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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2019 北海道

2019年8月30日(金) 於 札幌市教育文化会館

ソフトウェアテストシンポジウム 2019 北海道

はじめに

今回で14回目となったJaSST北海道は、快晴の中、札幌市教育文化会館で開催された。
テーマは「マインドアップ ~テスト設計技法を知っていたら十分と思ってないかい?~」である。
マインドアップはマインドマップにあやかった造語で、"知力の向上"、"前へ向く気持ち"という思いを込めたとのことである。この言葉が表す通り、全体を通して「技法は勉強したけれど、どう活用すればよいかわからない」という悩みを抱えている方に対して、活用のためのヒントや、マインドをアップするためのヒントがちりばめられた内容であったように思う。

基調講演
「テスト設計技法、その前に
~フェイスアップ、次にビルドアップ、その先にマインドアップ~」
池田 暁 氏(ASTER)

概要

テスト研修を受けたあとに参加者が陥りがちなこととして、テスト設計技法は理解したが、使いどころが分からないためうまく活用できないという問題がある。
そもそもなぜテスト設計技法を使用したいのか、テスト設計技法を活用しようとしたときに起こりがちな問題はどんなものかというところから話が始まり、どうすればテスト設計技法が使えるようになるのか、マインドアップができるのかということが話された。

第1部 Faceup 顔を上げて、その前を意識

テスト設計技法を使う前に行う、テスト分析、設計の重要性についての話と、どのような手法があるかについて話をした。

テスト分析の作業の勘所としては、

  • 知らないものはテストできないので、どういうものを作ろうとしているかイメージをつかむ
  • テスト設計の手がかりを作る
  • 仕様の抜け漏れを発見する

とのことだった。
また、仕様が理解できない場合や、抜け漏れが多い場合は、開発者に見直し要請をすることの必要があることも話があった。

テスト設計の作業の勘所としては、

  • テスト観点の発想
  • 何をテストするか
  • どうテストするか

これらを発想できるか重要であるが、洗い出すだけでは不十分で、剪定、整理をすることが重要とのことだった。

分析設計方法として、マインドマップを活用する方法の紹介に加え、マインドマップ作成前に三色ボールペンを用いて仕様書をチェックする方法も紹介された。また、マインドマップを利用した際の注意点として、マインドマップは発散のためのツールであるので、収束プロセスは別の手法を用いたほうがよいとのことだった。

現場で適用する場合、初心者にいきなり「マインドマップでテスト設計をして」といっても敷居が高いため、その課題の解決策として初心者向けの適用ステップ例が紹介された。
適用ステップはCG製作プロセスをもとに

  • モデリング(自由にテスト観点を発想)
  • レンダリング(エフェクト、フィルタの実施)
  • カメラテスト(プレビュー)
  • ファイナライズ(組織で定義されたフォーマットに移しかえ) 

というステップで進めるとよいとのことであった。

第2部 Buildup 意識を高めよう、鍛錬しよう

第2部では、テスト設計技法を使えるようになるためのガイドとなる情報が話された。
まず、なぜソフトウェアテストを行うのか、テストが十分に行われなかった場合の影響についての話があり、テスト設計技法を活用できることを目指し鍛錬するために活用できる制度、コミュニティについて話があった。
また、テスト設計コンテスト出場者の資料も勉強するために活用できるとのことだった。
コミュニティの関係者が会場にたくさん来ているので、是非話しかけて質問してみてほしいとも話していた。

筆者感想

テスト設計技法を習ったがどこで使ったらいいのかわからないという悩みは筆者の周りでもよく聞くので、その人たちにもぜひ聞いてもらいたいと思える基調講演だった。
また、190ページの発表資料には成長するための沢山のヒントが散りばめられており、レベルアップしたいテストエンジニアは、この資料に書かれていることを一つ一つ調べて身につけていくと、とても勉強になるだろうと感じた。

