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イベント報告
ソフトウェアテストシンポジウム オンライン Anemone

2020年6月20日(土) オンライン開催

ソフトウェアテストシンポジウム オンライン Anemone

はじめに

2020年6月20日(土)13:00に、JaSST Anemoneが始まった。今回は、初めてのオンライン開催であることもあり、トライアル的な要素が強かったため、定員は30人での開催となった。プログラムは、ライブで行うテスト分析、そしてOpen Space Technology(以下、OST)という構成であった。

開会の挨拶

実行委員長の星野さん(@halspring/はるすぷさん)による、ちょっと緊張した感じの挨拶からシンポジウムは始まった。オンライン開催であることもあるので、「SNS上での呼び名である『はるすぷ』で呼んでください」との話があり、他の参加者もSNS上のユーザー名で呼び合ってコミュニケーションをすることになった。はるすぷさんからは、今回のテーマが「暗黙知」であること、JaSSTについての説明と、今回の参加者の傾向の説明があった。関東圏からの参加が最も多く、業務の経験年数としては6年〜10年の参加者が多いとのことであった。また、DiscordとCommentScreenというオンラインコミュニケーションツールを使っての開催であり、使い方の説明もしてもらえたので、参加者もスムーズに対応できた。

ライブテスト分析

概要

ライブテスト分析は、かんばんリストシステムのユーザーマニュアルを題材にテスト分析をオンライン上で実際に行うところを参加者が視聴する形式で行われた。ライブであるため台本はないとのことであった。かんばんリストシステムは、JaSST東北実行委員の根本さん(@nemorineさん)の友人が運用していたサイトをJaSST東北のテストライブセッション用に複製したものである。

状況設定

ライブテスト分析を進めるにあたり、以下のような状況設定を前提にすることの説明があった。

  • 開発チームが単体・結合テストを行ったものに対し、QAチームがシステムテストを行う
  • テストベースは仕様書(ユーザーマニュアル)のみ
  • 初回リリースで、テストアイテムはまだ動作しない
  • 納期短め
ライブの状況

上記の状況設定のもと、QAチーム役のはるすぷさんと奥村さん(@pineapplecandy/ぱいんさん・実行委員)がペアになって分析を行い、マインドマップに分析した結果を記載していった。2人の上司役のにし課長(@YasuharuNishi/にしさん・実行委員)がアドバイスを行った。分析は30分を1スプリントと定義し、スプリントが終わると振り返りを行い次のスプリントに活かしていった。スプリントと振り返りのセットは、4回行われた。

1回目のスプリントでは、ユーザーマニュアル全体から「価値への着目」として選んだ機能に対して思いつくことを列挙していき、気になるところ、具体例として書いたこと、考えが行き詰まったのであとで決めること、を色分けしながら考えを深掘りしていた。最初の振り返りでは、ここまでの進め方を参考に、「この後どういう方向に進めていくべきかを考えるように」とにし課長からアドバイスが入った。

2回目のスプリントでは、アドバイスを受けて1回目で選んだ機能に対してさらに深掘りをしていくアプローチをとっていった。起こりそうなバグを思いつくたびにマインドマップに追加していった。スプリントが終了したあとの振り返りでは、QAとしてやるべきことの2つである「バグを見つける」と「ユーザーに価値を届ける」のバランスに着目してみるとよいというアドバイスがあった。

3回目のスプリントでは、アドバイスを受けて、システム全体で意識すべきこととして、非機能要件に着目し、これまでに挙げた観点から非機能要件に該当するものを整理したり、利用するユーザーについて考えてみたりといった分析になっていった。分析の発想は広がっており、「使っているところの風景が見えてきた(振り返りでの本人たちのコメント)」というメリットもありつつ、細かい部分に意識がいってしまいマインドマップに書いてある内容の粒度が合わなくなってくるという課題も明らかになってきた。にし課長からは、残りのスプリント30分で「簡単にできることをすればいいのか、やるべきことをするのか考えるように」というアドバイスがあった。

最後のスプリントでは、残りの時間でやるべきことを話し合いながら、ゴールに向けて足りないこと、余計なことを整理していくことをいろいろトライアルしていった。マインドマップの幹の上部から検討していく、軸を変えてみる、5W1Hのようなフレームワークで抜け漏れをレビューするといった方法を行なっていた。最後の振り返りでは、自身の今後のフィードバックになることが話し合われた。また、「すごく良かったところは、2人で作れたこと。協力して補い合った」という率直な意見に、にし課長からも「いいペアだったよね!!」というコメントがあり、ライブは終了した。

筆者感想

今回のテーマが「暗黙知」である通り、普段はなかなか見ることができない、テスト分析をするときの人が何を考えているかについてライブでみることができたのは貴重な体験だった。実際にライブをおこなったはるすぷさんと、ぱいんさんにとっては、人に見られながらの作業ということで緊張もしたと思う。時間の制約があるため、焦りも出てきたと思うが、とても集中して分析をしていたのが印象的であった。はるすぷさんのプログラマーとしての知識に裏付けられたバグへの嗅覚には感心するところが多く、また、ぱいんさんのゴールを見据えたスプリントをマネジメントしていく意識も素晴らしかった。なにより「ものを作っている感じがした!」という本人たちの感想は、テストが開発するものであることを感覚で理解できているということであり、視聴していた参加者にとってもよい刺激になったのではないかと思う。また、にし課長の適切なアドバイスがメンバー育成という観点でとても勉強になり、現場に持ち帰って活用したいと思った参加者も多いに違いないと思う。

OST

その後はOpen Space Technology(以下、OST)という、参加者駆動のテーマ選定とディスカッションが行われた。OSTにて議論したいテーマがある参加者がそのテーマを付箋に記載、発表し、他の参加者は気になるところに参加してディスカッションをするものであった。「テスト分析、設計、どうやって教育する?」といったライブの続きとなるようなテーマから「ゆるっとテストの話します?」といった軽い気持ちでテストについて語れるようなテーマまであり、それぞれの場に別れて熱く議論がかわされた。

図/付箋に書かれたテーマ(Jamboardというツール上で行われた)

[図2] 付箋に書かれたテーマ(Jamboardというツール上で行われた)

筆者感想

Discordではチャンネルを分けることで同じサーバーにアクセスしていながら別の議論ができるという機能があり、OSTのようなことがオンラインでこんなに手軽にできることが自分にとってとても新鮮だった。筆者はレポートを書くためにどんな議論をしているか色々なチャンネルを少しずつ回っていったが、どこも熱心に議論がされていたのが印象的であった。

さいごに

初めてのオンラインJaSSTであったが、「ライブテスト分析」「OST」のどちらも盛り上がり、とても良いシンポジウムであった。CommentScreenによってTwitterのつぶやきがオンラインイベントの画面上に出てくる仕掛けによって、参加者との双方向にコミュニケーションができていることがわかるので、盛り上がりを感じることができてとても良かった。閉会の言葉にて、はるすぷさんから、今後のJaSST OnlineをどうやっていくかはDiscordで議論をして決めていきたいとの話があった。またJaSST Onlineは場所と時間に関係なく続けることができるので参加者のみんなで活用してほしいとの話もあった。オンラインイベントならではの新しい方向性に期待をしたい。

記:ASTER理事 湯本 剛

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