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2021年7月9日(金) 於 オンサイト開催(全セッションオンライン対応)
「Testiny ~テスト技術で運命を切り開け~」をテーマとし、16回目のJaSST Hokkaidoが開催された。
当イベントは オンサイト開催に加え、Zoom + Discord による全セッションオンライン対応のハイブリッド開催であった。
開始時間前は、Zoomに「じゅんびちゅう」という手書きのかわいい案内があり、JaSST Hokkaidoならではのアットホームさを感じる導入だった。
実行委員長の中岫氏によるオープニングセッションが行われた。
オンライン開催になってから、相変わらず東京からの参加者が一番多いが、北海道からの参加者が増えたと話した。オンラインになり、参加へのハードルが下がったのでは、とのことであった。
JaSST Hokkaidoの特徴は、「実体験の提供」と「異業種に学ぶ体験」にある。実際、ここ数年の招待講演は北海道を象徴するようなテーマを扱っており、オンサイトで参加をし、北海道を目で観て体で空気を感じると学びの相乗効果がある。昨年は、オンライン開催だったが、今年はコロナ禍でもオンサイト開催に踏み切った理由はここにある。
中岫氏は、「来られるようになったらぜひオンサイトで参加してほしい」と続けた。
カンファレンスのついでに観光もよいですよ、とさりげなく北海道愛をアピールするところも、北海道流おもてなしと感じた。
「Test + Destiny」で構成した造語である今回のテーマ「Testiny」を感じてほしい、という言葉で締めくくられた。
はじめに太田氏からの自己紹介があった。ゲームの仕事をしているが、プレイステーションのハード機を持っていないということも語られ、Discordの基調講演チャンネル内は沸いた。
また、チームには日本人が一人しかおらず、コミュニケーションの幅を広げるために様々な雑誌を読んでいるとのことであった。
趣味の幅が広く、ゲームはもちろんのこと、読書、筋トレ、オートバイ、自転車などの紹介があった。
時間を捻出し、休憩時間には技術書を読んでいるという太田氏のストイックな姿勢が垣間見える自己紹介となっていた。
ゲームが全世界を市場とするようになって久しい。家庭用ゲームは、ターゲットの幅が広く、様々な角度からテストを行う。ハードの性能が上がり、ゲームで表現可能なことが増え、テストの数は膨大になってきた。結果、人海戦術では追い付かず、多言語対応や倫理の観点では自動化が困難なテストも存在する、と説明があった。
バグの特性として、システムテストで結合しないと発見できないバグが多く、マスターブランチに行く前に、倫理系などのテストを徹底的にする必要があるとのことであった。
ゲームチーム(コンテンツなど、ゲームを作成するチーム。この中に、テスト担当も含まれる)を支援する自動テストツールの開発を行っている、と太田氏は説明した。
手動では苦痛が伴うテストを実行でき、手動テストの効果の最大化を目指している。手動テストが限界に達していて、苦痛なので、とにかくそこを支援したい、と語った。
自動テストツールの機能には、自動リプレイ(リグレッション、進行不能パターン、レアバグ発見、長時間プレイ)、自動探索(徹底的な探索、網羅)、バグ自動分類(故障の原因分析、再現性の確認)があるとし、それぞれのメリットと課題を次のように示していた。
自動リプレイや自動経路探索を実行している動画が講演内で披露された。言葉だけでなく、実際に動画として視覚化された状態の説明が行われると、Discord内の基調講演チャンネルでは、感嘆、自分たちの業務と比較した内容、その他自分たちの今まで出会ってきたゲームバグを想像した内容、そのテストの過酷さを想像した内容などが投稿され、大いに沸いた。
上に述べたような課題を解決する自動テストツール改善を継続して実施しているという話があった。以下の改善内容が示された。
手動のテストエンジニアのツール利用を容易にするために、今後は次のような開発を続けていくと締めくくった。
太田氏の発表は、終始ワクワクすることの楽しさを受け取ることができるものだと感じた。太田氏は、「小さいころは、ブロックが好きで、つないでいろんな形を作って遊んだ」と語られていた。筆者は講演を聞き、太田氏の今は、ゲーム開発と、煩雑かつ高度なテスト結果の解析・バグ分析を「つなぐ」ツール開発をし、ブロックのように楽しみながらチームをつなぎ、技術をつないでいる、たのしさを届けるためにそれぞれの価値をつなぐ仕事をされているのだなと感じた。
「自分の技術はまだまだ、周りに全然かなわない」と謙虚さを持ちながらも、そこはこれから、という気概とワクワクを常に抱きながら毎日仕事を楽しんでいることが伝わってくるような講演だった。
伊藤氏と吉武氏の二人で発表するスタイルでの事例紹介が行われた。