事例発表

事例発表セッションは計5つの事例紹介があった。その中で筆者が聴講した2つの事例紹介について記載する。

【事例紹介】
「チームスピリットのアジャイル開発における品質保証~チームの形成から現在まで~」
生井 龍聖 氏(チームスピリット)

チームスピリットでのチーム形成を「形成期」「統一期」の2段階に分け、現在に至るまでの取り組みを紹介した。

形成期の課題

形成期の課題は、アジャイル経験が少ないメンバーでチームを形成していたため、スクラムがきちんと根付いていないことと、スクラムガイドの経験的プロセス制御の実現で必要な要素の一つである「透明性」が確保できていないことだと考えた。
そのため、生井氏は自らQAとスクラムマスターを兼務し、チームにスクラムを根付かせつつ、インシデント分析・報告やテスト計画の策定を行いながら「透明性」を確保したそうである。

統一期の課題

徐々に人数が多くなるにつれて、

  • 新しいメンバーのパフォーマンスがあがらない
  • チームを分割して新しいチームを立ち上げたい

という別の問題が発生したそうである。

それまで属人化しており新メンバーをうまく受け入れることができなかったため、スクラムチームの仕組化を行ったそうである。
具体的には、スクラムイベントの整理、コーディング規約の作成などを行ったとのことである。
また、キャリアパスを定義し、新しいメンバーにどのような動きを期待するかのすり合わせも行ったそうである。
そうすることで新しいメンバーを受け入れることができ、複数のメンバーで働けるようになったそうだ。

自己組織化と標準化は相反するもののように思われるが、ぶつかるものではなく、守破離の考え方が役に立つ。
スクラムは言うのは簡単だが、実行するのは難しいため、まずは基本を守ることが大事であるとのことだった。

現在のチームの状況は、日本とベトナム2拠点4チームでスクラム開発を行っているそうである。

【事例紹介】
「学び合いを加速しよう!『班のガイドライン』が『守り紙』に進化した!?仕組化の可能性と各種チーム運営への適用提案」
常盤 香央里 氏(グロース・アーキテクチャ&チームス)

概要

WACATEという合宿形式の若手テストエンジニア向けワークショップの実行委員を務めている常盤氏が班のガイドライン(班のメンバー同士がフォローし合いながらグループワークを進めるための仕組み)について発表した。

事例紹介は実際に班のガイドラインを作成するワークを体験しながら進められた。
ワークでは、

  • 参加者自身がどんなチームに所属して、どんなチームに持ち帰るか
  • チームがどんな雰囲気だったら嬉しいか
  • 持ち帰るために何が必要か
  • そのために何をするか

をそれぞれ付箋に記載した。
WACATEではこのワークを班のメンバーと協力しながら進め、班がどのような状態を目指すかを合意したそうである。
そして、合意した内容を見える場所に置くことで、初めてのメンバーとでもスムーズにワークが進められるようになったそうである。

WACATEでは、ガイドラインに「守り紙」という名前を付けたチームが現れたという話も聞いた。
また、活用の方法としては、チームの中の特定のイベントに絞るのも良いということだった。

事例発表についての筆者感想

どちらも筆者の所属しているチームの改善のヒントとなる内容だったため、発表を聞くことができてとても有意義だった。
今回聞くことができなかったほかの事例発表についても、大変盛り上がったという話を聞いたため、そちらも聞いてみたかったと感じた。

ポスターセッション、情報交換会

事例発表とワークショップの間にポスターセッション、情報交換会が行われた。
ワークなどを行うメイン会場とは別の部屋にスポンサー企業やコミュニティによるブースが設けられており、参加者はブースの見学、参加者同士の交流、発表者の方への質疑応答など、思い思いの時間を過ごした。

また、スポンサー企業に関するクイズが用意されており、そのヒントが会場内に隠されていたため、ヒントを探しながらブースを見学する参加者の姿も見られた。

ワークショップ

ワークショップは初級者向けのマインドマップの演習と中級者向けのテストスイートモデルの演習の2つのコースが設けられていた。筆者はテストスイートモデルのワークショップを受講した。

