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国際調査活動
 ICST 2014 参加レポート


報告者 / 辰巳 敬三 (NPO ASTER)

はじめに

ソフトウェアテストの国際会議 ICST 2014 (8th IEEE International Conference on Software Testing, Verification and Validation)、及び併設のワークショップにASTERの国際調査活動メンバーの一員として参加しましたので状況を報告します。

ICST 2014の概要

ICSTそのものの概要はICST 2012参加レポートを参照してください。
( https://aster.or.jp/activities/investigation/icst2012.html )
今回は、米国オハイオ州クリーブランドで2014年3月31日~4月4日に開催されました。運営委員長はABB社のBrian Robinson氏が務められました。

開催地の概要

写真/プログレッシブ球場
[写真1] プログレッシブ球場
写真/ICST 2014会場のホテル
[写真2] ICST 2014会場のホテル

クリーブランドは、エリー湖の南岸に位置する米国オハイオ州北東部の都市です。人口は40万人弱で、全米で第45位、オハイオ州内では州都コロンバスに次ぐ第2の都市です。運河や鉄道の起点となる立地であったため全米有数の工業都市として発展し、かつては製鉄業をはじめとしてさまざまな製造業が興りましたが、1960年代以降は重工業が衰退し、金融、保険、ヘルスケア産業などサービス業を主体とする経済に移行しています。
私は、クリーブランドと聞いてすぐにメジャーリーグ野球チームのインディアンスを思い出しました。ここに本拠地のプログレッシブ球場があります。ICST 2014の開催期間の週末がちょうど本拠地開幕試合だったため球場の回りは大賑わいでした。また、クリーブランドにはロックの殿堂(The Rock and Roll Hall of Fame and Museum)というロック界のスター達の衣装、楽器、備品などの記念品を展示した博物館があります。「ロックンロール」という名称が、1951年にクリーブランドのディスクジョッキー(DJ)のアラン・フリードによって名付けられたということから博物館が誘致されたそうです。
ICST 2014が開催されたハイアット・リージェンシー・ホテルもダウンタウンに残る歴史的建築物のひとつでした。1890年に建てられたビクトリア様式のアーケード(The Arcade)をそのまま使って、5階までの吹き抜け空間のある米国最古の屋内ショッピング・モールとなっています。

参加費用

参加費は以下のとおりでした(参加費用には昼食、Conference Reception、Conference Banquetも含まれています)。

  本会議 ワークショップ
IEEE 会員 $841 (早割:695) $225 (早割:180)
IEEE 非会員 $1051 (早割:869) $281 (早割:225)
写真/ICST 2014 参加者キット
[写真3] ICST 2014 参加者キット

本会議参加費の$869(非会員早割)は日本円で約91,000円、ワークショップ参加費の$225(非会員早割、1WSあたり)は約23,000円となります。年々少しずつ参加費が上昇している感じがします。参加者キットは簡素化されました。昨年までは参加者キットのトートバッグやリュックサックはICSTのロゴ入りでしたが、今年はICST 2014専用のナップッサックでなかったのは少し残念でした(まあ、会議の本質ではないのですが)。

開催期間・規模

本会議が4月1日~3日の3日間、併設ワークショップ(7件)が本会議前後の3月31日と4月4日の2日間に分けて開催されました。
参加登録者は、本会議が150名、ワークショップが145名、AcademiaとIndustryの参加者の比率は57%と43%だそうです。両方に登録した参加者の数が不明なため本会議+ワークショップの実参加者合計は分かりませんが、2012年モントリオール:250名(27ヶ国)、2013年ルクセンブルグ:289名(40ヶ国)よりやや参加者は少なかったように感じます。
日本からは昨年のルクセンブルグ(11名参加)とほぼ同規模の10名が参加し、米国、ドイツにつぐ3番目(同数3位)の参加者数でした。

論文採択状況

本会議のメインセションの投稿論文は141本(研究論文-109本、企業論文-33本)だったそうです。論文のレビューは1本あたり3名により行われ40本(研究-32本、企業-8本)が採択されました。採択率は28%で、一昨年の26%、昨年の25%に比べ少し高く(甘く)なっています。
日本からは、本会議でメインセション発表-1件(富士通/早稲田大)、ツールセッション発表-1件(東京大/Nii)、企業発表-1件(ASTER)、ワークショップでA-MOST-1件(東芝)、TAICPART-2件(電通大,JAXA)の合計6件が発表されました。このうちASTERの発表は日本で実施しているテスト設計コンテストに関するものです。

