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2011年1月25日(火)~26日(水) 於 目黒雅叙園
今年も東京からJaSSTが始まった!
延べ1600名の参加者が2日間で訪れたという今回は、当日券も用意されるというありがたい配慮があった。ぎりぎりまでスケジュール調整がつきにくいなどという理由によりこれまで参加できなかった方々が、参加する機会を得られたのではないかと思っている。
基調講演は、「はじめて学ぶソフトウェアのテスト技法」の著者としても有名なLee Copeland氏が、「Testing Trends and Innovations」と題して、プロセス、アジャイル、教育、ツール技術、プロセス改善という5つの点から様々な有益なトレンド情報やイノベーションに繋がるポイントを教えてくださった。そして、未来のイノベーションとしてAlan Kay氏の「未来を予測するためにはそれをつくりだせばよい」という言葉を紹介したうえで、「皆さんがイノベーターとして活躍してほしい」というメッセージをくださった。
書籍、カンファレンス、ワークショップ、そしてWeekend Testersのようなコミュニティ活動を通じて私達が成長し、イノベーターとして活躍し、Copeland氏とともにワールドワイドなテスターのコミュニティを作れたら素晴しいと思う。
1日目の午後からはセッションが複数並行で開催される。チュートリアルや論文発表、スポンサーによるテクノロジーセッションだけでなく、パネルディスカッションあり、ワークショップあり、CEDECとのコラボセッションありと、今回も魅力ある発表や企画が目白押しで、泣く泣く聴講を断念したセッションも多かった。東京開催の度にどのセッションを聴講するか迷うという声はよく聴かれる。
そのような参加者の声を受けて、2日目の午後に「振り返りセッション」が登場した。各セッションの様子が伺えるのはとてもありがたかった。欲を言えばもうすこし深く、セッションのポイントやこぼれ話などを伺えたら、なお嬉しく思う。
新しい試みも多く見られた。
ネットワークランチは昨年より開催されているが、今年は更に展示ブースツアーが開催された。質疑応答も交わされるなど、展示ブースは例年以上に盛り上がっており、1人ではなかなか立ち寄る勇気が出なかった参加者にとっても、出展されているスポンサーにとっても、有意義な取り組みだったと思う。
2日目に開催されたテスト設計コンテストには6組のエントリがあり、成果物は、セッション聴講できない参加者も閲覧することができる状態でパネル展示された。来年も開催していただけるなら、ポスター発表のような形式で1日目から展示されることを望みたい。
招待講演は檜原弘樹氏による、昨年注目を浴びた小惑星探査機「はやぶさ」の開発プロセスの紹介。はやぶさのような高信頼性システムの開発は、宇宙環境への対応や投資効果を得るための高信頼性設計を必要とするが、開発プロセスは「最初から正しく作る(テストできるものを作る)」「見逃さない」「リスクに備える」「コンティンジェンシ(緊急時)に対応する」という4つのポリシーを持つ、オーソドックスなものだと言う。また、関連性の強い民生組込み機器との技術交流や、コミュニティを利用して異業種の技術を吸収するといった、活発な情報交換を行っている点は驚きつつも素晴らしい点であると感じた。
クロージングパネルは従来のパネルとは異なり、会場全体でディスカッションを行う形式がとられた。まずは「テストを省くとリリースが間に合う状況があったとしたら、そのテストを省いてもよいのだろうか?」という質問から、省いてもよいという理由について、更にはバグ発生の収束をもってテストを終わらせてよいのか、という議論がなされた。
Copeland氏からは「ソフトウェアは納品してもテストは続けることができる」「たとえ不具合が収束しても、品質はまた別。テストケースが悪いかもしれない」というアドバイスがあり、会場からの意見のまとめとして「収束を判断するよりリスクを判断する」という結論に。次に、「正社員テストエンジニアに高い教育投資をし、派遣のテストオペレータに単純作業をさせるのは公正なことだろうか?」という質問から始まり、テストに興味が無いエンジニアのモチベーションを上げるためにはどうすればよいか、という議論がなされ、「大事なことはみんなで教え合うこと」「テストは愛すべき技術だということを伝えよう」といった結論を導き出した。
パネリストの意見だけでなく、様々な環境、様々な立場の方々の意見を聴けたことがとても面白く、また発散しすぎないようにモデレートしていた点も素晴らしく好評を得ていた。
クロージングでは善吾賞とベストスピーカー賞の表彰が行われた。善吾賞に輝かれたのは喜多義弘氏、片山徹郎氏、冨田重幸氏による論文「プログラム自動可視化ツールAvisを利用した結合テスト実施のための実行経路抽出手法の提案(情報処理学会論文誌 Vol.51,No.9,pp.1859-1872, Sep 2010.)」。この論文は、以前JaSST'09 Tokyoに投稿し不採録となったが、そのときの査読コメントを参考に練り直した結果今回の受賞につながったという。ベストスピーカー賞に輝かれたのは「リスクベーステストの考え方と品質表現の実際-テストでのモニタリングプロセスを中心にリスクベーステストを考える-」を発表された永田敦氏。この論文もまた、 まとめる過程で多くの方々と議論を重ね、指摘を受けてきたという。喜多氏、永田氏、お二方の受賞コメントから、諦めないこと、多くの方々と意見交換することの大切さを教えていただけた。
JaSST東京は毎回全国各地から参加者が訪れる。そして他の地域のJaSSTにも各地から参加者が訪れている。地域間の交流が活発になっていくのはとても嬉しいことだと思う。JaSST東京にJaSST関西の出張企画が登場しているように、各地で他地域の出張企画や地域間のコラボレーション企画が見られ、益々面白くなるとよいのでは、と期待している。
(記:坂 静香)