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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2016 東海

2016年12月2日(金) 於 刈谷市総合文化センター アイリス

ソフトウェアテストシンポジウム 2016 東海
「JIDOKA GO ~ 知ってみよう、やってみよう、テストの自動化 ~」

2016年12月2日ソフトウェアテストシンポジウム(JaSST'16 Tokai)が開催された。会場は愛知県刈谷市の刈谷市総合文化センター アイリスである。

私はこれまでにも北海道・東北・新潟・東京・九州と各地域のJaSSTに訪れており、各地域それぞれの特色があり、毎回とても勉強になっている。東海は初めての参加であったが、独特の地域性があると聞いており、とても楽しみにしていた。

予稿集は今年のテーマである「JIDOKA」をモチーフにしたようなデザインで、参加前からとてもワクワクしていた。

以降は私が聴講した講演と、参加したワークショップについて報告する。

オープニング

「メリークリスマス!」

高らかな掛け声とともにサンタの恰好でJaSST'16 Tokai実行委員長の矢野 恵生氏が登場した。矢野氏のオープニングセッションは東海の名物として噂を聞いており、噂どおりの気合の入れ方で素晴らしい挨拶であった。

今年のテーマについて

今年のテーマは「JIDOKA GO~知ってみよう、やってみよう、テストの自動化~」であった。矢野氏はテーマについて説明した。

「JIDOKA」は「テストの自動化」にフォーカスしてプログラムを用意した。「GO」は本日のプログラムで知見を得て、現場でGO(挑戦)して欲しい。「知ってみよう、やってみよう」はシンポジウム中にいろんなことを体験して欲しい、現場にも持ち帰ってやってみてほしいという思いを込めてつけたと説明した。

参加者について

今回のシンポジウムでは103名の参加があった。地元の愛知県からの参加者が最も多いが、他の地域からも大勢の参加者がいた。愛知県ということから車載関係の参加者が多いだろうと予測していたが、車載ソフト以外の参加者も多かった。

矢野氏は「みんなで議論する時間も設けているので、ぜひ積極的な議論への参加をして欲しい」と話した。

基調講演
「テスト自動化クロニクル ~ デジタルビジネス時代の今、テスト自動化の背景と歴史を振り返る ~」
辰巳 敬三(ASTER)

辰巳氏はテスト自動化研究会に所属している。辰巳氏は、「現場を離れて長いので現場のHOTな話題はできない。そこで、本講演の資料は色々な人や企業が書いたものを引用して紹介する。サブタイトルにもあるとおりデジタルビジネス時代の今、テスト自動化はどういう背景があって現在に至っているかということを知って欲しい」と話した。

インターネットやモバイルの利用状況の推移について

1990年前半にWWWやHTMLが考案され、インターネットが広く使われ始めた。その後ウェブサービスがはじまったが、1995年にインターネット利用者は全世界で1%未満だったが2015年にはインターネット利用者は42%になり、ほぼ全世界に行き渡って使われている状況になっている。1990年代後半に、インターネットはパソコンでアクセスするのが当たり前になっていたが、2000年頃からモバイルでアクセスするようになった。このため、現在のWebサービスの開発では、モバイル向けの優先度をあげないといけない(モバイル・ファースト)時代になっている。さらに、モバイルの中でもスマートフォンの利用率が増えてきているとのことである。

デジタル化が進むことで変化するビジネスについて

企業の経営者層は、以前は市場の変化とか人材・スキルへの関心が高かったが、デジタルビジネスの進展が経営にもたらすインパクトが大きくなったことにより、デジタルビジネスを進展させるテクノロジーへの関心が高くなっている。従来の経営者(CEO)は、ややもするとITを効率化の道具だと考えて、CIOに任せきりにしていたのが、現在はそういう状況ではなくなってきている。また、CIOもビジネスにコミットするIT活用を求められている。

消費者のメディア利用時間と企業の広告費のメディア別分布を見ると、消費者が印刷物を見ている時間が減少しているのに、印刷物に掲載する広告費の割合がまだまだ高い。逆に、モバイルを見ている時間の割合が増加しているのに、モバイル広告の費用の割合がまだまだ少ないのでモバイル広告のビジネスが伸びる余地が大きいことが分かる。

