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2017年9月8日(金) 於 札幌市教育文化会館
2006年に第一回目を開催し、今回で12回目となるJaSST Hokkaidoが札幌市で開催された。開催日は快晴となり、暑く感じるほどであった。会場近くの大通公園ではさっぽろオータムフェスト2017が開催されており、参加者はセッション以外にも札幌滞在を思い思いに楽しんでいた。
根本氏は、本シンポジウムのテーマ「その先の、道へ。クオリティ オブ エンジニアライフ。」を紹介し、エンジニアとしてどのように仕事をしていけばよいか考える機会としてほしいと述べた。
参加申し込み時の事前のアンケート結果から「体制が安定するまえにメンバーが入れ替わる」という悩みを紹介し、このような問題意識を抱える参加者には川口氏による基調講演をぜひ参考にしてほしいと述べた。
ユーザーストーリーマッピングは、ユーザーの行為を付箋に書き出すことで、設計・ユーザーストーリー・リリース計画を可視化する手法である。川口氏によれば、以下のような利点があるという。
一連の説明の後、参加者がお互いの考えを共有する機会が設けられた。
まず、「今日のセッションで持って帰りたいもの」を各自が3分間で10枚程度の付箋に記入した。これを周囲の人と共有しながらグルーピングし、ラベルを付けていく。ここまでで、15分程度であった。
川口氏は、もしこれが口頭ベースのミーティングだったらこのような短時間で終わらないと、書き出すことの重要性を再度強調した。
川口氏は、ユーザーストーリーマッピングを使用するうえで以下のことを認識しておくべきであるとした。
開発における製品・サービスの構築順序と製品・サービスがユーザーに提供するストーリーの順序は、異なっている場合が多いため、マッピングをすることが目的である。
開発で最も重要なのは、提供する製品やサービスのおかげで将来がポジティブに変化するという期待をユーザーに抱かせ、お金を払ってもらうことである。さらにユーザーを幸せにするようなビジョンを描けなかったり、製品・サービスの市場投入のタイミングが不適切だったりすると、ユーザーは離れて行ってしまう。
川口氏は、ユーザーに使ってもらえない機能をリリースしないように、うまく優先順位をつける一助としてユーザーストーリーマッピングを活用してほしいと締めくくった。
風間氏は業務の中で開発リーダー、メンバー、QAを交えた設計レビューに数多く参加している。最近になって多くの新入社員がメンバーとしてアサインされるようになり、以下の問題点に気付いたという。
これらに対し、風間氏は次の施策を実施した。
これにより、レビュイーに指摘の意図および修正の優先度を理解してもらうことが可能になったという。
今後はレビュイーの理解度の確認を実施するとともに、出荷後の不具合数を計測して定量的に施策の効果を評価したいとしている。
小田部氏は、一般的なテスト設計はテスト初心者には難易度が高すぎると感じている。中でもテスト要求分析は初心者には非常にハードルが高いものとなっているという。
そこで、小田部氏は初心者にも易しいテスト設計として、「逆さFujiメソッド」を提案した。逆さFujiメソッドは次のような手順を踏んで行われる。
これにより、ピンポイント・探索的で、作業が発散しにくいテスト設計が行えるという。
ただし、一般的なテスト設計に置き換わるものではないことに注意してほしいと述べた。
常盤氏はテスト設計コンテスト'17 OPENクラスに「わんだーズ♪」のメンバーの一人として参加した。チームメンバーは8名とかなり大所帯であり、メンバーのバックグラウンドも様々であったため、チームはこの間様々な課題に直面した。チームビルディングに関するものから、テスト設計の技術面、ドキュメント等成果物の品質に至るまで多岐にわたっていたという。
常盤氏は、この大所帯のチームをファシリテートの技術でまとめ上げ、チームを準優勝へと導いた。常盤氏はファシリテートの技術によりプロジェクトが円滑に進められる可能性を示すとともに、参加者にも参考にしてほしいと締めくくった。
参加者は1テーブル4,5名に分かれて、実際にユーザーストーリーマッピングをワークショップ形式で体験した。
まず、各参加者が「今朝自分が起床してから家を出るまでにやった行動」を付箋に書き出した。たいていの参加者が10枚程度書き出せたようであった。
