HOME > 活動報告 > イベント報告 > JaSST'14 Kyushu

イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2014 九州

2014年11月28日(金) 於 沖縄産業支援センター

ソフトウェアテストシンポジウム 2014 九州
~ 距離を縮めよう! ~

ソフトウェアテストシンポジウム九州は、他の地域と異なり開催場所を毎年変えている。今年は沖縄。11月末だというのに、会場には冷房が効いている。朝から雨模様の中、大勢の人が集まった。沖縄の参加者はそのうちの半分である。

以下、セッション順に沿って報告する。

基調講演
「テストエンジニアのキャリア形成~成熟したエンジニアと職場~」
松尾谷 徹 (デバッグ工学研究所)

「パフォーマンスが低い人に対して、スキルが低いと決めつけていませんか」

生産性を左右するのはスキルとモチベーションであるが、テストエンジニアを含むエンジニアは一般的にスキル重視の傾向がある。JaSST九州でも第1回から数回に亘り、テスト技法の一つである組み合わせテストを主に取り上げていた。スキル重視である現状を踏まえ、本講演ではモチベーションを取り上げている。

モチベーションと言えば、JaSST'14 Tokyoの Stuart Reid 氏による基調講演のタイトルも「テストエンジニアのモチベーション」である。テストエンジニアの関心事がテスト技法などのスキルからモチベーションに変わってきているのかもしれない。

パフォーマンスとモチベーションの関係について、「モチベーションは蛇口、スキルはタンク」という例えを使いながら、どんなにスキルがあってもモチベーションが低ければパフォーマンスは上がらない理由を説明している。その理屈は分かるが、実感を伴うものではないかもしれない。

そこで、横軸が年齢、縦軸がモチベーションの高低の「人生やる気曲線」が登場する。やる気曲線を参加者全員に書いてもらうことで、モチベーションとスキルの関係を実感でき、かつ、それを周りの人と共有することで、堅い雰囲気の会場が徐々にほぐれてくる効果があった。

自分の書いた「人生やる気曲線」を基にモチベーションが上がったり下がったりする理由を振り返ってみると、それにはストレスなどの外因性、キャリア意識などの内因性に基づくことに気付く。

モチベーションを上げ下げする因子(モチベーション・ドライバー)は7つあると松尾谷氏は言う。

  • 自己実現・スキルアップの可能性
  • 自分への評価
  • リーダーの資質・人柄
  • コミュニケーションの状態
  • プロジェクトの運営体制
  • 業務上のストレス
  • 業務外のストレス

7つのうち、1番モチベーションに効くのは自己実現であり、キャリア意識である。このキャリア意識は、組織形態に関係があるとのこと。つまり、良い人間関係を築くことで良いチームを作りキャリアを形成していく、その過程でモチベーションを考えるということになる。

仕事のパフォーマンスを上げるには、スキル向上だけでなく、モチベーションも重要であり、モチベーションを向上させるには、良いチーム作りが大切であるということが分かった。

招待講演
「熟視テストの弱点とその克服」
細川 宣啓 (日本IBM)

講演前からタイトルにある「熟視テスト」とは何だろうと興味を持っていた。熟視テストとはレビューのことであり、レビューの初心者をターゲットにした講演である。

レビューについて悪く言う人がいる。レビューは組織で決められているから、顧客から指示があったから、などの理由で嫌々実施していることがある。例えば、品質管理スタッフから「成果物1ページあたり○件の指摘数が必要」のようなレビュー密度の指示があり、その指標を達成するために、9割以上が誤字脱字の指摘で終わってしまうという状況がある。これでは実施する意味が分かりづらいし、そもそも楽しくない。

このような実態を踏まえて、レビューの楽しさを実感でき、明日からでも実践できるような講演であった。
次に講演の要旨をQ&A形式に編集して記す。

Q:
レビューに割ける時間が少ない。ちゃんとやるなんて無理。
A:
全体をうすく万遍なくやった方がよい。バグには偏りがあるから。ただし、仕様書の一ページ目からやっては駄目。最初と最後を最初に見る。それで力の入れ方が変わっているのを見る。
Q:
テストエンジニアがレビューに参加する意味はあるのか。
A:
仕様書レビューでは、実装の可否についてみる人が多いけど、テストの可否についてみる人は少ない。テストのことをイメージしながらレビューができるかどうか。
Q:
ソースコードレビューのコツは?
A:
  1. 人のコードを読むときは、おしりから読む。後から書く人はソースコードを後ろに追加するから。
  2. 関数名の付け方には人によって癖があるから、関数名の癖が変わったところは要注意。
  3. コメントの文章を読んで、特に句読点の違いなどに着目して、書く人の違いに気付く。
  4. ヘッダファイルを読んで、ファイル名や変数名に着目する。別の言語特有の命名ルールや癖が見られたら要注意。
  5. ソースコードをWordに貼り付けて、ズームアウトしていき、黒いところを中心に見る。黒いところは複雑な処理だから。
  6. ソースコードをExcelに貼り付けてソートする。コピペ状況が把握できる。
  7. インデントが深い部分を見る。
  8. 条件式をチェックする。
Q:
テストよりレビューが重要と聞くが、実際はどうなのか。
A:
バグが埋め込まれた時間と摘出された時間の間が短いのがよい。レビューはテストに比べてその時間が短いから。
Q:
まとめてレビューするのが大変。他ではどうやっているのか。
A:
各担当者が最初の1ページを作り終わったときのレビューが大切。先頭の一発目のレビューが大切。
Q:
レビューは何人ぐらいでやればよいのか。
A:
最適人数は4人。5人以上になると発散する。若手とベテランが組み合わせると教育効果があると言われるが、多くの場合、若手を潰して終わってしまう。
Q:
レビューの力を付けるにはどうしたらよいか。
A:
レビューには気付く力と説明する力が必要。気付く力を鍛えるにはバグのパターンを蓄えること。説明する力を鍛えるには、どのくらいのインパクトでどのくらいの重みがあるのか言語化できるようにすること。

