストレベルに展開(移譲)された。
チームの視座も段階を追って上がり、開発に着手する前からビジネスルールやテスト計画について議論できるようになった。機能性以外の品質特性にも着目するようになり、ユーザーからの早期フィードバックを得る仕組みを構築した。また、E2E自動テストを実装する前にQAを含め合意することで、手動テストなしでのリリースも実現した。更に、監視の仕組みを導入し、リリース後に問題が発生した場合も検知できるようにした。
このようにして、テストが開発ライフサイクルのあらゆる箇所に浸透した。
講演の最後に、末村氏は以下のように締め括った。
本講演の内容はあくまで叩き台であり、そのまま実務に適用できるものではない。参加者各自が自身の課題を明確に分析してほしい。
自動テストが組織に浸透していくプロセスを視覚的に学べる素晴らしい講演であった。
また、課題の分析と対応が繰り返される様子を通じて、アジャイル開発における高速なフィードバックサイクルを擬似体験できたことも印象的であった。
基調講演者の福田氏、および招待講演者の末村氏に対する質疑応答の時間が設けられた。
ここでは、筆者として特に印象に残った質疑を1件紹介する。
質問QAとして、立場が低くて嫌だったことはあるか?その場合、どのように改善したか?
末村氏:
雑用を担当していた時期があり、当時はいわゆるメインストリームには入れなかった。改善できたと言えるかは不明だが、自分が開発者だという自覚は崩さなかった。コードを読む努力はしたし、インシデント対応は必ず開発者と一緒に実施した。開発者ときちんと仕事をすることで、開発者を理解できるようになった。
福田氏:
そのような経験はないが、ソフトウェアを作ったエンジニアであれば当然できるであろうテストをしていると思っていた時期はある。その後、周りのエンジニアが修正せざるを得ないような提案ができるようになると、より必要とされるようになった。ゴールを見据えると、自然と対立構造にはならない。相手に対してへりくだることはせず、「この日までにリリースするにはこうしてほしい」といった相談をする。
講演に続き、講師のお二人の熱意が伝わってくるセッションであった。質疑応答の時間が30分と長く、講師とインタラクティブに質疑応答が繰り返されたことは、講演の内容を咀嚼する意味でも非常に有意義だったと感じた。
実行委員の嵩原氏(筆者注:嵩原氏は大学生である)のライトニングトークを起点に、
QA・テストエンジニアのキャリアの魅力などについてディスカッションが行われた。
ここでは、セッション内で話された内容を何点か箇条書きで紹介する。
学生や、これからQA・テストエンジニアをキャリアの選択肢として考える社会人にとって、様々な意見を聞くことは有意義であったと思われる。筆者自身にとっても、キャリアを見つめ直す良い機会になった。
QA・テストエンジニアという職業の楽しさ、面白さ、難しさ、奥深さなどが多角的に盛り込まれた素晴らしいシンポジウムであった。基調講演および招待講演の講師のお二人から滲み出る真剣さやひたむきさは、特に初学者や学生の方に対して強く印象付いたのではないだろうか。
また、今回筆者はオンサイト参加をさせていただいたが、実行委員を含めた参加者の熱気はオンライン参加では経験できないものであった。物理的に同じ空間でコミュニケーションをすることの良さをあらためて感じる1日となった
記:藤原 考功(ASTER)