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2013年1月30日(水)~31日(木) 於 目黒雅叙園
今年で11回目を迎えたソフトウェアテストシンポジウム東京。
2日間でのべ1,800名を超える来場者があった。
筆者が受講したセッションの内容とそれらから受け取ったメッセージを報告する。
テスティングコンサルタントDorothy Graham氏による基調講演。
IT業界の歴史=技術や環境の変化などからテストやテストエンジニアの位置づけ、役割などがどのように変化してきたか、そして今後はどうあるべきか、つまりチャレンジが必要な事項を伝える内容であった。
以前は"テストは誰でもできるもの"と認識されていたため、テストエンジニアは開発者に比べ二流扱いであった。しかし、PCの登場、GUI、CASEツール、オブジェクト指向、オープンソースなど技術・環境の変化に伴い、テスト資格制度も整備され、専門的なスキルの必要性やテストエンジニアがキャリアの一つとして認識されるようになった。
また、欠陥検出、品質情報提供、リスク低減などテストの目的も変化し、対応範囲が広がってきた。今後も新技術の登場・環境変化に応じて対応していく必要がある。
一方で変化していない事項として「管理職のテストに対する理解不足」「大学でのテスティング教育不備」「過去から学ばない傾向」などが提示された。どれも身近に感じるものであるが、これらを解消しない限りテストに求められる次の変化に対応できないのではないかと感じた。
そして、欠陥検出におけるテストの価値を示す指標としてDDP:欠陥検出率の具体的活用方法、そしてテスト自動化とよくある知的な間違いを紹介した。
最後にテストの将来としてAgileやCI(Continuous Integration)・DevOps、さらなる自動化の展開などの技術・環境の変化を例に取り上げ、今後テストエンジニアは開発者への不具合原因究明アドバイスの提供やユーザ・ビジネス問題への高度な対応が求められる、非常に面白いものになるでしょう、と結んだ。
長きにわたりテスト・テストエンジニアの価値向上に携わり、自らその変化を作り出し、体感しきたDorothy Graham氏が、できるだけ難しい言葉を使わずに分かりやすくテストの過去・現在・未来について受講者に伝えてくれた印象を持った。
受講者が自らテスト開発方法論を構築できるようになることを目的としたセッション。
前回まで内容を高度化しながら継続開催してきたセッションであるが、ほぼ満席となった会場の約半数が初めて受講する方達であった。ますますこのテーマへの関心が高まっている証拠であろう。
セッションはテスト開発方法論で特に戸惑うことが多い「テスト要求分析」・「テストアーキテクチャ設計」を題材に、代表的なテスト開発方法論 1.HAYST法(秋山氏) 2.ゆもつよメソッド(湯本氏) 3.VSTeP(西氏)の違いを比較することによりテスト全体とそれぞれの構成要素が持つ意図を把握するアプローチで進められた。
随所でそれぞれの方法論で行う内容、その意図や注意事項などが解説され、特徴/共通点及び違いが明確になっていった。
それぞれの特徴や違いはともあれ、共通点として言えることは、テストは開発のおまけではなく、それとは独立してテストに必要な事項を組み立てられるようになることを目指している、ということであった。
最後に、"はじめから100%完成した方法論は存在しないため、これらの情報を参考にまずは自ら作り上げ、それを実践で活用しながらブラッシュアップしていってください"と結んだ。
昨年「欠陥マスター情報構築ワークショップ」を実施したProject Fabre(プロジェクト ファーブル)のセッション。野中氏が突然病欠となったのは残念であった。
まずバグ分析の典型的なアンチパターンを示し、周知対応、教育実施、チェック項目追加(実践できない項目数へ)などマネジメント対策にすり替えられることにより効果が出なくなってしまう事例が紹介された。
その上で、個人攻撃になりがちな「なぜなぜ分析」は「なになに?」と聴き方を変えるだけで欠陥を作り込んだ背景情報など俯瞰的・多角的に把握し、ポジティブに原因分析ができることを示した。
