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2017年5月26日(金) 於 仙台市戦災復興記念館
第5回となるJaSST Tohokuが仙台市で開催された。天候は曇り。あいにくの天気ではあったが、来場者も多く、年齢層も幅広い印象を受けた。それだけ教育する側、教育を受ける側にとっても興味深いテーマなのだろう。当日の盛会ぶりを報告する。
実行委員長の高橋氏の挨拶で始まった。過去のJaSST Tohokuで行ったテーマをスライドで振り返った。5回目となった今回は「テスト分野における人財育成 ~テスト技術者は砕けない~」というテーマで「テスト実施者(テストオペレーター)」から「テスト設計者」への第一歩として利用して欲しいこと、後輩を指導する立場の方は後輩の成長指導の一助にして欲しいことが告げられた。
アンケート用紙が配布され、テスト技術者の育成に関する質問を答えた。アンケート内容はJaSST Tohoku申し込み時に答えた内容と似ていたが、改めて今回の講演での期待、ゴールを各自が書き出すことで参加目的を再確認出来た。その後、4人一組のグループで自己紹介+情報共有を行った。
筆者が情報交換を行ったグループではテスト技術者を育成する立場の方が多く、後輩へのスキルアップのアドバイスについての悩みを共有しあった。高橋実行委員長の軽快な進行もあり、参加者同士の緊張もほぐれ、良いアイスブレイクが出来たように感じた。
山崎氏は冒頭で、本講演でのゴールの共有、得られるものについて丁寧に解説した。
ゴールは「テストオペレーター自身が目指すべきテストの極みをめざす第一歩のきっかけ、すでに一歩踏み出している人は後に続くガイドとして本講演で得た知識を活用して欲しい」とのこと。JSTQB用語集の引用や、ソフトウェアテスト書籍からの成熟度の解説もありながらも、本講演での「テストとテストの目的」の定義は「品質に関わる新たな情報を提供するための諸活動」とした。
定義の解説として「早い、安い、旨い」の耳に覚えのあるキャッチコピーのもと、「テストの価値は情報提供の価値」と話があり、テストオペレーターの立場であっても、レベルアップのイメージを持ちやすい、手が動かしやすい定義で筆者もすんなり飲み込むことが出来た。
山崎氏は、テストオペレーターからテスト設計者の一歩を踏み出すために、「テストの全体観を持つ」、「ロールモデルを見いだす」、「成長へのモチベーションを持ち続ける」の3つが重要と話された。
テストをテストプロセス、テストレベル、テストタイプの3軸で捉え、今自分が携わっているテストがどのポジションにあるのかを考えて欲しいとのこと
テストオペレーターが関わるプロセスはほとんどテスト実行だけになってしまうのだが、テスト実行以前のプロセス(テスト実装やテスト設計)、テスト実行以後のプロセス(終了基準の評価とレポートやテスト終了作業)を意識することで、テスト実行のインプット、アウトプットをより具体的にイメージすることが出来る。
テストレベルでは現在のテストがV字工程で言うところのVの左側、どの開発工程に対応したテストを行っているかを認識して欲しいとのこと。これが出来るようになると、求められる欠陥検出のスコープがわかり、スコープ外の不具合報告が減少し、ステークホルダーが求める不具合報告が行えるようになる。
3つ目の軸はテストタイプ。テストタイプを大きく機能テスト、非機能テスト、構造テストと分け、機能に着目したものか、特性に着目したものか、アーキテクチャに着目したものかを把握し求められる不具合の種類に認識を合わせることが重要。
これら3つを意識し、テストケース作成のイメージを持つことが重要と話をされた。また、補足として「テスト技法は書籍やWebでの解説記事が多く、習得しやすいが、テストベースに対して闇雲にテスト技法を押しつけるのは失敗フラグ」と付け加えた。
テストオペレーターから次の一歩を進める為に、まずは大まかなキャリアの方向性を決めることが良いと話があった。ISTQBの資格区分をベースにテストマネージャー、テストアナリスト以外にも、アジャイルテスターやセキュリティテスター、テストオートメーションエンジニアなど、さまざまなロール、方向性があると話を展開した。
ロールモデルとして「イメージ可能な憧れの人」を設定すること、それが身近な人であればなお良いと解説があった。ロールモデルが身近であればあるほど、自分とロールモデルとのコミュニケーションが取りやすく、成長のイメージがつかみやすいからである。
自身のキャリアプランを考えることも重要で、1ヵ月後~10年後までの各ピリオドで「なりたい自分の姿」、「その姿になるためにどうすればよいか?」を考えると良い。
ロールモデルが存在しない、ロールモデルをイメージ出来ないと理想にたどり着きにくく、成長のモチベーションを持ち続けることが難しいことにも言及されていた。
Test.SSFなどの体系的にまとめられたスキルフレームワークを利用することで、自分の今持っているスキルやスキルレベルを確認することができ、次のレベルイメージを持ちやすい。資格受験もスキル確認、レベルアップの手段として有効とのこと。
ただし、一人で黙々と、 ものさしもなくスキルアップを行っても、次第にモチベーションもしぼんでしまう。いろいろな角度から刺激を与えることも忘れないようにして欲しいと語った。
刺激の与え方として、外部の勉強会に参加やテスト設計コンテストにチャレンジ、慣れてきたら参加者ではなく、勉強会やイベントを開く主催者側となることも良い刺激になるとのことであった。