「ちょしてみよう!テストスイートモデル ~技法と観点を活用しやすくするカタマリー(強者向け)~」
(「ちょす」は北海道弁で「触れる、さわる」などの意味)

このセッションは中級者向けと銘打たれた通り、テスト技法についての基本的な説明はせず、モデリングについての説明の後は高度な演習内容をこなしていく、比較的ハードな120分のワークショップであった。
最初にソフトウェアテストの重要性、現在のテスト現場で遭遇する問題について語られた。
テスト開発におけるモデリングについての説明では、テストケースが持つ情報構造をモデルで表したものを「テストスイートモデル」と呼び、クラス図に似た表現でテストケースの集合体(塊)をモデル化したものを「テストカタマリー」と呼んでいるとのことだった。

テストカタマリーの構造の中には、複数の「キガカリー」と「抽象的なテストケース」を持つそうである。なお、「キガカリー」も独自の用語で、テストケースの持つ目的、テスト観点、テストカテゴリと同等と考えてよいそうである。

ワークは世界時計をテストベースとして、チュートリアル形式で行われた。
ワークは1から3まであり、穴埋めの形でテストスイートモデルの作成を体験した。

ワーク1ではテストカタマリーに抽象的なテストケースを記入し、ワーク2ではテストカタマリーに「キガカリー」を追加した。 時間がなかったため体験できなかったが、ワーク3では「上位カタマリー」についての問題が用意されていた。

筆者感想

テストカタマリーが何を目指していて、どのようなものなのかを体験できる内容だった。
資料を見ただけでは理解できなかったことも、実際に触れてみたことで理解しやすくなったように思うが、実際に活用するためにはまだまだ練習が必要と感じた。
今回は120分だったが、機会があればもっと長時間のワークを体験してみたいと感じた。

招待講演
「家具職人のつくり方 ~箸からツリーハウスまで~」
原 弘治 氏 (当麻町地域おこし協力隊/家具職人 /北海道認定木育マイスター)

概要

家具職人の原 弘治氏からは、家具製作、木育、家具職人としての人材育成など多岐にわたる話をしていただいた。

強く印象に残った言葉が多かったため、筆者が個人的に心に残った言葉をピックアップする。

  • 売れるデザインこそが良いデザイン、美しくシンプルなデザインは長持ちする
  • 技術と技能の違い
    スマートフォンは技術の結晶。技術は「人の外」にあるものである
    技能は、例えば鉋をひくこと。素人は職人のように鉋は引けない。「人の中」に技能はある
  • 昔のほうが職人は大切に育てられていた
    昔というのは丁稚奉公をしていた時代の話で、原氏の時代は研修というものはなかった。いまは研修を行うようになってきているそうである
  • 圧迫された環境で人は育たない
  • 「モノ」を作っているのではなく、「家具」を作っている。長く使えるものを意識して作っている
筆者感想

違う業種の方だが、共感できることが多い講演だった。
とくに、「モノ」を作っているのではなく、「家具」を作っているという言葉は強く印象に残った。この考え方の違いはそのまま仕事の姿勢に直結し、お客様の満足度に影響を与えるのだろうと感じた。
違う業界の方の話をじっくりお聞きする機会は貴重であるし、その話の中で自分の仕事に生かせるヒントを得られ、とても有意義な招待講演だった。

全体の感想

技法を学んだ人が活用できるようになるということをメインに据えつつも、各現場の具体的な事例発表や家具職人の方のお話しなどバラエティに富んだ内容だった。また、ポスターセッションでクイズや、アンケートを切り離しスタイルにするなど実行委員の工夫、気遣いも感じられた。
筆者自身も現場で活用できるヒントを沢山受け取ることができ、きわめて有意義な一日となった。

記:佐々木 千絵美(JaSST東北実行委員)

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