また、人はどのような罠にはまってバグを作り込むのかを分析する方法として"過失に着目した欠陥モデリング手法"により、エンジニアへの個人攻撃を防止し、関係者間の共感と欠陥作り込みのからくり・構造をチームや組織で共有・活用していくことを提案した。
毎日一生懸命作業しているエンジニアへの尊厳を奪わないためにも、欠陥を作り込む構造を誘発因子・過失因子・増幅因子・表出現象などの要素でモデリングし、「この状況ならわれわれも同じように間違うよね!」「今後われわれはどうしようか?」と関係者が共感し、問題対われわれの構図を作り出すことが重要だと説いた。
さらに、欠陥モデリング結果を蓄積・活用して組織内への水平展開を可能にする方法など、とかくやりっぱなしで終わる原因分析への処方箋を示した。
業界では「バグを憎んで人を憎まず」とよく聞くものの、"人を責めない""事実に基づく"などの対応方針以外、その具体的な実現方法や作法を明確に示すものはあまりなかったように感じている。この「なになに分析」と「欠陥モデリング」は実務における具体的対応策を提供しているように感じた。
今回で3回目を迎えるテスト設計コンテスト。
今年は全国各地域で開催された予選(応募21・予選参加16・予選通過8)から最終的に勝ち上がった5チームと前回優勝チームの計6チームによる本選でテスト設計の出来栄えを競い合った。
シンポジウム期間中、受付横オープンスペースに当コンテスト参加チームの成果物が掲載され、休憩時間などに多くの来場者が足を止めてその内容を興味深く観覧していた。
そして当セッションは2日目朝9:00~であったが、会場は一時立ち見が出るほどの盛況ぶりであった。
発表では、自らの実務/テストで直面している課題をベースにその解決策を組み込んだチームや、仮想のプロジェクト条件に沿ってテストマネジメント~テスト設計までを一貫して対応したチーム、利用者の性格分類からのテスト設計などが紹介され、20分という限られた発表時間にそれぞれのチームの特徴・工夫を把握することができた。昨年に比べアプローチ方法・内容のレベルアップが感じられ、このコンテストの意味・意義を再認識した。
最後に運営委員会より次回もテスト設計コンテストを開催することがアナウンスされた。
今後も各地域でさらに当コンテストへの参加チームが増え、自らの取り組みとお互いに競い合う中でテスト設計の腕を磨いていくことを期待したい。
黎明期からこれまでIT業界を牽引し、強い影響を与えてきた岸田氏が、農耕→工業→情報などの社会の変化、業界や開発方法論などの変化から、ソフトウェア開発の捉え方の変化と芸術の共通点から言えること、そしてテストエンジニアの役割を提言した。
以下に筆者が感じた要点を列挙する。
時間の関係で終了間際にスライドと話が駆け足になり、最後まで詳細を聞けなかったのが残念であった。
エンジニアリングとは何か、テストやテストエンジニアの価値はどこにあるのか、価値を提供するために何をしていく必要があるのかを問いかけ、一緒に考え、提言を提供したパネルであった。
その進行過程は非常に混沌としている印象ではあったが、今回のシンポジウム各セッションで伝達されていた大事なメッセージを裏うちする言葉や提言がしっかり存在していた。以下に筆者が重要と感じた、パネリストからのコメント・提言を示す。
今回のシンポジウムを通じて感じた問いかけは「テストとテストエンジニアの価値は何か?」である。これまでテストでやってきたことを振り返りつつも今一度"テストを通じて何を提供することがお客様や関係者、そして業界・社会の役に立つことになるのか"を考える機会としたい。そして価値提供のために必要なノウハウを身に付ける原動力にしたいと思う。
実行委員長:長谷川氏の最後の挨拶にもあったように、それぞれの受講者が各セッションで受け取ったことを一つでも活用し、これまでの運営に一工夫加えることで関係者に価値を提供し、笑顔が増えていって欲しいと強く感じた。
もちろん私も一緒に取り組んでいくことを記して報告を終えたいと思う。
記:安達 賢二(JaSST北海道実行委員会)