各参加者が書き出した付箋をチームで共有し、重複を排除したうえで時系列順に並べた。付箋のグルーピングおよびラベル付けを実施し、チームで1つ「朝の類型フロー」を作成した。
筆者のチームでは、朝の日課として筋トレや植木の水やりをする人がいたり、当日自宅から来た人、知人宅から来た人、およびホテルから来た人で行動に差が出たりした。どのチームも各人の違いを楽しむ反面、類型フローとしてまとめるのに苦労する場面が見られた。
ここで川口氏は類型フローを作成することは類型から外れた情報を捨てることであると強調した。情報をなるべく捨てないためには、似たような行動パターンを持つ人同士のグループで実施するのが効果的であるという。
続いて、朝の行動の類型フローからペルソナを想定した。
特徴的な行動からペルソナを導き出したチームが多かったようである。
最後に「5分以内に家を出なければ会社に間に合わない」状況を想定して、朝の行動に優先順位をつけた。具体的には、フローの下にマスキングテープを貼り、5分以内に家を出るとしたら実施しない行動の書かれた付箋をマスキングテープの下に移動させるのである。
筆者のチームでは筋トレや植木の水やりなどの優先度は低くなり、最低限の身だしなみを整えるフローが出来上がった。
川口氏は5分以内に実施する行動(マスキングテープの上に残っている付箋)が多ければ多いほど5分以内に家を出られないリスクが高まり、逆に十分なものが残っていないと最低限の身だしなみさえも整えられないことになってしまうと解説した。実際の製リリース計画についても同様のことが言えるとして、いろいろなステークホルダを交えてフローを作成し、リリース計画を立てることが有用であると締めくくった。
現状の仕事のやり方を変えたいと思ったら、まず現状を把握しなければならない。久保田氏はテストプロセスアセスメントの1手法として、TPI NEXTを紹介した。
続いて、TPI NEXTの項目の一部を題材に、参加者一人ひとりがアセスメントの一部を体験した。
続いて中岫氏が、プロセス改善を実施する際に気をつけなければならないことを紹介した。アセスメントを実施し、実際にプロセス改善に取り組む際に陥りがちなのが以下の点であるという。
このような状況に陥らないためには、プロセス改善の推進者が組織の課題に応じた目的意識をもってガイドに合わせていくことが重要であると強調した。
上田氏は長年緩和ケアに従事する医師として、生活の質(Quality of Life, QOL)をテーマに講演を行った。
一般に緩和ケアとは、がん等の病気の末期に痛みをとるために行う医療ととらえられがちである。
しかし実際は、がんの宣告を受けた精神的苦痛の緩和、経済的な不安の軽減、がんの進行に伴うつらい症状の緩和など、患者のQOLを維持するためにさまざまな場面で必要とされる医療であるという。
緩和ケアに正解はないため、上田氏は患者とよくコミュニケーションをとり、患者のニーズに合ったQOLを一緒に考えるという。緩和ケアですべての苦痛を取り除けるわけではないが、傾聴する行為が緩和ケアであるとも述べた。
講演の最後で上田氏は参加者に対し、今の自身のQOLはどんな状態であるか、少し立ち止まって振り返ってほしいとメッセージを送った。
JaSST Hokkaido実行委員長の上田氏は、エンジニアとして質の高い仕事をするために利用者にとっての品質、製品・サービスの品質、エンジニア自身の品質を追求することの重要性を説いた。参加者には本シンポジウムで得た気付きを共有し、広げていってほしいと述べた。
一チーム4人のテーブルに分かれ、「業務における悩みや課題」というテーマでぐるぐるマインドマップを作成した。
どの参加者も同じテーブル内の人の悩みを真剣に考え、時折熱心に議論する姿も見られた。
メンバーやステークホルダとの共通理解の形成、チームビルディング、レビューと、セッションのどれをとっても日頃筆者が問題に感じていたことばかりであった。こんなアプローチがあるのだなと目から鱗が落ちる思いであった。また、参加者の品質への意識の高さと、他の参加者の課題を一緒に解決しようと親身になる姿勢に驚かされた。
筆者はJaSSTへ参加するのは初めてであったにも関わらず、ワークなどで他の参加者との意見交換ができたこともあり極めて実りの多い一日となった。
記:上野 彩子