ソーシャルメディアについて、10代の若者はFacebookを使っている人が減っており、中年になるにつれてFacebookを使っている人が増えている。辰巳氏は、ソーシャルメディアを利用したビジネスを考えている人はこのような利用者の変化に追従しないといけないし、それを実現するシステムを評価するテスト技術者もこのような変化を把握しておく必要があると説明した。

Uberというタクシー配車サービスを例に説明した。Uberは、タクシーに加えて一般人も自家用車を使用して人を運ぶサービスのことである。このように従来あるものがデジタル技術を使うことで思いもよらなかったデジタルビジネスモデルになり得る。

デジタルテクノロジーにより、あっという間に既存ビジネスが浸食されるため、経営者の危機感が高まっており、デジタルへの変革(トランスフォーメーション)スピードが求められている。このため、ビジネスモデルを具現化するITシステムの構築スピード、品質向上が求められ、テストに関しても自動化の必要性がより高まっている。

品質保証とテストの動向について

デジタル変革やビジネスのスピードが求められるため、最近は開発量やリリースの数が増加している。テストについてもテスト対象のモバイルの種類やクラウドなどのテスト環境が増えており、企業のIT予算の中でテストの予算が占める割合が増えている。このような状況は品質保証やテストを担当する人にとって予算獲得の好機である。ぜひ、ビジネススピードの観点からテスト自動化の重要性を訴えてほしい。

テスト自動化の必要性の高まりは、現場のテスターの意識にも現れてきている。世界のテスターの調査レポート(State of Testing)の中で、「良いテスターになるにはどのようなスキルが必要か?」という質問に、「機能テスト自動化のスキルの必要性が高い」という回答が最も多かった。

ISTQBでもテスト自動化エンジニアがテスト分野の専門職として位置付けられている。2016年10月に新しくTest Automation Engineer Advanced Levelのシラバスが公開されたそうだ。

さらに辰巳氏は、海外のテスト自動化エンジニアの求人事例でいかにテスト自動化エンジニアに求められるスキルが高いかということや、テストエンジニアとテスト自動化エンジニアが専門職として分化するようになると両者の責任を明確にしておくことが重要になってくるということを話した。

辰巳氏は「今回のセッションでは、デジタルビジネス時代になっている状況やテストツールの歴史を説明したので、テスト自動化がホットになっている背景がわかったのではないか?このような背景を意識すると、テストやテスト自動化のポイントが見えてくるのではないか?」という言葉で講演を締めくくった。

講演の最後に「日本と世界を比べたときに、日本の強みや課題があれば教えてほしい」との質問があった。

辰巳氏は、以下のように回答した。

「強みや課題が見えているわけではないが、日本の技術者は国内に閉じこもっているように感じる。もっと世界にどんどん出てほしいと思っている。テストについても日本はテストの話をきちんとできるのに、世界にきちんと発信できていない。そのため日本の技術は海外で認知されていない。もっと自信を持って、どううまく伝えたらいいかを課題として取り組んで欲しい」と話していた。

特別講演
「システムテスト自動化の技法と事例紹介」
小井土亨(OSK)

小井土氏の特別講演では参加者にも使えるようにとオープンソースソフトウェアのツールを紹介され、これを使ってシステムテスト自動化の話が展開された。デモの内容はすべて公開しており、ダウンロードできるようにしている。
(デモサイトのURL:   http://starkeyworddriventest.codeplex.com/

テスト自動化はシステムとして問題なく動く事が大事だが、全部を自動化しようとするのはよくないと小井土氏は説明した。操作性やマニュアルテストなどは人の手でやるのがよく、自動化できる部分だけを自動化するのが大事だと説明した。

テスト自動化の効果的なエリア

エンドツーエンドテストとはシステムの内部構造に立ち入らず、システムの外部の入出力を用いてシステムのテストをおこなう。エンドツーエンドテストの内容によっては、テストの実行時間が長くなったり、そもそも準備が必要になったりするのでそういったときにテストを自動化するのがよい。

