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2017年11月2日(木) 於 北九州学術研究都市(学研都市)学術情報センター 遠隔講義室1
2007年に福岡で初めて開催され、今回で11回目となるJaSST Kyushuが北九州市で開催された。セッションはLIFULL 中野氏の基調講演に始まり、学生実行委員による発表や栄養学に関する発表など幅広く、参加者も興味を持って聴講していた。
福田氏は、「テストエンジニアの皆さん、どういうことを『貢献』と考えていますか? QAとして貢献するというのはどういうことでしょうか?」と会場に問いかけた。さらに「QAとして貢献していると感じている人は、常に高いモチベーションを保っている人ではないかと考えています」と話し、今回のJaSSTではQA、テストエンジニアの「貢献」とは何か考えるきっかけにしてもらいたいとした。
今日話すことは「ソフトウェアテストをどのように捉えてワクワクするか」であると述べた。セッションは会場への問いかけを交えながら和やかな雰囲気で行われた。
LIFULLでは社員のモチベーションが高く、その中でもQAは特に高いと述べた。LIFULLではQAが先進的な取り組みにチャレンジしており、モチベーション高く取り組める環境にあるのではないかと述べた。その中でも今回は、「テスト計画コンシェルジュ」、「リリース高速化」の取り組みについて紹介するとした。
LIFULLでは様々なサービスを提供しており、月200件を超える改修をリリースしているとのことだった。中野氏は会場に「Webの世界って、バグっていてもすぐ直してリリースし直せばいいと思っていませんか?」と問いかけた。中野氏は「むしろWebサービスを作っている会社は頑張ってテストしている」と述べ、ユーザが一度気に入らないと思い削除したアプリは、二度とインストールされないというWebならではの厳しさがあると述べた。
過去のプロジェクトではテストの十分性にばらつきがあり、QAは各プロジェクトでリスクを分析、必要に応じてQAテストや技術をサポートしていた。その中で、QAが考えるようなテストを開発プロジェクトでもうまく実施してほしいが、全てのプロジェクトにQAが関与するのが難しくモヤモヤとした思いを抱えていたとのことだった。
その後、James Whittaker氏が発表した"The 10 Minute Test Plan"の動画を見て、解決のヒントを得たという。テスト計画の出来・不出来でプロジェクトの成否は左右され、適切なタイミングでテスト計画を作ることの価値を実感したとのことだった。そのため、それまでテスト計画を作成するのは重要なプロジェクトのみだったのに対し、適切なタイミングでテスト計画を作成し、かつそれを高速に実現したいと思うようになったと述べた。そこで生まれた、QAがテスト計画の作成を支援するサービスが「テスト計画コンシェルジュ」であるとした。
「テスト計画コンシェルジュ」のサービスではQAと開発チームが議論して互いに腹落ちするテストアプローチ、リスクを定義し、実施するテスト・実施しないテストについて合意すると述べた。このような活動を継続したところ、開発チームが自発的にテスト計画を作り始めるようになり、開発チームのテストに対する意識が変わってきたのを感じたとのことだった。QAは専門家たちのハブとなり、テストをまとめ上げることが求められ、プロダクトライフサイクルに合わせてどんな品質が必要かを考えることが重要であると述べた。
その後、リリースを高速にしたい(リリースを高速・安全に、かつ開発者の数の影響を受けにくくする)という課題に対し、取り組みの過程について紹介した。ソフトウェアの開発サイクルの中で特に高速に回すのは「テスト」と「リリース」であるとし、これらに対して改善する三つの要素を挙げ、各要素の詳細を述べた。
最後に中野氏は「QAは既存の考えにとらわれ過ぎず技術領域を広げるべき」と述べ、QAの技術領域、専門領域の広さ・深さ、そして楽しさについて触れた後、セッションを締めくくった。
とても先進的な内容かつ取り組みの詳細がよくわかる、刺激的かつ実践的な内容で非常に勉強になるセッションであった。プロセス的にも、技術的にもここまで先進的な取り組みを聞ける機会はそうないため、有意義かつ貴重なセッションだと感じた。取り組みの一部だけでも現場に持ち帰り、先進的かつ楽しいQAに一歩でも近づきたいと思った。
松谷氏は「AIをどうやってテストするのか」というテーマについて、実際の事例について述べた。特に、音声認識、自然言語理解を含む「AI Platform」の実際のテストの事例を中心に、自身の経験を元に説明した。単純に設計すると組合せ数がテストしきれないほどの数になってしまう問題に対して、テスト自動化、テストセットの自動生成を実施することで解決を図ったとのことであった。
次に、学習によるデグレード問題について述べた。これは「神戸の天気は?」という質問が「頭(こうべ)」という単語を学習することで動かなくなる問題である。この問題に対してはクエリを入力に音声を合成し、音声認識・期待結果と照合を自動化する仕組みを作ったとのことだったが、最終的には「人の目が入らないとテスト結果が信頼できない」ということで別の検証チームが発足したとのことだった。
実例がふんだんに盛り込まれた発表であり、参加者も内容をもっと聴きたい様子であった。
岡住氏は、ソフトウェアテストに関するコミュニティに参加する中で生じた自身の変化について述べた。