本事例の中で指す「ペアテスト」とは、「2人組でテストすること」であると説明があった。
従来は、各自バラバラの機能を担当しテストを行っていたが、テスト実行とバグ票の起票を行う際の思考の切り替えが発生し、能率が悪かったので、伊藤氏と吉武氏がペアになり、ペアテストを行うプロセスへ変更したという事例である。
伊藤氏は主にテストを行い、吉武氏はバグ票の起票を行う。担当を分けることにより思考スイッチを切り替えることが減ったために、伊藤氏は集中してテストを行うことができ、吉武氏は他の機能を含め俯瞰的にバグの原因等を考慮することができるようになったとのことであった。
今後の課題として、ペアで行う場合は相性問題が必ず付きまとうこと、およびリモートでの実施が増え、やりづらいことが挙げられると語った。
ペアテストで行うという事例紹介を拝聴したのは筆者は初めてだった。
思考の切り替えに観点を置き、相性の問題や個人特性の問題にも言及されプロセスに取り入れて相互補完する方向へ改善をすすめており、改善のらせんが確実に上を向いている素晴らしいペアだと思った。
この後にも改善は続いていくと予想でき、その後の事例発表を拝聴できる機会が楽しみである。
10名前後の新規QAチーム立ち上げにおいて、言語の通じないグローバルリモートチームが、いかにしてOne Teamとなったかという事例発表。
スクラムを組み、プラクティスをちりばめて、試行錯誤しながらチームを一つにしていった試行の紹介。
お互いに何をやっているのか見えるようにし、プロセスを渡せるようにすることがゴールであると語った。
何を期待しているか伝える、お礼をしっかりいう、成果に対してはっきりと褒めることを大事にし、課題をクリアしていった。おなじプロダクトに対するテストでもテスト観点が異なっていることや、言語の問題、テストセットの理解、スクラム初心者であることなどが課題だった。
学習をチームで続けるためのコツとして、「SMARTの法則(※)」を参考にし、時間をかけない、決めてしまう、無理しない、をモットーにしたと語った。
※目標設定の有効度を確かめる手法の1つで、5つの成功因子
(『Specific』、『Measurable』、『Assignable』、『Realistic』、『Time-related』)に従って目標を検討すれば効果的かつ有意義な目標を設定できるとする考え方のこと。
テストスキルや速さはまだ上げる必要があり、各自の持ちタスクを可視化して自分で判断できるようにして行きたいと語った。
最終的には、マネージャーがいなくても自分たちで回せるチームにしたいとのことであった。
チームとしてアサインされ、そこからチームを形成するまでのプラクティスと人間関係の構築の成功ストーリー事例だと感じた。
言語も場所も時間も異なるという試される環境で、いかにしてスキルを身につけ、早くチームの一員になってもらうかを模索しながらの試行錯誤を繰り返す内容であった。
最終的には自分がいなくても自律的にプロセスが回るようになってほしいというゴールに向けて、誰でもイメージできるものを採用し、自分ごととして課題を捉え、身に付けていける最短コースを着実に進んでいく内容であった。
文化や言語が違う相手であっても途方に暮れることもなくいろいろ実践される姿勢など、参考にしたいものばかりだった。
イスラエルのPractiTEST社が2013年から毎年実施している「State of Testing Survey」の日本語翻訳チームの一人であり、JaSST Hokkaidoの実行委員でもある根本氏が内容の一部を紹介するセッションであった。昨年(2020)と今年(2021)の状況も、大きく変わらないことがわかった。紹介された項目の中に、年収の項目があり、日本(アジア・中東)はUSA/カナダと大きく差があるという現実を知ることもできた。
印象深いものの一つに、「組織におけるテスト作業」があり、紹介者の根本氏は「テストのスコープ外も実施しており、テスト作業としながらも多岐にわたっている」と話した。
今年度(2021)の主な結果を以下に示す。
毎年、アンケートが行われ、その結果を和訳してくださる方々がおり、公開されている。その結果を多くの人と共有しながら観ると、人により様々な感想を聴くことができるので、非常に貴重な実行委員セッションだった。
組織によって、テストエンジニアの守備範囲が異なるので、参加者からDiscord内チャンネルに投稿される内容には興味深いものが多々あった。自組織の中で誰かと共有しながら結果を見てみると、また別の感想が出てくると思われるので、実施してみたいと思った。
全7本のライトニングトークが行われた。テーマの範囲は広く、「利用時の品質を理解するためにやってみたこと パリーグ編」という、パリーグ選手の成績を用いた利用時品質の理解や、「ゆもつよメソッドの扉をたたいたその先で」という、JaSST Tohokuの参加者によるシンポジウム参加とその後の心構えに訴求する内容などがあった。
