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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2016 東北

2016年5月20日(金) 於 仙台市情報・産業プラザ

ソフトウェアテストシンポジウム 2016 東北
「テスト開発しちゃいなよ!~テスト設計との違い~」

第4回となるJaSST Tohokuが開催された。天候に恵まれ、長袖のシャツだと少し暑い。今回のテーマは「テスト開発しちゃいなよ!~テスト設計との違い~」であり、基調講演、ワークショップ、スポンサーによるライトニングトーク、振り返り、が行われた。クロージングセッションの後は、情報交換会(お悩み相談会)が行われた。

オープニングセッション

司会は村上氏。広めの会場だが、ほぼ埋まっており、盛況だ。参加者は60名。会場左側にはプロジェクターで常にtwitterの画面が投影されており、参加者のつぶやきがリアルタイムで見られるようになっている。

オープニングセッションは実行委員長の高橋氏で、「祝4周年!」のコールから始まった。参加者の事前アンケート結果が紹介された。参加者の居住地は北海道から九州まで広範囲に渡ること、開発者が一番多いがQAも多いこと、マネージャもある程度参加していること、など。また、ワークで残ったモヤモヤは、夕方のお悩み相談会で質問して欲しいとのこと。

次に、アイスブレークが行われた。ワーク中心のイベントらしく、最初から隣席の人達とチームを作り、語り合おうということらしい。配布資料の「テストの問診票」に、テストの気になることや悩みを書き、それをネタにチーム内で自己紹介と雑談をおこなった。同じチームになった方々は、テストに強い関心があり、本日のワークが楽しみとのことだ。

(筆者感想)

実行委員長の高橋氏は、ASTER主催のテスト設計コンテストにおいて「テストアーキテクチャ設計が当たり前」になっている現状に驚き、東北においても「テストアーキテクチャ設計」を理解し、実施できる技術者を増やそうと今回の企画が誕生したと語った。その熱意が、他の実行委員にも伝播し、今回のような素晴らしいイベントにつながったのだと感じた。

S1)基調講演
「VSTePによるソフトウェアテストの開発」
西 康晴 (電気通信大学)

基調講演目次

  1. VSTePに取り組む価値のない組織・ある組織
  2. かんたんVSTeP
  3. 一歩踏み込んだVSTeP
  4. VSTePの応用と意義
  5. まとめ

西氏は始めに「みなさんの現場のテストが良くなることが主眼です」と語った。VSTePを覚えようと思わず、自分の現場の問題を解決するものを見つけて、持ち帰って欲しいとのこと。仕事をして面白いのか、楽しいのか、今のままでいいのか、を常に考えて、エンジニアを目指して欲しい。

1番目のパートでは「VSTePに取り組む価値のない組織と価値のある組織」について。現場の人達が自分達のやっている知恵を共有しようと思うこと、現場の人達が自分たちの仕事を改善していこうと思うこと、すなわち「このままじゃダメだと強く思っている組織」は、VSTePに取り組む価値があるとのことだった。

西氏は上記のことを丁寧に伝え、参加者への動機付けを行った。講演時間の半分近くを費やし、自身のコンサルティング経験から秘話などを紹介した。

そのため、2番目のパート以降は駆け足での紹介となった。資料が公開されるとのことなので、詳しくは、そちらを見ていただきたい。以下、印象に残った点のみ記述することとする。

  • VSTePの狙いは「ざっくり考えて図にすると、みんなが合意できる」ことにある。納得と共感が大切。きれいにまとめようと思ってはいけない
  • テスト観点図は、どんなものを書いても良い。おおまかに書き、細かくする。組み合わせたいもの同士を曲線で結ぶ
  • テストコンテナの情報は、一般的にはテスト計画として書かれている。皆で議論しやすいように絵にする。レベルとタイプとサイクルをまとめて取り扱うための受け皿をコンテナと呼んでいる
  • テストフレームは、テストケースのひな型であり、テストケースが作成できるように考え方を整えることである。負荷テストの例では、数値や接続先が異なるだけのテストケースがある場合、テストフレームとしてまとめられると考える
  • テスト観点、テストコンテナ、テストフレームの導入について。現場でやり方を変えられそうなところで一番困っていることから導入することをお勧めする
  • 網羅の根拠となる仕様書は不完全なことが多く、仕様書に頼ってはいけない。VSTePを活用し、皆が「これでいける」と納得、共感することが大切である