岡住氏は当初、授業でプログラムを書いていた時は「動けばいい」「動かしてからバグを直せばいい」と思っていたが、Webサービスの開発を始めてからは「自分が開発したプログラムの品質は担保したい」「プロダクトの価値を上げるにはどうしたらよいか」と考えるようになったと述べた。そのようなときに「JaSST Kyushu」や「WACATE」に参加したのが、「ソフトウェアテストはユーザへ価値を届けるのに重要」「品質とは何か」と考えるきっかけになったとのことだった。
また、参加していたインターンシップの中で、モブプログラミングでテスト駆動開発をするチャンスがあり、実際にテストを書いてみることでも大きな学びがあったと述べた。
最後に、チャレンジによってソフトウェア開発の世界が広がり、世界観が変わったことから「まずはやってみることが大事」「今自分がやっていることとのつながりを考えると楽しく学べる」と述べ、特にコミュニティにこれから参加する学生、社会人にエールを送った。
山田氏はもともとデザイナー志望である。テスト関連コミュニティ参加のきっかけは、担当教員から「プレゼンの勉強になるから」と「JaSST Kyushu」への参加を勧められたことで、その中で学んだことについて述べた。
山田氏は、テスト関連のコミュニティに参加して「テスト技術者とデザイナーは似た視点を持っているのではないか」「似た部分の多いテストの世界から学びを取り入れるのではないか」と感じたとし、ソフトウェアテストとデザインの似ている点から得た学びについて述べた。
また、ソフトウェアテストのコミュニティで自身が発表した際に多くのフィードバックを得られたことについても触れ、「自分にとっての当たり前を人に話すだけで相手に学んでもらえることもある」「自分に関係ないように思える分野でも学べること、貢献できることはきっとある」と述べた。参加者は、実感のこもった発表に聞き入っていた。
岡崎氏は「カンバンシステムを利用したテストのさばき方」と題して、カンバンシステムを参考にテスト業務の改善を行った事例について述べた。
岡崎氏はテスターの人数よりも開発者の人数の方が圧倒的に多く、作業のコントロールができていないことに問題意識を持っていた。解決策として、週に一回、責任者どうしで依頼の優先度会議を行うこととし、今進んでいる作業の段階の見える化をすることにした。優先度順に付箋をはる、分量をサイズ感で見積もる、作業段階ごとに制限をかけるなどの施策を講じた結果、進捗が可視化されて停滞が減り、作業が見える化されることで関連部署から不満が減ったとのことだった。
基本的な取り組みながらも、取り組みの過程がわかりやすく示されており、業務改善の参考になる内容であった。
中武氏は「作を肥やさず土を肥やせ」とし、テストの品質のためにはテストをする人のコンディションも大切であると述べた。脳を活性化し、認知機能が上がることによりテスト品質が上がると述べ、認知機能を高めるには脳に良いものを食べること、脳に悪影響を与えるものを食べないことが重要であるとした。その後、必須の栄養素、意識して摂るべき栄養素、脳の機能低下を招く食事や運動の重要性について説明した。
JaSSTのセッションとしては珍しく栄養学に関連する内容であったが、昼食時や間食時に摂る食べ物はどのようなものが良いかなど、明日からの生活ですぐに実践できる内容となっていた。
山本氏は、自身のモチベーションの源泉を「ソフトウェアテストでプロジェクトに貢献し、日本の産業を救うこと」であるとし、そのための取り組みの一つとして「三銃士モデル」について述べた。三銃士モデルは「コンテキスト-世界観-実装」の三角形の中心に「ユーザ感情」を配置したモデルであり、ゲームテストをする人が楽をできるようにすることを目指したとのことだった。
[図] 三銃士モデル(引用:JaSST'17 Kyushu 山本 久仁朗氏 講演資料より)
セッションは質問を交えながら和やかに進行していった。セッションの中で山本氏は、三銃士モデルによるテスト設計の手順と、各手順の詳細な進め方について説明した。
特に、手順5の「テスト観点としてユーザ感情の導入」に対しては多くの参加者が関心を示し、ユーザ感情に関する期待結果をどう定義し、どのようにしてプロダクトの合否判定を行うのかについて活発な質疑応答が行われた。山本氏は、まだ課題はあり正解が明確にわかっているわけではないが、今後も引き続き三銃士モデルの改善を行っていきたいと述べた。
ユーザ感情をプロダクトの合否判定に組み込むというのは課題も多いが先進的な内容だと感じた。特にUX、ユーザ感情については期待結果として正解がわからないこともあるため、中野氏の発表で述べられていたように、HCDなどの専門家の知見を取り入れることも重要ではないかと思った。
この実行委員会企画イベントでは、自分の現場での悩み事・困り事を紙の中央に記入し、「お悩み、な〜に?」という掛け声とともにグループで紙を回覧して解決策を記入していく和気藹々としたセッションであった。
各グループには本会でセッションを担当された方が議論に加わっていただくことにより、単なる解決策の議論ではなくより深い議論ができ、活発な意見交換が行われた。
JaSST Kyushu実行委員長の福田氏は、今回のJaSSTが「貢献」について考えるきっかけになればうれしいと述べた。また、このJaSSTで得たものはぜひ現場に持ち帰り活かしてほしいと述べた。
筆者自身、QAエンジニアとして働く中でどのようにしてプロジェクトに貢献すべきか悩んでいる最中であったので、「貢献」をテーマとして掲げた本会は非常に興味深かった。また、北九州、福岡で活躍している学生や社会人の発表や先進的な取り組みを聞くことができ、とても刺激を受けることができた。素晴らしいコンテンツを作り上げ、準備くださった発表者及び実行委員の方々に改めて御礼申し上げたいと思う。
記:藤沢 耕助(JaSST Tohoku 実行委員会)