本会議

基調講演

本会議初日と2日目に基調講演がありました。
初日はロッキード・マーチン社の統合/テスト/評価部門長Tom Wissink氏の"Déjà vu - Integration and Test Challenges"でした。同社は米国の航空機・宇宙船の開発製造会社で、ステルス戦闘機のF-22やF-35の開発・製造を行っていることで有名です。
講演では、まず、過去のテストの学びとして、1)システムの大規模化/複雑化に対してテスト方法論/手法が必要であるが活用や教育が不十分、2)最終テスト段階での不具合の検出、3)統合とトラブルシューティングのスキルが鍵、の3つがあげられました。現在は、テストに関する多くの書籍、論文、大学の講座、カンファレンス、ツールが提供されているがまだ多くの課題があることが指摘され、大規模化の例として戦闘機の機能に占めるソフトウェアの割合が、1960年のF-4が8%、1975年のF-15Aが35%(6万行)、1990年のB-2が65%(2百万行)、2012年のF-35では87%に増加していることが示されました。ソフトウェアの品質不良の影響が増大しており、2002年のNISTレポートで米国経済全体で年間595億ドルの損害になっているとの報告があったそうです。
ソフトウェアシステムは、【単純(Simple)でテストも簡単】から現在の【複雑(Complicated)で全てはテストできないので何をテストするかが重要】になり、今後は【複合的複雑さ(Complex)のため結果が予測できず、未知のことをどうテストするかが課題】に進むと述べられました。今後に向けて現在の学びをあげてみると過去の学びと同じようになった(Déjà vu(既視感)に囚われた)というのが講演のタイトルの由来です。
複合的複雑さに対して、Model-based Test & Integrationの適用、未知への対応の研究、singularity(特異点)を超えて進化するテクノロジーとテストとのギャップを埋めることが必要であると指摘されました。解決策としてEmergent Behavior(創発的な振る舞い)とSocial Behaviorのキーワードを示して講演が締めくくられました。

写真/2日目のKuhn氏の基調講演
[写真4] 2日目のKuhn氏の基調講演
2日目の基調講演は米国標準技術研究所(NIST) Rick Kuhn氏の"Combinatorial Testing: Rationale and Impact"でした。Kuhn氏はNISTのComputer Security部門の科学者で、ここ10数年は組み合わせテストを中心に研究されています。組み合わせテストの有効性を示す際に必ず引用される論文(障害は少数の因子の組み合わせで発生することが多い)の著者であり、組み合わせテストツール(ACTS)のプロジェクトのリーダでもあります。
講演では組み合わせテストの手法、適用状況などが紹介されました。適用は着実に進んでおり初日の基調講演のロッキード・マーチン社でもACTSを使ったテストが行われています。組み合わせテストの歴史も紹介され、講演スライドに私の名前と発表年 Tatsumi 1987 が2回も出てきたのには驚きましたが大変光栄でうれしかったです。

セション

本会議3日間を15のセション(Research-40件/13セション、Tools-6件/1.5セション、Industry-2件/0.5セション)に分けて発表が行われました。また、3日目の午後にオープンセションとして"Challenges in Cloud-based Testing"が設けられていました。これは、ホットな話題となっているCloud関連のテストに関するもので、Ericsson(スウェーデン)、Google、イリノイ大からの報告とパネルディスカッションが行われ、翌日に開催されるワークショップTTC(Testing The Cloud)につながる形で議論が進められました。

写真/富士通研究所の徳本氏の発表
[写真5] 富士通研究所の徳本氏の発表
写真/東京大修士・矢藤氏の発表
[写真6] 東京大修士・矢藤氏の発表
写真/電通大・西先生とNEC・吉澤氏の発表
[写真7] 電通大・西先生とNEC・吉澤氏の発表
[Research]

セションは13に分類されており、新しい分類として"Software Product Lines"がありました。プロダクトラインにおけるテスト手法の研究が増えていると思われます。日本からは1件、Industrial Experiences(産業界の経験論文)セションで富士通研究所/早稲田大学の共同研究成果"Semi-automatic Incompatibility Localization for Re-engineered Industrial Software"が発表されました(発表者:富士通研・徳本氏)。

[Tools]

6件の発表とデモがありました。日本から1件、東大/Niiの"ArbitCheck: a highly automated property-based testing tool for Java"を東京大学修士1年の矢藤氏が発表されました。若い人が国際会議の発表に挑戦してくれるのはいいですね!

