HOME > 活動報告 > イベント報告 > JaSST'15 Tokyo
2015年2月20日(金)~21日(土) 於 東洋大学 白山キャンパス
今年で13回目を迎えたソフトウェアテストシンポジウム'15 東京(JaSST'15 Tokyo)が2/20、21の両日開催された。会場は昨年に引き続き東洋大学で、二日間で延べ1700人が参加した。
多数の並列セッションがあるが、その中から筆者が受講したセッションの内容を報告する。
世界的なテストエンジニアでコンサルタント、そしてトレーナーでもあるMichael Bolton 氏の講演。ソフトウェアテスティングは創造的な仕事であり、それを実現するためにはFeelingを大切にする必要があるという熱いメッセージが込められた講演であった。
初めにBolton 氏は日常に溢れる"おかしな"メッセージボックスを提示し、ソフトウェアのバグが人間に負の感情を与えることを示した。テスターやマネージャはなぜこれをリリースしてしまったのだろうか?そこには感情という大切なモノが抜けていたのではないか。テスターが顧客と同じような感情を大切にすることで防ぐことができたのではないだろうか。
またスキルや知識を上げるためには、説明したり、真似をしたりするという方法が挙げられるが、一番効果的な方法は実際にやってみて、失敗をフィードバックするということである。これらの考え方はもちろんテストにも適応することができる。
またBolton 氏はここ数年の間に開発系のイベントやテスト系のイベントでもよく耳にするCheckingとTestingは違うということについても言及した。Checkingは既知のことを確認することであり、一方Testingは未知のことを探索することである。さらにTestingは学習的なアプローチであり、顧客の感覚を取り込みながら、社会的な判断をする必要があると主張した。
最後にBolton 氏は「テスターは道を照らすライトのようなものである。単に問題があるというデータを報告するのではなく、製品のStoryとそこに存在する問題を伝えるようにしよう」と締めくくった。
彼のテストに対するアプローチは"与えられたテストケースをひたすら実行し、バグがあれば報告する"と言った機械のようなアプローチではなく、顧客が持っている文化的な背景やそこから生まれる感情、すなわちFeelingを開発者、テスターが共有することで、今よりもっと良いソフトウェアを創りだしていくアプローチであると感じた。
筆者もChecking、Testingの違いを意識しながら、製品のStory、さらにはその製品から生まれるFeelingを大切にしていく必要があることを再認識させられるセッションとなった。
いままでモデルをあまり使ったことがないテストエンジニア向けのチュートリアルセッション。新人役の井芹氏が、先輩役の井上氏に以下の4つのお悩みについて聞いていくというスタイルで始まった。
モデルの基本的な考え方から、現場のテストでどう使えばいいのかまで実例を出しながら進めていったため、とても分かりやすく早速明日からやってみようと思えるチュートリアルになっていた。個人的には開発で作るモデルとテストで作るモデルはどこまでが同じで、どこからが違うモデルになるかということに興味がある。次回中級編を期待したい。
新進気鋭のITベンチャー4社のCTOに品質を語ってもらう注目のパネルセッション。モデレータの丹下氏からの質問に各社のCTOが答えていくスタイル。
各社の開発スタイルは、予想通りスピード重視で素早いリリースを繰り返している。品質面では特にユーザビリティを重視していて、UX、UIの検証やABテストなどをしっかり実施し集客アップに繋げている。これはWebの向こう側にすぐ顧客がいるWeb系企業の特色の一つだと言える。
ただしユーザビリティ以外の品質を疎かにしているわけではなく、各社毎に重視している品質を担保するために様々な取り組みを行っている。例えばラクスルはセキュリティのテストに関しては専門の外部業者に委託し、セキュリティ対策を万全にしている。またnanapiはテストコードがないコードが増え、技術的負債が溜まってきたため、新しい言語を使い自社サイトをフルスクラッチで作り換えたとのこと。
「どのようなエンジニア/テストエンジニアが必要ですか?」という質問には、どのような工程でも仕事ができる人や自社のサービスを知り尽くしている人など、テストのみならず様々な価値を発揮できる人という回答であった。この回答は会場の参加者のみならず、テストエンジニアに関わる会社を経営しているモデレータの丹下氏が一番聞きたかった質問であろう。
最後にモデレータの湯本氏が「遠まわしだけど、(ただテストをするだけの)テストエンジニアは要らないといわれている。厳しい現実かもしれないが、どうしたら良いか考えるきっかけにしてほしい」と締め括った。最初から最後までテスターの存在意義を考えさせられる深いセッションとなった。
今年で5年目となるテスト設計コンテスト。今年の決勝戦は6チームで争われた。
お題は昨年に引き続き自動販売機システムであった。
白熱したプレゼンでは、チーム"しなてす"のキーワード駆動を活かしたテスト実装の提案、チーム"TEVASAKIplus"のテスト設計時の思考の流れを解き明かすアプローチ、チーム"1年4組"の派生開発を見据えたテスト設計など、各チームが様々なアプローチの成果物を発表した。また会場である東洋大学の食堂にはテスト設計コンテストの掲示物が貼り出され、昼休みや空き時間にはそれらの資料を熱心に見ている人が多く、テスト設計に対する関心の高さを伺わせた。
順位の発表はクロージングセッションの中で行われた。激しい接戦を制した今年の優勝はチーム"しなてす"。クロージングの電通大の西氏の講評によると、今年はテストアーキテクチャーの戦いであり、優勝した"しなてす"を含め、それぞれのチームのアーキテクチャーにはまだまだ改善の余地があるとのこと。
発表資料や掲示資料はASTERのサイトにアップロードされているので、是非ご自身で眺めてみることをお勧めする。
東洋大学の野中誠氏がモデレータとなり、4人のパネリストとテストエンジニアとデベロッパの幸せな関係について話すパネルディスカッション。平鍋氏は、なるべく開発の早い段階でデベロッパとテストエンジニアでコミュニケーションをとってお互いの理解を合わせる必要があると言う。松木氏はQAが中心になって、ユーザー、開発者、Toolと関わり合いを持っていくことを提案した。八田氏は如何に開発者とコミュニケーションを取りながら、既出のバグを予防していくことが重要と説く。Bolton氏は大事なことができる人になれば、開発者から聞きにくるようになるとのこと。Bolton氏の主張は基調講演から一切ブレがなく、とても好感が持てるものであった。4人のパネリストの意見として開発者とテストエンジニアの距離が重要ということは一致していた。
筆者の周りの話を聞くと開発者とQAは対立する構造が多いようであるが、お互いに足りない部分をカバーすることで、尊敬しあえる関係になれるのではないかと考えている。
今回のシンポジウムを通じて「開発者とテストエンジニアの融合」を強く感じた。品質を作り込むためには開発者と一体となって取り組む必要がある。特に現在のビジネスの最前線を走るWeb系企業の中でテストエンジニアはどのように力を発揮していくのかが問われていると強く感じた。奇しくも4月に予定されているアジャイル開発のイベントであるAgileJapan2015ではアジャイルテスティングのJanet Gregory氏が基調講演をするなど「開発者とテストエンジニアの融合」は業界全体としての課題であり、大きな潮流と言っても過言ではない。
テストエンジニアが新しいフィールドに旅立つためには、単純なテスト実行だけではなく、製品の知識、バグの知識、顧客の運用の仕方や過去の経験などから人間にしかできない創造的なアプローチを取っていく必要がある。
筆者もさらに継続的な学習、実践を通して、より良い製品を作れるようにならないといけない、作れるようになりたい!と強く思った。
記:根本 紀之(JaSST東北実行委員会)