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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2022 北海道

2022年7月15日(金) 於 オンライン + オンサイト(北海道札幌市)

ソフトウェアテストシンポジウム 2022 北海道
「Change the 道(うぇい)」

はじめに

 今年のJaSST Hokkaidoはオンサイトとオンラインでのハイブリッド開催となった。筆者はオンラインでの参加としたが、Discordでのコミュニケーションは現地参加にも負けない活発さが見られた。

基調講演
「ソフトハウス・トランスフォーメーション」
西 康晴 氏(電気通信大学)

第三者検証会社やニアショア系の会社、いわゆる「テストハウス」が抱える諸問題について言及し、それらとどう向き合っていくかについてお話いただいた。

講演概要

ITや製造業では、1990年代後半より「伝統的オフショア開発」という開発スタイルを取るようになった。これは海外、特に時差が12時間ほどで単価が自国より安い国に開発を依頼することで、24時間稼働とコストダウンを実現することができるというものだ。しかし、2010年頃から、「意外と手間がかかる」「実はそれほどコストが下がらない」「発注側の技術の空洞化」といったデメリットが目立つようになっていった。
そこで、より賃金の安い自国のテストハウスへ作業を依頼する「ニアショア開発」が主流となっていった。しかしニアショア開発は、地方の、特に若いエンジニアにとって「自分が幸せだ」と言えるようなビジネスモデルとは言い難い。また、リモート環境の充実などにより時代が進むにつれ、「日本人エンジニアの質と供給力の低下」や「リモート環境の充実」により、ニアショア開発のデメリットが目立つようになってきた。言い換えると、ニアショア開発のメリットが小さくなっていったのだ。
なんとかしてビジネス形態を工夫(=トランスフォーム)しなければ、日本のソフトハウスは㓊落の一途をたどっていくことになってしまう。
ソフトハウスは稼働率向上ビジネスであると言われている一方、稼働率の向上だけを目指していると、技術力の向上に工数を振ることができないため、結果として単価が上がらず、利益率が下がってしまう。
また、お客様との関わり方も重要だ。お客様先の言いなりで技術的施しを受ける「神様ビジネス」や、自分たちよりも低い技術力のお客様と付き合う「グレーターフールビジネス」では稼働率は向上するものの、技術力は上がることなく、低単価で買い叩かれ続けてしまう。
ソフトハウスがお客様との関わり方で大事なことは、技術力の向上を共に目指したり、知識や経験を体系化したりすることで、お客様が惚れ込むようなビジネスを売り込んでいくことである。
つまり、ソフトハウスは「学び続け、改善し続ける」「お客様の本当の悩みに向き合う」といったマインドセットが必要である。
現在、リモートが普通になり距離の壁がなくなり、「世界一の仕事」を目指せる世の中になっている。われわれは覚悟を決めなければならないのだ。

筆者感想

筆者自身も現在第三者検証会社に所属し、お客様先に常駐する形で勤務している。今回の講演を聴講し、「自分自身がお客様とどう向き合うべきか」という視点で自身の働き方や仕事への考え方を見直すことができた。

事例セッション3A-1
「総合試験実施フェーズにおける、探索的テストの導入に向けた取り組み事例」
藤沢 敏浩 氏(日本ナレッジ)

セッション概要

業務系システムの開発プロジェクト内で探索的テストを導入する際の課題と解題解決への取り組みについてお話いただいた。
探索的テストは「担当者のスキルに依存してしまう」などのデメリットが挙げられるが、チーム内のコミュニケーションを密にすることで、状況に合わせた観点等の変更を素早く展開することができた。結果として、探索的テストは期間を通してコンスタントに不具合を検出することができた。さらに、チーム内のコミュニケーションが円滑になったことが、技術面を含めたスキルアップにつながった。
今後は今回の事例をもとに、ガイドライン化や標準フォーマットの定義が必要である。

筆者感想

探索的テストはテストケース作成が不要である反面、ドキュメントが少ない分、記述式テストに比してエビデンスが不足する、不具合の再現が難しいといった問題点もある。筆者は、これらはプロジェクトマネジメントによってカバーできると考えているが、そのヒントを本セッションで得ることができた。

事例セッション3A-2
「Microsoftの『Power Automate』はテスト自動化ツールたり得るか」
山本 涼平 氏(日本ナレッジ)

セッション概要

自動化の推進にあたって、テストエンジニアの言語スキルとテストツールの価格という壁が存在する。QAチームがメインで運用するため、言語スキルが不要で直感的に使いやすいツールであるという条件下でMicrosoft製の「Power Automate」がツールとして妥当であるかを検討する。
Power Automateは導入のしやすさや使いやすさという点では魅力的である一方、検証用のコマンドが用意されていないこと、フローの共有には全員分の有償アカウントが必要であることが課題であった。
上記の課題らを検討した結果、Windowsアプリ向けのローコードツールとしては使いやすいが、「ローコードで簡単にテストを作れる」という点では難しい、という結論となった。

筆者感想

自動化ツールの選定をどのように進めるかについて学ぶことができた。選定ではメインで使用する人のスキルや規模、予算などが基準となる。候補となるツールが見つかっても100%希望に合致するようなものはなかなか見つからず、大抵は何らかの課題が発生する。それらをどう解消していくかを実際に利用する人たちと検討する考え方を知ることができた。
この考え方は自動化ツール選定の場面以外にも、「複数の選択肢の中から適切なものを選択する」という場面で応用することができると考えた。筆者も今後何かを選定する際にはこの考え方を参考に、できるだけお客様の要望に応えられる選択ができればと思う。

招待講演
「欲しい未来を形にする5つの方法」
黒井 理恵 氏(なにいろ工房)

JaSST Hokkaidoではテスト業界以外の業種の方の講演も聞くことができる。今回は黒井理恵さんに講演していただくことになった。

講演概要

まず、何かを始めるときは「なんのために始めたいのか?」という気持ちに気づくことが大切である。また、心の中にある小さな違和感に気づくことが必要である。しかし、現代ではなかなか「自分の心と向き合う時間」を取ることが難しい。そこでおすすめなのが「マインドフルネス」である。
さらに、仲間を見つけることも必要である。新しいことを始めるとき、全てを1人でやる必要はない。さまざまなタイプの人と一緒に、それぞれが得意とすることを進めていけば上手くいくはずである。

筆者感想

筆者自身、新しいコミュニティの設立の瞬間に立ち会ったことがあるが、ある程度続くものとそうでないものの差は「どういうキャラクターの人が中心にいるか」だと考えていた。
今回黒井さんの講演は、筆者が感覚として持っていたものを、具体的な言葉として落とし込むことができる良い機会だった。
今後新しい何かを始めるときのために、自分の心と向き合うこと、周りの人と積極的に関わっていくことを継続していきたい。

おわりに

これまで、他の支部のJaSSTには参加したことがあったが、JaSST Hokkaidoは初めての参加だった。用意されている内容が実務に近く、とても分かりやすい言葉で提供された印象だった。
日々の現場での対応はアウトプットが中心のため、これからもこのようなイベントへ積極的に参加することでインプットとのバランスを取っていきたいと思う。

記:東川 玲菜(株式会社ウェブレッジ)

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