[Industry]

企業発表が2件あり、この内の1件は電通大・西先生とNEC・吉澤氏による"A Model of Technology Promotion for Industry Through Test Design Contest in Japan"です。日本(JaSST)で実施しているテスト設計コンテストに関する発表で、テストアーキテクチャの概念の説明もありました。どのくらい理解されるか心配でしたが、発表後に興味を持った方が質問にきたり、面白かったと言ってくれた人がいたりとまずまずの反応だったようです。

世界の仲間との交流

写真/Conference Receptionの会場(NISTのKuhn氏と筆者)
[写真8] Conference Receptionの会場(NISTのKuhn氏と筆者)
写真/Receptionのテーブル
[写真9] Receptionのテーブル
写真/Banquetのテーブル
[写真10] Banquetのテーブル

毎回、本会議初日の夜はレセプションが開催されます。今回のConference Receptionの会場はクリーブランドの観光スポットの一つになっているロックの殿堂博物館(The Rock and Roll Hall of Fame and Museum)でした。ICST2014で貸し切りになっており、食事の前に一通り博物館の中を見学することができました。NISTのKuhnさんと一緒にロック界のスター達の衣装や記念品を見ながら、Woodstockコンサートや、Janis Joplin、Jimi Hendrixらの話しをして、国は違うが同時代に育ったのだなと実感でき面白かったです。
食事のテーブルは韓国の大学KAISTから参加したグループと日本から参加したメンバーと一緒になりました。ICSTの日本開催を提案していることや、開催することになったらアジアで協力して何かやろうなど、会話がはずみました。
本会議2日目の夜はBanquet(晩餐会)になっています。会場はHouse of Bluesで、ライブコンサートを聞きながら食事ができるレストランです。いかにもアメリカという感じの会場と食事でした。テーブルは米国、セルビアの方たちと一緒になり、日本のメンバーそれぞれ英会話を頑張りました。
本会議中のコーヒーブレークも交流のきっかけが得られるよい機会です。Nebraska大学のMyra Cohen准教授とは昨年のICSTで知り合い、その際に組み合わせテストの歴史の情報を提供しました。彼女の研究室で組み合わせテストWebサイトを作っており、そこに私が提供した情報と資料を取り込んだとのことで、コーヒーブレークの時間にWebサイトを見せてもらいました。すごくかっこいいクールなサイトでした。

ワークショップ

本会議の前後の2日間に7つのワークショップが開催されました。毎回ほぼ同じワークショップが開催されていますが、今年は新たにTTC(Testing The Cloud)と名付けられたワークショップが加わりました。私は毎回参加している組み合わせテストワークショップ(IWCT)に今回も参加しました。

組み合わせテストワークショップ(IWCT 2014)

写真/Hunter氏の基調講演
[写真11] Hunter氏の基調講演
写真/CTの書籍へのサイン
[写真12] CTの書籍へのサイン

IWCTの参加者数は29名でこれまでで最多の人数(2012年-25名、2013年-24名)となり、ワークショップの会場の部屋が少し窮屈になってしまいました。本会議の基調講演も組み合わせテストでしたし非常に関心が高いテーマになっています。
今回は初めて基調講演のセションが設けられました。講演者はHexawiseという組み合わせテストツールとコンサルでビジネスを展開しているHexawise社のCEOのJustin Hunter氏でした。"Why isn't combinatorial testing far more widespread than it is?"と題して、関心の高いテスト手法ではあるが広く適用が進まない状況と対策のお話しでした。発表論文は12件で、Empirical and Experience Reports(5件)、Modeling(3件)、Algorithm(4件)の3つのセションにカテゴライズされて発表されました。
日本を立つ前、私はIWCTのプログラムに論文発表者として"George Sherwood"という名前を見つけて驚きました。Sherwood氏は1990年頃にAT&T社内で組み合わせテストツールCATS(Constrained Array Test System)を開発された方で、2003年にTestcover.comというソフトウェアテストのサービス会社を起業されています。2008年のSTAREASTソフトウェアテスト・カンファレンスで"Pairwise Testing Comes of Age"と題して講演されたのですが、組み合わせテストの歴史の紹介で直交表をソフトウェアテストに適用したパイオニアとして私の名前(Keizo Tatsumi)が書かれていました。1987年に私が発表した論文がSherwood氏と私をつないでくれた訳で、IWCTの場で直接お会いすることができ感慨深かったです。
また、昨年2013年7月にIWCTの共同運営委員長のNISTのKuhn氏、Kacker氏、Texas大のLei准教授が出版された"Introduction to Combinatorial Testing"を日本から持参し3人にサインしていただきました。テスト技術だけでなく、このような人のつながりも大切にしていきたいと思いました。

おわりに

昨年に引き続き日本からの参加者数が10名おり、発表件数もある程度確保されたことで、ソフトウェアテスト国際会議に安定的に参加できるようになったと感じました。今後も国内で国際会議の状況を報告して、世界の最新のテスト技術の研究状況を共有していきたいと思います。

来年のICST 2015は2015年4月13日~17日にオーストリアのグラーツ(Graz)で開催されます( http://icst2015.ist.tugraz.at/ )。みなさん、是非、論文応募、参加をご検討ください。

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