「明日からでも実践できる」という講演内容であり、参加者の求めるものと一致していたと思う。

招待講演
「探索的テストってなんですか?」
高橋 寿一 (「知識ゼロから学ぶソフトウェアテスト」の著者)

探索的テストは、今もっともテストエンジニアに注目されている技術である。探索的テストの第一人者に直接教わった高橋氏による講演である。

「本日はちゃんと品質保証をするというよりも、ビジネスに勝つ品質保証をどのようにするかという話をしたい」

探索的テストは、従来の品質保証の文脈、テストに限れば実施網羅率を向上させるという話とは相容れないものである。
探索的テストは、ビジネス視点から評価しなければならない。

現在は、顧客の求めるものをいかに早くリリースできるかが勝負であり、このような環境に適したテストが探索的テストである。だからといって、すべてが探索的テストに変わるわけではない。自動車や医療など、標準や規格に則った旧来のテストが残る領域もある。クラウドだったりアジャイルだったり、そのような領域にマッチしているのが探索的テストである。

「論文を読む限り、探索的テストの欠点はない」と高橋氏は語る。「効果があるのに、なぜ取り組まないのか」

探索的テストの最大の特徴は、一つ一つのテストケースを書かないことである。テストケースを書く時間があったら、テストを実施する、このような考えに基づいているテストなのだ。

旧来のテストを実践しているエンジニアにしたら、テストケースを書くという面倒な仕事が減るので嬉しいかもしれない。しかし、テストマネジャーにしたら、いい加減なアドホックテストと探索的テストの違いが判断できず、意味のあるテストをしているかどうか見分けることが困難であるため、受け入れ難いと思う人もいるだろう。

そんな不安を持っている人に向かって、次のように高橋氏は説明する。
探索的テストというのは、闇雲にテストすることではない。最低限のプロセスがある。

  • パス基準とフェイル基準は書く。
  • 製品の目的を明確にする。
  • どの機能をテストするのか明確にする。
  • 弱い部分とユーザがフォーカスする部分を明確にする。
  • バグの記録は残す。
  • 上記を継続的に実行する。2週間サイクルを毎日やるとか。

また、テストケースは書かないけれどもタスクシートは書く。探索的テストとは、全くドキュメント無しに進めるテストではない。
タスクシートとは、

  • 何をしようとしているのか
  • どのような考えでテストをしようとしているのか
  • どのような品質のものをリリースしようとしているのか
  • どのように終わらせようとしているのか

などが書かれたものである。

このタスクシートは、テストマネジャーにとっても意味があるとのことである。多くのテストマネジャーは、テストケース数の管理をしているが、テストケースの中身まで管理しているわけではない。何をテストしているのか分からないことも多いが、タスクシートであれば、テストの意図が分かるからである。

メリットが多い探索的テストであるが、実施するのは難しい。なぜなら、探索的テストは熟練したテストエンジニアが行うからである。テストチームを熟練エンジニアだけで構成できればよいが、それは現実では難しい。

そこで、高橋氏は現実解として、旧来型のテストチームと、探索的テストチームの2チーム制にすることを推奨している。

探索的テストについては、日本語で書かれた文献等が少ないため、貴重な講演であった。

企画イベント SIG
「エイト・ソリューション」
JaSST Kyushu実行委員会

最後のセッションは、実行委員会が企画したイベントセッションである。本日の講演テーマに即した3つのグループに分かれ、それぞれの悩み相談会が行われた。

9マスに分割されたA3用紙が参加者に配られ、用紙の中央に各自の悩みや問題を書く。合図とともに左隣の人に用紙を渡し、アドバイスを書く。それを7回繰り返し、用紙が自分のところに戻ってくると、7人分のアドバイスがもらえることになる。アドバイスの中で説明が足りないなと思う場合には、もう少し聞くことができる。各アドバイスを基にまとめを書く。

このようなセッションである。この方法で注目すべきところは、アドバイザーの中に講演者がいるということである。講演後には質問する時間が用意されているが、他の受講者の前で質問するのは難しいものである。また、質問するにしても講演内容についてであり、自分の悩みについて質問することは稀である。ところが、このようなセッションであれば、講演者に自分の話をしやすくなる。

このセッションの当初は、講演者に対して質問や説明を求めることが多かったが、場が馴染んできた中盤以降は参加者の間でアドバイスが出始め、活気のあるイベントになった。

このように地域JaSSTの良いところは、講演者と参加者の距離が短いところにある。今後もこの良さを活かしたイベントを企画してもらいたい。

記:鈴木 三紀夫

[ページトップへ]