最後に、西氏は以下のことを語り、講演を締めくくった。「大切なことは、最初に困ることです。絵を描く、わいわいしゃべる、困ったところだけを改善して、納得する。VSTePの導入は難しい。なぜなら手順がないから。これでいいのかと思う。実はそれが大切で、皆で考える。仕様書を書き写したら負けと思ってください。」

(筆者感想)

とても納得のいく講演だった。特に、序盤の動機付けは説得力があり、参加者の気が引き締まったと思う。実際、西氏の講演を初めて聴講した知人は、「とても耳の痛い話だったが、これからテストを学ぶことに更に真剣に取り組もうと思った」と語っていた。

ワークショップ
「VSTePでテスト開発しちゃいなよ」

午後からは、いよいよワーク漬けである。ワークは2部制で、前半は、テスト観点図の作成、後半はテストコンテナの作成である。

ワークショップ 第1部 テスト観点図の作成

1チームは4~5名。全部で12グループもあり、ワークが始まると、一気に会場が活気にあふれた。各テーブルには、実行委員を中心としたモデレータが付いた。モデレータは事前にVSTePの勉強会を何回も実施して、今回のワークショップに備えたそうだ。たいへん頼もしい。

題材は、圧縮解凍ツール。最初に各自で仕様書を読み、それからチームでテスト観点を出した。私のチームでは、最初は時計回りで一人ひとつずつ話し、付箋を書いて模造紙に貼った。2周したら、あとは模造紙上の付箋を見ながら思いついた人が声を発しながらどんどん付箋を出すことができた。チームメンバは初対面の人がほとんどだが、すぐに打ち解けて、和気あいあいとテスト観点を出せた。普段からテストを勉強するなど、テストに高い関心を持っている人が集まっているからできたと思う。

私のチームでは、「ファイル」というテスト観点に対して、圧縮ファイル(zipなど)、圧縮対象のファイル、フォルダなどにグループ分けし、整理された多数のテスト観点群ができた。チームでわいわいしながら、付箋を足したり動かしたりしたので、納得と共感を実感した。

テスト観点が完璧か、モレがないか、と問われれば自信はない。しかし、モデレータから「最初から完璧なものを目指さず、ステップを進めながら、モレを発見したら戻れば良いですよ」というアドバイスをもらったので、納得して共感できたことで良しとした。

前半が終わり休憩になった。司会から、休憩時間には他のチームを見に行くといいですよと、アドバイスがあった。

休憩時間に、西氏が成果物を見ながらチームメンバに語りかけていた。VSTePを実施する上で参考になる、とても興味深い言葉だったのでご紹介する。

  • 「この観点名は、自然に出てきた言葉ではないですね。」
  • 「文字をそのまま見るのではなく、心で見て観点を導き出して欲しい。」
  • 「まとめにいってはいけない。くだものが熟して自然に落ちる感じです。」
  • 「納得しにいってはいけない。結果として納得するもの。」
  • 「先にヌケモレを考えないこと。仕様書に対するヌケモレがないテストが良いテストとは限らない。」
  • 「自分に正直になれていないのでは。等身大の自分を出すことができれば、もっといいテストができる。がんばって。」
ワークショップ 第2部 テストコンテナの作成

後半は、テストコンテナを作るワークを行なった。テストコンテナを作り、コンテナ間の依存と順序を整理し、前半で出したテスト観点をどうテストすればいいか、を考えた。

私のチームでは、テストコンテナをうまく作成できなかった。どうやらテスト観点の粒度が細かすぎたようである。細かすぎる観点をテストコンテナに載せようとすると、しっくりこなかった。前後のテストコンテナも作成して並べてみたが、チームメンバ全員に違和感があるようだった。すなわち、納得して共感することができなかった。モデレータを巻き込んで議論したり、他チームの成果物を参考に試行錯誤したりしていたら、あっという間にワーク終了の時間になってしまった。とても集中して作業していたことに驚いた。同時に、この感触を実際の現場でも再現することができたら、エンジニアとして一歩も二歩も成長できる、そんな思いを持てたワークだった。