その他、コミュニケーションやソフトウエアテスト時のテストデータ、AIなどの内容があり、Discord内の実行委員セッションチャンネルへは多くの感想が投稿されて盛り上がっていた。
今年のライトニングトークスもバラエティに富んだ内容になっており、非常に楽しかった。普段仕事をするうえで改善したい/したことを誰かに伝えたいという想いが伝わってくる内容だった。5分という限られた時間内で自分の伝えたいことをまとめる技術は、簡単なようでなかなかハードルが高いと筆者は考えている。そのうえで、すべての発表コンテンツが参加者が楽しめるものになっていたので、これは本当にライトニングトークなのかとさえ思える贅沢な時間帯だった。
感染症という目線からの話をします、という伊藤氏の説明から始まった。
病院に患者さんが来るきっかけから説明があった。
患者さんは苦痛があるときや、健康診断でNG部分があると病院へ来院する。
苦痛となっている原因はなにかと考え、原因を取り除くことが病院の役割である、と語った。
患者さんの訴える症状の例として、腹痛を取り上げた解説があった。
おなかの痛みの原因は様々であり、原因を想像しながら問診をするとのことであった。その際に考慮する観点は下記の通りである。
伊藤氏は、腹痛の原因として細菌や寄生虫があり、代表的な例としてピロリ菌とアニサキスを詳細に取り上げ、下記のように解説した。
伊藤氏は、ピロリ菌は大人の多くが持っている、と語った。赤ちゃんは生まれてすぐにピロリ菌を持っていることは稀である、と続けた。
赤ちゃんが細菌をもつケースについて、下記の通り説明した。
胃カメラなどから、3Dカメラを使った撮影ができるようになり、スマホ利用、遠隔治療などが可能になると話した。より本物(体実物)を把握しやすくなっていく機器を使うようになるとのことであった。体のシステムを把握できていると、注射針を刺す角度や速さが改善される、と続けた。
最後に、ピロリ菌の感染期間が長いと、その期間に胃の細胞が壊されていき、胃の細胞は元に戻ることはないので早めの除菌をしてほしい、と締めくくった。
医療とソフトウエアテストは、昔から似た分野であると言われてきているが、感染症という分野で丁寧にそれを教えていただいたような講演だと感じた。
ピロリ菌やアニサキスによる感染症の話は、母体に赤ちゃんができる前から予防が始まるという具体的な事例を用いてくださっており、ソフトウエアバグもいかに埋め込まないようにするか予防をするということと同じだと思った。
さらに、Q&Aタイムの時に、「将来的に一番医療費が高くなる高齢者が疾患する病状から、健康診断の問診表は作成されている」という説明があったが、まさにアセスメントの質問がプロジェクト炎上しないよう正確に実施すべき事項から作成されているのと同じだと思い、筆者自身の仕事に非常に参考になるものであった。
講演中、とても楽しそうに語る伊藤氏の姿がとても印象に残る講演であった。
実行委員長の中岫氏によるクロージングセッションが行われた。
今回のテーマである「Testiny」は、「未来を把握する」という意味を込めたものだと語られた。
中岫氏の実行委員長は4期目にあたり、ふりかえりを続けた。4期で一つの流れ、テスト要求~テスト実行自動化までを取り込んだ、とのことだった。
実行委員長を務めた期間中は嵐を呼び、胆振地震にはじまりコロナ禍で終わるという試される環境であったと続けた。
2022年の開催日時は未定だが、オンサイト開催を目指しているので、ぜひ来道し参加してほしいとのことであった。また、実行委員も募集中である、と締めくくった。
今年のJaSST Hokkaidoは、オンサイト開催と全セッションオンライン対応を同時に行うという実行委員の手厚い試みがあり、オンライン参加をした筆者も、オンサイトで参加したような恩恵を大いに受けることができた。
オンラインの向こう側から聞こえてくるオンサイト会場の雰囲気、和やかさ、笑い声。雰囲気はネット上を這いオンライン参加者へ感染し、Discord上も大盛り上がりする。オンラインだけでは発生しないフュージョンである。
もともと、JaSST Hokkaidoの基調講演、招待講演はいつも独特の特色を持ち、ファンは多いと思われる。ファンになる理由の一つが、上に述べたような開催スタイルの結果にも表れているのではないだろうか。
今年の基調講演~招待講演の組み合わせは期待を超える繋がりを見せてくれた。
「当たり前の世界」を維持するため、できることに集中するために、自分を取り巻く「今」を見える化する。今を見据え未来を把握しながら予防しつつ、自分の好きなことを突き詰め楽しむ運命を切り開いていく、大きな意味でのTestinyが込められたものであったと強く感じた。
その他の発表でも、周りを支援し支援され、笑顔を維持したい、というものが多く、筆者にとって大きな学びと感動さえも覚えることができる内容だった。今後も、一ファンとして筆者もJaSST Hokkaidoを楽しんでいきたいと思う。
記:岡野 麻子(NaITE)