システムテストのコストは年々増加している。基調講演で説明があったが今はデジタルビジネスが進んでおり、ビジネスとシステムの距離がどんどん近くなりスピードもどんどん加速している。デグレード分を含むとリリースはもっと増える。

キャプチャーリプレイツールとキーワード駆動テストとデータ駆動テストについて

キャプチャーリプレイツールは導入コストが低く試しやすいが、メンテナンスコストが非常に高い。

キーワード駆動テストは、対象、値、操作の3つがセットになっているのが特徴である。テストケースが増えてもいいように、テスト結果がわかりやすくなるように作っている。キーワード駆動テストはシステムの変更に強く、システムが出来上がる前からテストケースをつくることができる。

テスト自動化の意識について

小井土氏は、テスト自動化は全員で理解し、全員がテストを自動化しようという意識を持つことが必要だと話していた。テスト自動化をゴールとせず、システムテストを効率化する手段の1つにテスト自動化がある。テストを自動化するには指針やルールを決める必要がある。また、自動化をおこなわないという選択肢もある。目的にあった自動化をおこなうことで、色々なシステムの品質を高めて欲しいと話した。

最後に、予稿集に掲載したパターン集についての説明があった。小井土氏の経験をパターンとして書いた。パターン集には、問題、解決策、効果、デメリットの4つを書いている。身をもった経験から作成しており、システムテストを導入する際のヒントにしてもらいたいと話した。

参加者から、「自社内の開発だけであれば問題なくできていたが、システムに他社が関係してくるようになってテストができず困っている」という質問があった。小井土氏は、以下のように回答した。

一般的にはスタブを作って他社のシステム分を補うようにして、自社のシステムのテストをおこなうことが多い。スタブであれば、エラーハンドリングのテストもやりやすくなるし、自社でテストが完結するのでおすすめだ。

ワークショップ
「ユーザビリティテスト」

このセッションでは、参加者が2つのSIGと2つのワークショップの中から1つを選択し参加した。私は「ユーザビリティテスト」のワークショップに参加した。部屋に入ると4人1組のグループごとに席が用意されていた。グループで自己紹介をおこなったあと、このワークショップのオーナーである小池 利和氏がユーザビリティテストのデモを実演した。

小池氏は、「今回のワークショップでは体験することを中心に考えています。感想をまとめたいと思うので、グループごとに発表をおこない、ふりかえりをおこなって欲しい」と話していた。

ワークショップでは、4つのショッピングサイトを題材にして、比較をおこなった。被験者、タイムキーパー、記載者、司会という4つの役割をそれぞれ交代でインタビューを実施した。インタビューが4回終わったあとに、ふりかえりをおこなった。

ふりかえりでは、サイトの良かった点、悪かった点、改善点とワークショップの感想をグループ内で話した。ワークショップの感想では、以下のような話があった。

  • 被験者が動かすだけでなく、感情や操作内容を口に出すと得られる情報が増えるということを体感できた
  • 自社でユーザビリティテストをしており、ビデオで目視するだけだったが、隣で操作してもらう方がライブ感を感じて情報が拾いやすいと感じた
  • 記録という役割が重要だと感じた。コメントの数と気づきの数の分だけカイゼンポイントになると思った

おわりに

基調講演の辰巳氏と特別講演の小井土氏は事前に打ち合わせをしていなかったそうだが、見事にテスト自動化についての歴史や経緯の話と、実践についての話がつながっていて一体感があった。

今回のレポートの他にもポスターセッションや情報交換会が開催されたが、どのセッションも大盛況で多くの参加者が訪れて色々な質問をしていた。情報交換会は90分間であったが、あっという間だった。

私は今まで各地のJaSSTを訪れたり、自らも実行委員としてJaSSTに携わったりしているが、それぞれの地域でテーマが異なっており、どれも興味深く勉強になっている。

今回のJaSST'16 Tokaiは聴講、参加したセッションそれぞれがメインコンテンツとして際立っていて、圧倒された。矢野氏も言われていたように、聴講して満足するのではなく自社で実践できるものを取り入れたいと思った。

記:福田 里奈(JaSST Kyushu 実行委員会)

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