具体的かつ納得のレベルアップ方法が数多く説明され、聴き応えのある基調講演だった。キャリアプラン(目標)と現在の自分(現実)とのギャップを埋め、頭でっかちとならず、キャリアを歩んでいきたい。講演の中で、「テストエンジニアとして大成するためには、テストの知見だけではいけない」と話される場面もあり、寄り道の多い筆者もその寄り道が無駄ではないことを肯定して頂けたようで、何よりもうれしかった。
土岐氏から社内のキャリアフレームワークの解説や育成プロセスの変遷について、発表があった。ゲーミフィケーションを取り入れたキャリアフレームワークの整備や「教わる」ではなく「考える」テスト設計研修で、社内のJSTQB合格者が増加した。
テスト未経験者であっても、1年でテスト設計者になれるほど充実した教育制度となっており、"木を見て森も見る"精神で、自分自身の気づきを大切に、クリエイティブさが損なわれないように、キャリアフレームワークも改善、進化させていくとのこと。
JaSST東北実行委員の根本氏からはテストエンジニア版RPG(ロールプレイングゲーム)風スキルマップが提唱された。根本氏が教育を考える上でポイントとしている"興味を惹かせる"、"全体を見せる"を種とし、楽天 川口氏のアイディアをテストエンジニア版に置き換えたもの。
RPGの攻略で必要なのはバランスの良いパーティ、弱点の少ないチームを構成できるかどうかである。根本氏によるスキルマップを利用することでチームメンバーのスキルの可視化、チームとしての強み、弱みを把握する。また題材に認知度の高いゲームを用いたことで、チームメンバーが楽しく取り組めるようになるはずとのこと。
朱峰氏は書籍や業務外で得た知識をそのまま業務で使うにはギャップがあると考え、業務で使うための予行演習、ギャップを埋めるためのプロセスとして研修が有用と説いた。
社内の研修では数日の研修であっても本番さながらの仕様をベースにした実戦に近いテスト設計研修を行い、業務の擬似経験を積ませる。社外の研修(WACATE)では、開催タイミングでのホットトピックを取り入れた研修を考えることや、テスト設計に加え、素振り・実践がしにくいテスト分析をグループで演習できる場を提供している。
外部から学んだ知識を現場で使うことが出来たら、チームやプロジェクトをまたいだ情報共有、社外勉強会やシンポジウムへ知見のアウトプットに挑戦して欲しい。あわせて、他社の成功事例や特に失敗事例のインプットをバランス良く取り入れて欲しいと説明した。
山本氏はテストエンジニアとして各社を渡り歩いた経験から次のようなことがわかったと話をされた。組織の文化や特性で大きさの差はあるが、テストエンジニアのキャリアが不足、テスト業務自体が評価されない、またテストエンジニアがキャリアアップの実感がわきにくいと語った。せっかく個人で持った良い技術も、より世間に広がらないとソフトウェア業界としての大きな損失になってしまうと考えており、組織の文化を理解した上で、スキルを可視化し、評価されるように説明責任を果たすことが重要と思いを綴った。
講演された4名ともまったく別々のアプローチでテスト設計者へのレベルアップについて講演されており、講演時間以上のボリュームを感じた。特に筆者は「テストエンジニア版RPG風スキルマップ」がお気に入りだ。根本氏が好むゲーミフィケーションが良く形になっている。
JaSST Tohoku名物の生きたワークショップを体験出来たのが、本セッションだ。ワークショップではテスト技法のひとつ、「状態遷移図」を各自で作成、グループで作成した状態遷移図を見せ合うことで、表現の違いや理解を深めた。
セッション担当の竹内氏からゲームに例えた表現で、どんなに弱い武器を装備していても、プレイヤーのレベルが高ければボスと戦えると話があり、ソフトウェアテストにおける武器を技法と捕らえ、まずは状態遷移図を作成できることを覚えて欲しいとのこと。
有名アクションゲームを下敷きにした課題が提示され、仕様自体にあいまいな定義や、あえて仕様が抜けている点も含まれており、仕様不備に気づけるか、どう表現するかでグループ内で盛り上がるワークショップとなった。
最後に、まずは武器を使いこなすことが出来るようになるのが良いが、経験も疎かにせずどちらも高めることは忘れないで欲しいと締めくくった。
講演者1名を参加者で囲み、1枠20分のディスカッションを行った。どの講演者もまるで親友にアドバイスをするかのよう親身に、切れ味鋭く質問に答え、決して本会の後のおまけのセッションとは言わせない意気込みを感じた。
前回はVSTePを題材に1日がかりのワークショップ、今回はテストオペレーターからテスト設計者への第一歩がテーマだった。次回は前回同様、参加者が脳に汗をかくようなテーマで取り組みたいと高橋実行委員長から話があった。
年毎にテーマの個性がセッションに表れているようで、次回も期待が持てる内容になりそうだ。
近年、各地のJaSSTに参加してきた筆者だが、その中でも非常に価値のある本会であった。会場全体のウォームアップからテーマと各セッションの一体感。笑いあり、集中して取り組むワークありと、1日のことが2日、3日分の研修を受けたような濃さを感じた。
事前アンケートで回答した参加者の教育の悩みをKPTで表し、共感した意見へ投票するコーナーもあり、そちらも盛況であった。抱えている悩みが自分だけ、自組織特有の悩みでないこと。共感され、励まされることが目に見えてわかるのは、優しく背中を押される気分であった。また参加者に「この悩みを書いたのは誰か?もっと深く話を聞かせて欲しい」と参加者同士でも悩み解決に精力的に動く場面もあった。
「千里の道も一歩から」のことわざのとおり、一歩ずつ進むしかないのだが、歩みを止めないためのテクニックが至る所に散りばめられていて、どのセッションも魅力的だった。自分の体に落ち着かせてから、一歩を踏み出していきたい。
記:岡内 佑樹 (JaSST Tokai 実行委員会)