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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2020 関西

2020年9月12日(土) 於 オンライン開催

ソフトウェアテストシンポジウム 2020 関西
「テストについての分解・再構築」

はじめに

当イベントは Zoom + Slido によるオンライン開催である。開始時間前は、Zoom で軽快な音楽と画像が流れていた。そして、実行委員の武林氏によるオープニングが始まった。初のオンライン開催なので不安で一杯だったが、多くの方々にご協力、ご参加していただいてうれしい、と話した。続いて、今年度のテーマが「テストについての分解・再構築」であること、本日様々な情報を得て、日頃の業務に活用していただきたい、と締めくくった。

基調講演

「テストの視点でシステムを分析する」と題して、JaSST関西の実行委員などを務めているソフトウェアテスト会社のメンバー3名から発表があった。概要は以下の通りである。

セッション概要
望月 信昭 氏(ウェブレッジ)

望月氏は、冒頭で「見えないものと取っ組み合う」という副題を紹介した。ソフトウェアの動きは目に見えないため、テスト視点でモデル化し、見えるようにすることをお勧めする、と述べた。また、その時にモデル化は対象理解のための分析であり、テストケースを考えるためではないことを意識することが大切である、と補足した。そして、どの技法を使えばいいのか良くわからない場合は、とにかく使ってみよう、技法の理解も進み、対象に関して気になるところが出てくる、と促した。最後に、例題として、リスト表示画面を取り上げ、状態遷移図を示した。

堀川 透陽 氏(ベリサーブ)

堀川氏は、テスト/QAは顧客の背景を理解し、求められるゴールを導くことが大切である、と述べた。要件定義工程からテストチームが参画する「シフトレフトテスト」では、ビジネスモデルキャンバスなどのビジネスフレームワークを活用し、顧客をビジネス視点で知ることが大切である、と続けた。実践事例(1)では、要求仕様記述手法(UDSM)によるテストチーム主導の要求仕様作成を紹介し、実践事例(2)では、不具合分析から始める仮説立証型のアプローチが紹介された。

江添 智之 氏(バルテス)

江添氏は、テストの目的として、開発の視点とユーザーの視点の2つがあるが、現在のソフトウェア開発は「サービス型」志向になり、仕様や要求が不明確な状況で開発・テストを進めざるをえない、と語った。その場合、「何ができればOKか」を上流工程から考える、つまりテストを意識した要求分析を行うことが必要と続けた。そして、上記のような場合に採用されるアジャイル開発に照らし合わせ、要求分析は、要求(プロダクトバックログ)の「完成」の定義と受入条件に該当し、特に受入条件は、テスト観点を活用して導き出していくと良い、と語った。

筆者感想

望月氏の発表からは、テスト技法を積極的に活用して開発対象物の理解とテスト技法の理解の双方を深めることができると気付いた。
堀川氏の発表からは、テストチームがビジネス戦略に関する情報を活用することで、プロジェクト全体への良い影響があると知った。
江添氏からの発表では、アジャイル開発での品質管理では受入条件にテスト観点の考え方を活用することが有効であると理解できた。

セッション
「『スペックアウト』でソースコードを理解しよう」
池田 祐一 氏(AFFORDD関西部会)

セッション概要

池田氏は、冒頭で派生開発推進協議会(AFFORDD)の紹介をした。そして、テーマであるスペックアウトを説明した。スペックアウトとは、ソースコードから仕様を読み取り必要な設計書を起こす行為である、と語った。利点として、仕様を図や表などの形に変えることで理解が深まり、設計の背景もわかる、と続けた。スペックアウトは、派生開発プロセス(XDDP)では、変更プロセス上に位置付けられるとし、大阪の路線図に模して説明された。次に、ケーススタディとして、池田氏が昔開発した Windows アプリケーションを題材として解説された。9つのステップに沿って、ソースコードを調査して様々な設計書を起こす様子と、作業時間の目安も示された。最後に、ソースコードしかない状態(砂漠に例える)を広げないように注意し、スペックアウトを実施して調査した情報をベースに、新規設計時に設計の落とし所がわかるようにすることが大切である、と締めくくった。

筆者感想

スペックアウトのやり方をわかりやすく解説していただいた。Windows アプリケーションは筆者も昔作ったことがあるので、表示されたソースコードに馴染みがあり、興味深く聴講した。仕様書が整備されていない現場で状況を打開するために有効な方法だと思った。

招待講演
「ゆもつよメソッドによるテスト分析の成り立ちと狙い」
湯本 剛 氏(freee / ytte Lab)

湯本氏は、冒頭で講演内容について話した。実行委員からは、ゆもつよメソッドの成り立ちを話して欲しいと依頼があったそうで、これまであまり話していないため、引き受けたとのことである。成り立ちの前に、テスト分析と設計の必要性について、例題のアプリケーションを用いて説明された。次に、分析と設計の違いについて、ソフトウェア業界以外の例を用いて説明された。次に、ゆもつよメソッドが紹介され、テスト分析が特徴的であり、自身がテストリーダで、メンバーと共にテストを実施していたころの経験が反映されていると解説された。ゆもつよメソッドのテスト分析の特徴からみた手法の変遷として、このテスト分析手法の3つのポイントが示された。

  • ドキュメントフォーマット(2000年頃、テストリードの時に考案)
    • 複数人でテスト設計するときのレベルを合わせるために考えた
    • テスト分析マトリクスで複数の人が作ったテスト分析の結果を鳥瞰できた
  • 論理的機能構造 → テストカテゴリー(2006年~2010年頃、コンサルタントの時に考案)
    • テストカテゴリーになるべきものを決めるためのモデル
    • メンバー全員が参照モデルを深く理解する必要はない/テストカテゴリーに対する認識合わせが最も重要
  • 仕様項目特定パターン(2014年~2017年頃、大学院生の時に考案)
    • 仕様項目の抽出を技法的にしたいのが目的。実用にいたってない部分あり

また、テスト分析からテスト設計への具体的な流れについて解説したスライドは、講演では説明を割愛するので後日資料を見ていただきたい、と補足した。

筆者感想

ゆもつよメソッドは、湯本氏が長年実践を通した考察から進化し続けていることがよく分かった。一般的には、実践することが目的になってしまいがちだが、メソッドを進化させるという課題を常に持ち続けている姿勢に感動した。筆者はアジャイル開発をテーマに活動しているので、日々仕事をする上で、常に課題を設定しようと思った。

筆者感想(全体)

今回はオンライン開催で、講演部分は事前録画したものを上映し、Q &Aは投稿されたものを講演者が当日回答する形式だった。実行委員の方々の念入りな準備により、終始スムーズに開催されていたと感じた。これからも、オンラインを活用した多様な開催形態が予想されるので、今回の実践知を私も活用したいと思った。内容に関しては、テスト分析とテスト設計に関するものが多く、普段テストに従事していない筆者にとっては、どの講演も新鮮で大きな学びになった。

記:和田 憲明(ASTER)

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