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2015/4/13
報告者 / 湯本 剛 (ASTER)
2015年04月13日、私は、オーストリアのグラーツで行われた InSTA2015 (International workshop on Software Test Architecture 2015) に運営側の一人として参加しました。また、投稿した論文が採択されたのでその発表も行いました。本稿では、当日の様子をご紹介いたします。
私は恥ずかしながら、今回のワークショップで訪問するまでグラーツという場所をしりませんでした。グラーツは1999年に街の中心部がグラーツ歴史地区として世界遺産に登録されていることもあり、町並みがとても素敵なところでした。街の中心の高台に時計台があるのですが、そこに上ると街が一望できます。そこからみる街全体のオレンジ色の感じがとてもきれいでした。
InSTAはテストアーキテクチャについての知見を高めあうためのワークショップです。ICST2015(8th IEEE International Conference on Software Testing, Verification and Validation) の併設ワークショップとして開催しました(*1)。ICSTはIEEEが主催する世界でも有数のソフトウェアテストに特化したカンファレンスです。ICSTでは技術者や研究者同士が特定のトピックに集中して議論し、新しい取り組みを参加者間で協調してくための場としてワークショップをホストしています。ASTERでは、智美塾やテスト設計コンテストといったテストアーキテクチャ設計について技術者間の知見を高めあう活動を続けていますが、国際的にこの活動を広めていく目的でInSTAを始めました。今回、ASTERでは、InSTAをICSTへ提案し採択されたため、ICSTのワークショップという位置づけで開催する運びとなりました。
(*1) ICST2015: http://icst2015.ist.tu-graz.ac.at/?page_id=380
以降、当日の内容を簡単に紹介していきます。各発表の内容を詳しく知りたい方は、当日の発表者の資料をInSTA2015のサイトからダウンロードできますので、利用いただければと思います(*2)。
(*2) InSTA2015 Program / Presentation Download:
https://aster.or.jp/workshops/insta2015/program.html
Program Co-Chairの増田さんの司会でInSTAが始まりました。最初はGeneral Chairのにしさんから、InSTAの紹介、テストアーキテクチャの概要説明、今回の採択論文の位置づけといった話がありました。今回のInSTAへの論文投稿数は 11本で6本が採択されたそうです。テストアーキテクチャは研究分野としても未開の領域であり、沢山の重要なテーマが潜んでいると話されていました。
基調講演は著名なテストの研究者であるエリクソン社のSigridさんからみたテストアーキテクチャの意義、定義、よくある勘違い、今後の展望といった話でした。Sigridさんは、テストアーキテクチャはテストケースを整理した「単なる構造」ではなく、テストシステムの特性を上手く取り扱うことが出来るようにするものだと解説していました。「正しく課題を解決できるテストアーキテクチャ」の定義があり、アーキテクチャを理解し評価できるようになっていくべきだと締めくくっていました。話の内容は斬新というより、納得感が高まるものでした。海外にもテストアーキテクチャについて的を射たことを語る人がいることがわかったので非常に有意義でした。
この後からは採択論文の発表となりました。
Vipulさんの論文は、システムテストにて作るテストスクリプト(テストシナリオに手順までかかれたもの)の可視化についての研究です。テンプレートも無く、各自がバラバラに作ったテストスクリプトが流用され続けるとテストの内容を理解しあうことが困難になるため、書かれている既存のテストからパターンを発掘し、重複を見つけたり、理解しやすくするために構造を見直したりといったことをどうやるかについて研究を進めていて、その成果の発表となっていました。私自身の研究と通じる部分があり参考になりました。
にしさんの論文は、VSTePをベースにした、テストアーキテクチャの設計原則についての提案でした。良いテストアーキテクチャのための 10の設計原則があり、それらをVSTePのコンセプトで例示していくというものです。ソフトウェア設計での重要な原則である凝集度と結合度がテストアーキテクチャにも当てはまるという話は興味深く、もっと議論をさせてもらい、私自身のテスト設計の手法にも取り入れられるか考えていければと思いました。