西氏の総括

西氏によるワーク総括コメントは、会場への問いかけから始まった。いいものができた自信があるか、やりきった感があるか。多くのチームがどちらかに手を挙げた。参加者にとって充実したワークだったようだ。筆者もそう思った。

そして、次の問いかけがこれだ。これまでいいテストができたと思ったことはありますか?指名された回答者は、「今日のワークをやってみて、(これまでいいテストができたと思ったことが)ないとわかった」と答えた。人は常に成長し、今日のワークで成長したから、これまでの作業の中から初めて課題が見えてきたのだろうと、筆者は受け取った。

なぜそのテスト観点を思いついたのか、なぜそのアーキテクチャを採用したのか、なぜその順番でコンテナを並べたのか。作業の意図が読みとれるような成果物が作成できれば、納得と共感を得やすくなる。

また、西氏は「ワークしてみて、もやもやしているのは当然で、それは初めてやることだから。自分たちで問題を見つけられなかったことで、自分たちの現場でテストをした時に必ず役に立つことがあるでしょう。ぜひ、技術力を高めて、技術でしゃべるようにしていきましょう。」と語った。

最後に、西氏は「これだけモデレータがたくさん勉強して、深く議論に入った勉強会はないと思います。モデレータおよび参加者の方々、本当にごくろうさまでした。」と、まとめていた。

(筆者感想)

午後丸々VSTePのワークを実施して、テスト開発を深く考えることができるようになったと感じた。冒頭で西氏が述べていた通り、VSTePを学ぶのではなく、現場を良くするために自分がどう役に立てるのかを考えるきっかけになった。

スポンサーライトニングトークス

スポンサー3社によるライトニングトークスが行われた。

(筆者感想)

ライトニングトークスが初めてという方もいらっしゃったが、各社それぞれの主張が伝わってきて、良かった。

クロージング

司会から、以下の話があった。これまでは、テストを漏れなく実施することだけを意識していたが、意図は考えていなかった。現場で、このような取り組みを行うことで、テストがクリエイティブな作業になる。マネージャの方々には、現場に取り入れていただきたい。

副委員長の梅津氏から挨拶があった。テスト観点やテストコンテナを作っていただいて、楽しかったでしょうか。来月からVSTePの勉強会をやろうと思っています。JaSST Tohoku は来年もやります。楽しみにしていてください。

情報交換会(お悩み相談会)

基調講演者の西氏に対して、質疑応答や悩み相談が行われた。質問はとぎれることがなく、1時間で約10人から質問が出た。その中から2つ紹介する。

Q:
VSTePについて。ワークをやればコツがわかるのだが、普及に時間がかかる。読み物があると良いのだが。
A:
VSTePを実際にやってみた人が書籍を執筆する場合は応援するので、ぜひどなたか執筆していただきたい。
(実行委員から)ワークを4~5回ほどやってみたが、やってみないとわからないことがわかった。ワークのあとに西氏の講演資料を読むと良いことが書いてあると理解できる。時間はかかるが、やってみて悩むことが結局は近道なのではないか。
Q:
西氏にとって、うまいテストとは何ですか?
A:
テストを設計していて、「これだ!」とすっきりしたテスト。これでテストは大丈夫だと思うことができれば、ふりかえってうまくいった理由を見つけて自分の知識にすること。

おわりに

「VSTeP」という言葉を聞いたときに、難しそうという印象があり、講演を理解してワークについていけるかどうか不安であった。

しかし丸一日、さまざまな視点から「VSTeP」を聴講・体験して、テストに携わる方々には「VSTeP」などの「思考を助ける道具」が役立つことを理解した。チームで良いテストを実施するために、更には開発側と協調して良い製品を作るために、このような道具を用いて、皆で考え抜き、納得し、共感することの大切さを学んだ会だった。

記:和田 憲明(ASTER)

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