植月さんの論文は派生開発での効率的なテストの研究です。変更前のソフトウェアと変更後のソフトウェアからツールを使ってテストケースを作り、変更前のソフトウェアには変更後のテスト対象から作ったテストケースを実行し、変更後のソフトウェアには変更前のテスト対象から作ったテストケースを実行し比較することで、既存部分の確認が効率よくなるというものです。シンボリック実行のツールを使うことで実現可能になります。回帰テストをいかに効率化するかはとても大事なテーマであり、現場での活用の必要性を強く感じました。
増田さんの論文は、テストベースとなる仕様書の意味解析をしてデシジョンテーブルを作成しテストケースを作るという研究です。先行研究として自然言語処理の成果を応用するというものでした。他分野の研究を取り入れるという発送が興味深く、また、テスト設計のほかのアクティビティとつなげていくといった応用ができる可能性があると感じました。
Dominicさんの論文は、ALICE 実験(ビックバン直後の宇宙初期に存在していたとされる物質相 を生成し、その性質の解明を目的としている実験)にて使用する加速器のデバイスドライバ開発にて行っているテスト駆動開発についてです。デバイスドライバの開発にてTDDを行う際の工夫と、その効果に関する研究発表でした。私にとっては未経験の技術分野でしたので興味深かったです。
私の論文では、私の提案しているテスト分析手法(通称はゆもつよメソッド)を実施する際にデータフローのパターンを使う方法を提案し、提案した方法の実験の計測結果とその考察を発表しました。私の研究では、効果を計測するための実験データとして智美塾の議題として利用した「本当のテストプロジェクト」で実際に設計し実行したテストケースを利用しました。英語での発表はまだ慣れていないため、とても緊張しました。
Program Co-Chairの増田さんがモデレータとなり、Sigridさんの基調講演、及びInSTAの今回のワークショップで採択された6本の論文について意見交換をしました。意見交換の基点として、オープニングにてにしさんが示した「基調講演と6本の論文の位置づけ」を利用していました。参加者全員が各自の意見を述べて、それに対する他の参加者から意見がでるといった活発な意見交換となりました。
InSTAの運営の一貫として、ワークショップ参加者との技術情報交換を目的とした食事会を企画しました。私はSocial eventの準備担当であったため、ICSTの運営側に連絡を取ってお店の予約をお願いしたり、当日会場に早めに行きお店と段取りを確認したりといったことをしました。グラーツに着くまでどのようなお店かわかっていなかったのですが、とても良い雰囲気のオーストリア料理のレストランを予約していただいていました。
ワークショップ終了後、発表者と参加者でお店に移動し、おいしい料理とともにテストアーキテクチャに関して語り合いました。テストアーキテクチャ以外の話ができるのもSocial eventならではの楽しさです。ひとつエピソードを紹介します。基調講演者のSigridさんは日本の映画では伊丹十三監督の「タンポポ」という映画が大好きで、いつか日本に行き、ああいうラーメン屋に行ってみたいそうです。再来年のICSTが日本であることを伝えると、「ぜひとも行きたい」と話していました。
当日の内容は以上になります。当日の様子がすこしでも伝われば幸いです。私は懇親会にてICSTのステアリング委員のYvanさんと、テストアーキテクチャについてどう思ったかといった話をする機会を持てました。Yvanさんは「テストアーキテクチャは未開の領域だが、非常に大事だと感じたのと同時に、現実の要因を考慮する必要があり研究者だけで研究を進めるのも難しいだろう。」といっていました。だからこそ、この活動をもっと認知してもらい多く世界中の人たちが知見を交換する場が必要だと思うというASTERの意見にも賛同してもらえました。このような場をASTER主体で作れたことはとても有意義だと思っています。また、その場で自分の研究論文が採択されて発表することが出来たことを光栄に思います。ICSTは再来年に日本で開催予定です (*3)。そのときにはもっと多くの論文が投稿され、多くの参加者へ日本からの技術発信と世界との技術交流が出来るようになればと思います。
(*3) ICST2017(2017年に日本で開催されるICST2017の公式サイト):
https://aster.or.jp/conference/icst2017/index.html